第13話 討伐依頼
カイユさんが力尽きて寝たぐらいでその場はお開きとなり、宿に戻ると何故かご機嫌ななめなレイルのご機嫌を取りながら就寝した。
翌朝。
ギルド前でルイさんたちを待っていると、装備を整えた二人がやってきた、カイユさんは足取り重く案の定グロッキーな顔をしている。
「遅れて済まない、カイユが起きなくてよ」
「気持ち悪ーい」
ビールジョッキ十杯ぐらい飲んでたし、この世界の酒の品質もあまり良くなさそうだし、そりゃ悪酔いするよ。
鎧は着ているが足元フラフラで髪の毛ボサボサ、本当に大丈夫?
「大丈夫ですか?」
今にも吐きそうなので背中をさすってあげると。
「あぁ、レイジくん、昨日私変なこと言ってなかった?半分忘れて……うっぷ」
え、半分は覚えてろと?半分本心?酒に任せて言いたいこと言うタイプなのかな、まあいいや。
「リグルアさん、魔法でどうにかならないんですか?」
今日一日この調子だとろくな事ができなさそうだし、俺は補助魔法は得意ではないので、補助魔法が得意な彼女ならどうにかできるかも。レイルも補助魔法は得意だが絶対やってくれないだろうし、中立的なリグルアさんに頼るしかない。
「…………できるよ」
マジか、聞いてみるものだな、ちょっと嫌そうだけど。
するとリグルアさんは彼女に近づき、その立派な魔法の杖をかざすと。
「酒に酔った哀れな彼女を救たまえ、回復」
パァとピンク色に光るとカイユさんは目をぱちぱちさせる、詠唱の内容的に絶対詠唱不要な魔法だよね、リグルアさん意外と辛辣。
「治った!ありがとう!!」
一瞬で元気ハツラツなカイユさん、あまりの嬉しさにリグルアさんに抱きついている。
「…………痛い」
鎧が当たって痛そうだけど。
「甘やかさなくていいのによ、ま、ありがとな」
ルイはこのまま冒険に行く予定だったのか、酒癖が悪い彼女を分からす為だろうけど、こういう人って学習しないからな。ずっと気持ち悪ーいと言われるよりかは元気になってくれた方がこっちはやりやすい。
「んじゃ、行こう!」
グロッキーな方が良かったかな?さっきまで顔を青くしていた人は騒がしくギルドの中へと入っていき、クエストの掲示板を六人で確認する。
「レイジとレイルってランクは?」
リーダーになるであろうルイが、どのクエストを受注しようかと顎に手を当てながら聞いてくる。
「俺はAマイナスで、レイルはBですね」
「AマイナスとBかぁ……え?」
震えながらゆっくりとこちらを向くルイさんは顔が青ざめていた。
でも、嘘を言ったところでだし、えへへ、と誤魔化そうとしても無駄だった。
「お前が、リーダーだ……」
肩を優しくポンポンと叩かれた。
「えっ!いや、無理ですよ!ルイさんの方が経験が!」
無言で首を振るルイさん。
「えーっ!?」
その後、なんだかんだで多数決になりルイさんとレイルは俺に票を入れ、俺とカイユさんとレミさんとリグルアさんはルイさんに投票、リーダーは何とかルイさんになった。常識人が多くてよかった。
そして、再び手頃なクエストを受注しようとすると、受付嬢に呼ばれる。
「レイジ・アンサラーさん、ギルドマスターがお呼びです。お連れの人もご一緒にどうぞ」
「え?」
なんだろー?と思っている俺とレイル、その他の四人はなんだか怯えていた。
●
「急に呼んでごめんなさいね、来たついでにちょっと頼みたいクエストがあって」
「はぁ?」
ギルドマスターと仲良くなったらそんなこともあるよなぁ、昨日の今日は予想外だけど。他の人がやりたがらない古いクエストの処理とか、そんなとこだろう。俺とレイルは出されたコーヒーのような飲み物をズズズと啜っているが、ほかの四人は畏まっている。
「そこの四人はお仲間?」
ギルドマスターと目が合ってビクッとする四人、そんなに改まらなくていいのに。しかし、普通の人からしたら雲の上の存在っぽいし、無理もないか。
「利害関係の一致というか、まあ、臨時の仲間ですね」
「なるほどねぇ、『輝鋼の契り』のルイ・クロムセイヴと、カイユ・フェルウィン。『紅の片割れ』のレミ・マリアンドと、リグルア・アイルシェンね」
え、書類も何も見てないけど、まさか全ギルド登録者の名前覚えてたりするの?さすがギルドマスターと言っても、すごい能力だな。
「シドが死んだから一緒に行動してる感じかしら?」
質問がレミさんに向く、意外と容赦ないな。しかし、ギルドマスターなら幾人も死んだ人を見てきたか、ドライになっても仕方ないだろう。
「えっと、まあ、はい、その前からレイジくんとは交流があったので一緒に行動しています」
緊張している、何一つ嘘は言っていないので、アステさんも「そう」と頷くだけ。
『水鏡の雷鳴』
『輝鋼の契り』
『紅の片割れ』
今聞くとなかなかに厨二臭くて、ゾワゾワしてしまうそれぞれのパーティー名だな。
「仲間が多いいに越したことはないわ、早速だけど頼みたいクエストというのはこれ」
紙切れ一枚の受注書をテーブルにスっと置き、俺はそれを手に取る。
『ゴブリンの討伐』
ゴブリンってあの知性の低い緑色の人形の魔物のことかな?それの討伐?内容を詳しく見てみると。
集落を襲うようになったゴブリン集落への奇襲及び殲滅。
と、短いが物騒な事が書かれてあった。
「普通のゴブリンは人は襲わず、人間と関与しないようにひっそりと暮らしているのだけれど、時々人を襲うゴブリンが出てくるのよ。一度人を襲ったら襲い続けるから討伐が必要って話」
なるほど、この世界じゃクマみたいな存在なのかな。それでもなんでこのクエストを俺たちに振ってきたのだろうか。
「今回は規模も大きいし、ここは魔王領でしょ?ゴブリンに保護令は出てないから魔王様は怒らないけど、そもそもゴブリン討伐って人気がないから、急ぎの案件だしレイジ君に頼めないかなーと思ったの」
そういう事ね、確かに魔王領なのにモンスターならともかく魔族の討伐はどうなのかと思ったけど、そこら辺の決まりはしっかりしているみたいだ。
事情は承知した、ランクが上の人はもっと凄いクエストをこなすだろうし、ランクが低すぎるとこのクエストを受けれないのだろう。ゴブリンスレイヤーとかいないのかな?いないか。
「話はわかりました、ルイさん、受けても大丈夫ですか?」
「ん?あぁ、ゴブリンなんざレイジの魔法で瞬殺だろ、手始めにはいいんじゃないか?」
俺に任せる気満々だな、しばらく一緒に過ごしそうだし、連携確認とかでも丁度よさそうだし断る理由もあまりない。
「わかりました、詳細をお願いします」
「ありがと〜、誰も受けてくれなくて困ってたのよ、報酬はサービスするからね」
おっ、ラッキー。
そして、詳細を確認。
ゴブリンの出現場所は首都から南東に徒歩一週間ほど離れた、『テリクリシアの森』。そこには狩猟や野草採取を生業とする人の集落がいくつかあるのだが、ここ二、三ヶ月でゴブリンの襲撃が急増し手に負えなくなっているとの事で、ギルドに討伐依頼が来たらしい。
「注意点というか、気をつけることはありますか?」
「そうねぇ」
アステさんは足を組みなおし、顎をポリポリと少し掻きながら考えると一言。
「人間の女性が大好物だから、襲われないように気をつけてね」
とニッコリと笑って言った。いや、笑い事じゃないよ。
「え、大好物って?」
「そのままよ、性的にも食的にも」
マジか。
性的には薄い本で見たことあるからそんなこともあるだろうとは思うが、食的にて食べるってこと?まあ、ゴブリンといえども魔物だから分からんでもないけど、あのゴブリンが?いや、思っているゴブリンとこの世界のゴブリンが一緒とは限らない、だから誰も受注しようとしないのか。
ヤバい案件受けちゃったな、しかし、受けた以上もう断れないし、俺が何とかすればいいか。
「とにかく、なる早でお願いね、こうしている間にも集落が襲われてるかもしれないから」
「わかりました」
話も終わりギルドを後にし、昼食がてら近くの食堂で今後について話し合うことになった。
〇
ギルド近くの大衆食堂。
「あの、今更ですけど受けちゃって良かったですかね?」
軽く考えすぎて簡単に受けちゃったけど、ゴブリンは女性が大好物と聞いて女性陣はご立腹なのではと恐る恐る聞いてみると。
「そこら辺の低ランクパーティーならともかく私たちなら大丈夫でしょ、スキル使わなくてもタンクの私にヘイトが向くのは願ったり叶ったりだし」
カイユさん脳筋すぎるけどそれで大丈夫なの?捌ききれる量ならいいけど。
「ルイさんもカイユさんも高ランクだし、そもそもレイジくんがいれば大丈夫だと思うよ」
「…………うん」
レミさんや、リグルアさんも特に不満も無い様子。
「レイジなら瞬殺間違いなし」
レイルは何故か自分の事じゃないのにフフンと大きな胸を張っていた。
んー、心配だけどみんな大丈夫ならいっか、みんな俺の事信頼しすぎで胃が痛いけれども。
「では、これからどうしましょうか、ルイさん」
「そうだな、なる早でって言ってたし、徒歩だと時間がかかりすぎる。馬を使うとしてみんな馬には乗れるか?」
俺が飛んで連れてくにしてもこの人数は大変だし、魔力消費がキツそうだ。馬で行くのは賛成だが、乗馬経験なんて小さい時に乗馬体験したぐらいで経験はない。乗れないので手を上げると、どうやらリグルアさんも乗れないみたいだ。
「私が乗れるからレイジは私の後ろで大丈夫ですよ!」
「じゃあ、リグルアは私の後ろだね」
と、俺がレイルの後ろに乗り、リグルアさんはレミさんの後ろ、ルイさんとカイユさんはそれぞれ一頭に乗ることになった。
「じゃ、荷物運び用の馬も合わせて五頭必要だな」
「あ、荷物持ちなら私に任せてください!」
ここぞとばかりにさらに胸を張るレイル、四次元ポケット的な空間保管って超便利なスキルがあるんだったな、荷物問題は解決だ。
「チート過ぎないか?荷物持ち放題なんてよ」
「回復薬には困りませんよ!」
話が噛み合ってるような噛み合っていないような、金に困らなければどんなアイテムも持ち放題だしな、普通のパーティーからしたらチートかもしれない。俺が死なない限りレイルは死なないし、物理攻撃も無効、…………俺よりチートキャラじゃね?
「レイジとレイルには頼ることになるが、これがこれからのパーティだ、名前でも決めとくか?」
名前かー、別に臨時のパーティーだし登録もする必要も無さそうだし、適当なのを見繕うか?
「はいはーい!」
レイルが元気よく手を上げる、もう思いついたの?
「紅雷の契り!」
「混ぜただけじゃん!」
「みっ!」
カイユさんがレイルをヘッドロックし頭をグリグリしている、仲が良くて安心だ、じゃなくて。
別にその名前は俺的にはいいとおもうけどな?
「いいんじゃないか?」
「うん、かっこいいと思うよ」
「…………うん」
ルイさんたちも反論は無さそう。
ということで俺たち臨時チーム改め『紅雷の契り』というパーティー名に決定した。
「まあ、契りということは契りの儀式をしないとな、みんな手を出せ」
ルイさんが手を出すと、その手の甲にみんなが手のひらを順に重ねていく。凄くそれっぽくてなんだか涙出そうになるのをぐっと堪える。
「俺たちの契りはただ一つ、『仲間より先に死ぬな』わかったな」
うん、とみんなが頷く。
しかし、これで終わりっぽくなんだか締まりがなかったのでどうしようと考えていると、レイルと目が合い何故かウインクされた。
やっちゃうよ?知らないよ?ええい、やってしまえ。
バチチチッ!!
「いっっった!!」
「いっつ!!」
「何めっちゃ痛かったんだけど!」
「…………痛い」
「レイジ強すぎ!!」
しれっと雷魔法を発動、そこにレイルが介入し精霊の加護の劣化版、言うなれば『精霊のお守り』を一時的に全員に付与し手の甲に刻印したのだが、雷魔法を使ったせいでその加護の刻印が結構痛かったらしい。
「ちょまっ!善意です!!待って痛い!」
ポコポコとみんなに殴られ、特にカイユさんの鎧の肘打ちは結構痛かった。その後、刻印のことを説明し、今度はレイル共々ハグされてそれはそれで痛かった。




