第12話 臨時チーム
ただの試験官兼受付嬢だと思っていた人は、まさかのギルドマスターだった。それも本部ギルドマスター、この国の冒険者ギルドで一番偉い人だ。偏見だがガタイのいいおっさんがやっているものだと思っていた。
二人で青ざめていると、ギルドマスターはクスッと笑う。
「暫定Bランク冒険者の再試験なんて滅多にないからねぇ、人手不足もあるけどついつい出張っちゃったのよ」
ということは普段は別で試験官がいるのか、そんなわざわざ出張って来なくても、こっちにも心の準備ってものがあったのに。
「で、早速だけど、レイジ・アンサラーくん。君、出身はどこかしら?」
「ぅっ…………」
ヤーティクルですって言おうかとも一瞬思ったが、さすがにそんなすぐにつけるような嘘は準備しておらず、ちらっとレイルを見るも彼女も目を伏せてしまった。ダメだなこりゃ。
「そう、出身地不明っと」
バインダーに挟んだ紙に何やら書き込んでいくギルドマスター、そんな住所不定無職みたいな感じで大丈夫なのかなと目を泳がせていると。
「記憶喪失ってことにしておく?転生者さん」
また血の気が引いた。
「大丈夫大丈夫、転生者なんでこの世界じゃ珍しくないから。でも、この国ではあんまり聞かないかな、言い伝えに残ってるくらい?」
何が大丈夫なのかは置いといて、ギルドマスターは青ざめている俺たちをどうこうしようとは思っていないみたいだ。
「転生者って、な、なんの事ですか?」
手遅れかもしれないが誤魔化してみようとするが、ギルドマスターはレイルを一目。
「異常な強さの人化する精霊、言い伝えによれば転生者そのものも強いけど、仲間にはレイルさんのような精霊がついているらしいからね。戦闘に関する技術はまだまだたまけど」
ダメだった。
やっぱりバレるきっかけはレイルか、かと言って彼女を匿ったりすることも出来ないし、精霊体や精体化でいてもらうのも心苦しい。別に擬人化してる時のナイスバディが見たい訳じゃないよ?決して。
「それで本題、冒険者ランクについてはレイジくんはAマイナス、レイルさんはBってとこかな。試験じゃAマイナス以上は付けれないから、あとはクエストをこなしてランクを上げてって」
え、そんな上のランクでいいの?後で聞いたが、Aランク以上は結構細分化されていて人数は少ないがもっとヤバい人はいるらしい。
「私もそんなに強くないからねぇ、事務作業が得意だからギルドマスター押し付けられてるだけだし。ほら、戦闘スキル高いと頭やばい人とか多いじゃない」
「は、はぁ」
言わんとすることは分かるが、本部ギルドマスターがこんなにラフに話していていいのだろうか。こっちとしてはやりやすいが威厳とか気にしないのかな?てか、弱いって言っても貴方もAマイナスですよね?
あ、事務作業ばっかでクエストしてないからランク上がってない的な感じか?多分。そういうことにしておこう。
「ギルドマスターも充分強いと思いますけど」
一応持ち上げておこう、俺の攻撃で消し飛ばなかったし。
「そんなことないわよ、単発攻撃じゃレイジくんのが圧倒的だよ。あの魔法攻撃を受け流すローブがなかったら消し飛んでたところだよ。戦闘スキルじゃまだ負ける気はしないけどね」
アハハハハ、と笑っている。笑い事じゃないと思うのだが。
「それと、対面の時はギルドマスターなんて堅苦しい呼び方やめてちょうだい、アステでもなんでもいいから」
ギルドマスターに?礼儀は大切にした方がいいと思うのだけど。
「いえ、しかし、ギルドマスターに……」
と、渋るが。
「私はあなたのことを信用する、だから、その証」
そんな感じ?これって俺のスキル『信頼』のおかげなのかな。こうも簡単に信頼されると、俺も少し心苦しいのだけど、彼女の提案を無下にするのも失礼と判断。
「では、アステさんで」
「うん、それでよろしお願いね、レイジくん」
彼女は笑っていたが、俺の隣にいるレイルは笑っていない。滲み出る殺気に怯えていると、アステさんも気がついたみたいで苦笑いしていた。
「それと、話は変わるのだけれど、この街にいる間はギルドの監視をつけさせてもらうから」
およ?今の今信頼するとか言ってませんでしたっけ?
「あ、監視は語弊があるかな。あなたみたいに強い人は良く他国から勧誘があったりするのよね、正規軍しかり非正規軍しかり。だから、見守ってあげるって感じかな?」
「はい……?」
イマイチピンと来ないが、他国のスパイとかに誘拐されたりして無理やり軍に入れられたりしてしまうことがあるのだろうか。それなら、ギルドの保護下に入った方が安心な気もする。
「あぁ、安心して。二人のイチャイチャを覗いたりはしないから。助けが必要なら頼ってってこと」
「ゴホッゴホッ!」
「ーーッ!!」
思わずむせてしまった、レイルは顔を真っ赤にしている。
「あれ?違ったかしら?」
この人容赦ないな!
「大きなお世話です!」
「うふふ、そんな声を大きくしちゃって」
否定したらレイル泣きそう出し、肯定するのも恥ずかしいし、誤魔化そうにもアステさんはニヤニヤしていた、面白いお姉さんだけど距離の縮め方が大胆すぎる。
私生活の干渉は厳に慎むように言っておかないとな。
●
そして、面談も終わり「いつでも気軽に来ていいから」と軽〜く返され、ギルドのロビーに行くとレミさんたちが待ってくれていた。
「お待たせしました、ギルドマスターとの話が長くなってしまって」
「うんん、私達も今来たところ。ってギルドマスターってここの本部の?」
なんかドン引きしていた。なんで?
とりあえず移動しながらかくかくしかじかと事の顛末を話すと。
「ギルドマスターのローブを吹き飛ばした!?」
目眩を起こし倒れそうになるレミさん、慌てて抱き抱えると、レミさんも色々説明してくれた。
そもそも、本部ギルドマスターにはそんな簡単に会えないらしい、忙しいのもあると思うが末端の冒険者なら生涯に1回会えるかどうか、見かけるのが限度らしく話すなんて以ての外だと。それと、ギルドマスターのあのローブは魔宝具と呼ばれる希少な品で、そんじゃそこらの魔法攻撃は容易く跳ね返す装備で、万一即死級の攻撃を食らっても一度は耐えるという装備(効果については噂だが)だったらしい。
てことは即死級の攻撃だったの?あの『炎雷霆衝撃砲』身内には使わないようにしておこう。
なんか悪いことしちゃったみたいだな、気にはしてなかったみたいだけど。宝具収集が趣味なのだろうな、きっと。
「やっぱりレイジくん規格外だね」
「ですかねぇー?」
「逆に怖いけどね」
ハハーと笑っていると。
「私のレイジなんだから当然です!」
と急にレイルが縄張りを主張し始め、俺の腕に抱きついてきた。それにレミさんとリグルアさんは苦笑いしていた。
「あ、宿なんだけど、なんかイベント事が最近あるみたいで四人部屋一つしか取れなくて。大丈夫かな?」
出たでたご都合ハーレム展開、こんな大都会にそんな宿が一部屋しか空いてないとか現実的にありえないだろ、でも、街中にはなんかチラシみたいなのがたくさん貼ってあるし、疑っても仕方がない。
「あ、はい、レミさんたちが良ければ、いでででででで!!」
レイルが抱きついている腕が引っこ抜かれるかと思った。嫌なら嫌と言ってくれ!
「レイルさんは、大丈夫?」
なんかレミさん気を使ってくれてるし。
「『相棒』のレイジは私の隣です」
なんかやけに隠さなくなってきたなー。
レイルに抱きつかれたまま宿に到着、部屋の中は意外と広く、ひと部屋かと思ったらベッドが二つづつある寝室二つとリビングダイニングがある長期滞在用の宿だった。実質二部屋じゃね?気にしても無駄か、広すぎて需要がなかったのだろう、そうだろう。
俺だけと相部屋だとわかったレイルは、すごく嬉しそうにしていたので結果オーライかな。
リビングの二人がけソファー二つに対面で座り、これからのことについて話し合う。
「とりあえず、俺とレイルはちょこちょこクエストをこなしていこうかなと考えていますが、レミさん達はどうしますか?」
そうねぇ、とリグルアさんと顔を見合わせるレミさん、こっちが無理強いすることも何も無いしゆっくり考えてもらった方がいい。リーダーが死んだわけだし、そんな早く立ち直れないとも思うし。
「私は双剣使いでリグルアは魔法使いだからクエストをこなすにも前衛か中衛が欲しいから、せっかくだからルイさん達に頼ってみようかなって思ってたりして」
なるほど、アタッカーのルイさんとタンクのカイユさんがいればチームとしては問題ないだろう、レミさんもスピードがあるし、リグルアさんも補助魔法が得意だから連携が上手くいけばいいチームになると思う。
「分かりました、何かあったら俺も手伝いますから気軽に言ってください」
なんなら俺もチームに入りますよ?なんて事は気軽に言えない、レイルという番犬がいるから。後で寝室に行ったら話し合うとしよう。
「うん、ありがとうね」
●
そして、日も暮れて来たので四人で近くのレストランに行ってみると。
「あ、レイジじゃん」
「おお、奇遇だなぁ」
カイユさんとルイさんが奥のテーブルで食事をしていて、カイユさんはどうやら出来上がっているようでビール片手に顔を真っ赤にしていた、ルイさんはシラフっぽい。
なんだかんだと共に旅した仲だし一緒に食事しようと、ちょうど六人がけの席だったので相席することになった。
並びとしては。
ルイさん、レミさん、リグルアさん
カイユさん、俺、レイル
と言った感じだ、嫌な予感がする。
「またすぐ会えるとは思わなかったよ〜」
うぃ〜ヒックッ、とシャックリを伴いながら俺に肩を組んでくるカイユさん、めっちゃ酒臭いし、レイルよりは小さいが確かに柔らかいところが腕に当たっている。
「こら、カイユ、レイジが困ってるだろ。ごめんな、こいつ絡み上戸でよ」
「うるさーい!ルイも飲めばいいのに!」
そうこうしている間にレイルによってカイユさんから引き剥がされる俺、なんか生きた心地がしない、席をミスった。
「そういえば明日からはどうするの?」
うぃ〜とまた肩を組まれる。
「えっとクエストをちょくちょくこなしていこうかなと」
柔らかいところが執拗に当たってタジタジしているとまた、レイルによって引き剥がされる。あ、そうだ、レミさん言いづらいだろうしルイさんに聞いてみようかな。
「ルイさん、あの、レミさんが前衛が欲しいってことなんですけど、もし良かったら少しの間チームに入れてもらってもいいですか?」
簡単に事情を説明すると。
「ああ、俺らも二人じゃ心もとないなって思ってたところだよ、願ったり叶ったりな相談だ」
お、意外と前向きな反応でよかった、良かったーと胸を撫で下ろすと。
「私は全然おっけー、よろしくねぇ、レイジくーん」
はえ?俺もセットになってる??酔ってるせいかシラフの時は鎧のせいもあり近寄り難い人だっのに、その反動かスキンシップが激しく頬をスリスリしてくる。
「え?」
でも俺レイルと二人でダンジョン探索とか冒険がしたいんですけど?
「レイジくんが一緒なら私達無敵じゃなーい?」
「そうだな、少し上のランクのクエストでも大丈夫そうだ」
なんか話がまとまりつつある、どうしようレイルが不満そうな顔をしている!
「じゃあ早速、明日の朝イチにギルド集合でどうかな」
「よろしくお願いします!」
ルイさんとレミさんで話がまとまってしまった、もう断れない。
(ごめん)
と、レイルにヒソヒソと話すと。
(レイジは優しいので仕方ないです)
半ば呆れられていたが、わかってくれたようでよかった、今日は甘いものでも奢るとしよう。
「ということで!新しいチームにカンパーイ!」
無理やりカイユさんに酒を持たされたが。
「未成年なんで飲めません!!」
丁重に断ると。
「え…………未成年?」
カイユさんの顔から赤みは消え、真顔になっていた。
どしたの?
「レイジくん、何歳?」
「十七です!」
この世界の設定では!
するとなんだかカイユさんは、顔の赤みが戻りだしたと思うとニヤニヤし始めて。
「カイユお姉ちゃんって呼んでーぇ、お願ぁい、私弟が欲しかったのーー!」
「もわっ!」
顔に抱きついてきて、彼女の谷間に顔がすっぽり収まり窒息寸前、バタバタと暴れていると。
「いい加減私の『相棒』から離れなさいっ」
「あーん、お姉ちゃんって呼んでぇ」
と冷静にレイルが泥酔している彼女を引き剥がしてくれた。酔ってるせいにしては欲望を表に出しすぎだ、冷製試着だと思っていた彼女のイメージがどんどん崩落してゆく。
「酔ったらこんなんだ、気にするな」
「あ、はい」
ルイさんも大変だな、申し訳ないが同情してしまった。
ちなみに後で知ったのだが、この国で未成年は十六歳以下らしい。しかし、結局、お酒は二十歳からだったので誰も訂正しなかったとか。




