第10話 「首都タルタリオス」
真っ暗闇の森の中に着地、ここまで来れば巻けたかな?どのぐらい飛んだか分からないけど。まあでも、空間移動した訳じゃないし、どうしても魔力による痕跡は残るだろう、さっさと先を急ごうかなって三人を見てみると。
「へぇ〜ん」
「あわわ〜」
「ん〜〜〜」
地面に倒れて目を回していた、飛ばしすぎたかな?
しばらく起きそうにないし、まず先にステータスの確認をしてMPの消費量とかでも把握しておくか。
『ステータス』
Lv.21
HP170/170
MP270/50+20
『装備補正』
魔法攻撃力+5
HP自然回復量+1
『スキル』
ソーサラーⅢ
ガンナーⅡ
マルチスキルⅤ
魔力制御
自然治癒Ⅱ
信頼Ⅲ
精霊の加護Ⅱ
うーん、意外とMP使っちゃってるな、少し移動して野営としよう。
まだ目覚めそうにない三人をここで寝かしておく訳にもいかない。痕跡が残るので魔法も使いたくないしレミさんを背中に担ぎ、リグルアさんをお姫様抱っこして、レイルはリグルアさんのお腹に乗ってもらってヒーヒー言いながら歩くと、ちょうどいい洞窟というか洞穴を見つけたのでそこに入った。
「はぁ、しんどっ」
野生動物とかもいなさそうなので、そっと三人を地面に寝かせる。そろそろ起きて欲しいものだけど、時間も時間だしそのまま朝まで寝そうだな、なんか息も寝息みたいにゆっくりになってきたし。
まあ、いい寝顔だ。
「まったく」
ちょっと悪態をつきながらも彼女達の荷物を拝借してブランケットのような布を出し体にかけてあげる。火を焚きたいけど魔法使えなしいどうしようかなー、必要なもの全部レイルの空間保管に入ってるんだよねぇ、俺も干渉できるようにならないのかな?個人のスキルだし無理か。
よくよく考えると火を使うのも位置がバレそうであんまり良くない気がした、寒くもないし今のところはいいか。なんかあったら俺が対処すればいいやと、洞窟の入口に座り徹夜の見張りが始まった。
魔力探知は体外に魔力を放出しないのであまり気にする必要はないと思うが、万全を期して一瞬だけ使ってみると近くに魔物はいるがそこまで強いのはいなさそうだ。
そして何時間経っただろうか、遠くの空が明るくなってきてあっちが東かぁ、と思っていた頃。
「いやー、気がついたら寝ちゃってたよ、ごめんねぇ」
声がしたと思うと、ドサッとレミさんが俺の隣に座った。絶妙に肩が当たっている。口調的にちょっとは元気でたのかな?はたまた空元気か、俺が気にしても仕方ないか。
「朝まで寝てくれて良かったんですよ?」
「なに、徹夜するつもり?やっぱ優しいね」
にやにやしながら肘でグイグイと押された。元気は元気みたいで安心した。
「そういえばレイルの事なんですけど……」
「ああ、あの妖精さん?初めて見たからビックリしたよ」
初めて?街には妖精っぽい人結構いたと思うけど、若干違ったのかな?もしかして俺マズった?
「レイジくん、転生者なんだね」
「ふぁっ!?」
マズったみたい、まさかの即バレ、なんでどうして!?
ななななっ、とあからさまに動揺していると。
「図星なんだ、反応可愛い」
「もっ!」
ほっぺを人差し指でぷにぷにされる、この人スキンシップが多すぎる!!
「噂でしか聞いたこと無かったんだけどさ、四つの羽が生えた妖精は転生者のスキルで、普通の妖精とは全然違うって。特に、人間の姿になれるって言うのがね」
そっちかー、この世界の精霊は普通人の姿にならないのかぁー。レミさんは悪い人だとは思ってないけど、これから気をつけるとことしよう。
「どどどどど、どうか内密にっ!」
「わかってるって。でも、転生者かぁー、今思えばいろいろ合点がいくよね、森で迷子だったり異次元の強さだったり」
自分でもわかってるよ、怪しすぎることぐらい。でも仕方ないじゃん?転生も色々あって、突然放り出されるタイプと他の人格に入るタイプ、赤ちゃんからスタートするタイプ。
突然放り出されるタイプはいろいろ矛盾が出るから誤魔化すの大変なんだよ、もうバレたけど。
あー!俺の異世界のんびりライフがぁぁぁー!!
と頭を抱えていると隣でくすくすと笑っているレミさん、笑い事じゃありません!!
「で、首都に行ってどうするの?」
どつするって言われても……。
「お尋ね者になってるみたいなんで、木は森に隠せというのでそうしようかなと」
「へぇ、お尋ね者なんだ。守ってあげたいけど守られる立場だしなぁ〜」
レミさんもいち冒険者としてみたらそれなりに強い人だと思うけど、どうなんだろ。
って!
なんだか更に体を寄せてきて、足と足がくっつき彼女は俺の太ももに手を置いてくる。
ななななはなっ!と再び動揺していると。
「変態」
「ひっ!!」
ドスの効いた声、あからさまに不機嫌で何故か擬人化しているレイルがレミさんの反対側にドシッ!と座り、俺をレミさんから引き剥がした。俺から近づいた訳じゃないですよ?
「ちっ」
レミさん舌打ちしました?なんで!?
「あらレイルさん、まだ寝ててよかったのに」
「いえいえ、私はレイジの『相棒』なので、寝てしまった私を殴ってやりたいぐらいですよ」
オホホホホホと何故か二人で笑い、目には見えないが目元から火花が出てバチバチしているように見える。えっとー、俺はどうしたら?
「もう、起こしてくれたら良かったのにっ!」
なぜか俺の腕を抱き抱えて、その豊満な胸を押し当ててくるレイル、人前だぞやめれ。そうは言っても振りほどくと機嫌悪くなりそうだし、触らぬ神に祟りなし、とりあえずそっとしておこう。
「いや、わざわざ起こす必要も無いかなって」
「『相棒』なんだから気にしなくていいですっ!」
どうしたどうした?やけに相棒を強調するな。
そして、微妙に険悪なムードの中夜が完全に明け、リグルアさんが目覚めたところで朝食を取り。なんだかレイルとレミさんがバチバチしながら首都に向け冒険が始まった。
●
野を越え、山を越え。途中貿易商の馬車列に出会い、既に護衛の冒険者が二人いたが、山賊の出る山を超えるということで護衛がてらタダで首都まで乗せてくれることになった。護衛の冒険者はアタッカーの男性と、タンクの女性、歳は二十代半ばと言ったところか。男性は「ルイ・クロムセイヴ」といい、重厚な鎧を身にまとった黒髪でよく居そうなイケメンのロングソード使い、タンクの人は「カイユ・フェルウィン」といって、上半身は鎧を着ていてスカートを履いていたので声などで女性だとは思っていたが、野営の時に鎧を脱いだ姿を見ると、すらっとしているが出るところは出ていて銀髪の長髪が綺麗な人だった。見とれているとレイルに脇腹を普通に殴られたのは他の人にはバレていないはず。タンクなのに女性って珍しいなと思っただけなのに(棒)。
そして数日後、案の定、山賊の集団に出くわしたが。
「|天雷獄陣《フルグライ・ヴァルケン 》」
ちょうどいい、馬車に揺られながら考えていたなかなかに厨二臭い新しい雷系の範囲魔法攻撃を試す。手のひらに魔法陣を出現させ、呪文というか技名を唱えながらそれを地面に叩きつけると、辺り一面に特大の魔法陣が展開、コンマ五秒にも満たない刹那で魔法陣内に雷が降り注ぎ山賊を無力化した。火力は最小限なので死んではいないはず、人を殺したところで経験値にもならないし、仲間を殺された訳じゃないし殺める気にもなれないしね。
一方貿易商の人やら、ルイさんやカイユさんにはすげーやなんやかんなとチヤホヤされながら、思っていたより早くトータル二週間程で首都に到着した。
首都「タルタリオス」
森が開けると目の前に広がる大都市、高層ビルとかはさすがに無いが地方都市「ヤークル」とは全然違い建物が密集していて、外周に城壁とかも無い一見平和そうな都市だ。
そして、特に怪しまれることも無く、厳重な検問での入門手続きを終えて街の中に入ると。
「おーー、さすが首都」
中世の街並みは相変わらずだが前の街よりは遥かに栄えていて、五階以上の建物も多い。
そして、遠く街の中心部には小高い山のてっぺんに西洋風の城塞が聳え立っていた、あそこに魔王リーシェがいるとか居ないとか。雰囲気的に近づこうとも思わない凄みが溢れている。
そしてなんと言っても人が多い、人酔いしそうだし獣人や亜人もそれなりにいて貿易の中心部らしいし、もうなんかすごい。
「じゃあ、ギルドに行って在留登録しに行こうか」
「在留登録?」
「あ、そっか。説明するね」
クエスチョンマークを浮かべていると、俺の秘密を知っているレミさん、事細かく説明してくれる。
在留登録とは読んで字のごとく、この街に今在留していることを登録しに行くだけだ。ギルドが今どこに誰がいるのかを管理するためで、万が一何か有事が起こった際に招集しやすくする効果もあるとか。招集については少し怖いが二、三百年前に一度招集されたことがある程度なのであまり気にしなくてもいいとか、それフラグでは??
なるほどと頷いていると。
「俺たちはここを拠点にしてるからギルドに用はないからよ、家に帰るぜ」
「しばらく遠出するつもりは無いから何か困ったことがあったら頼ってねぇ」
たった二週間の仲だが酸いも甘いも共にしたルイさんとカイユさん、今生の別れじゃないし。
「はい!また会いましょう!」
「おうよ」
「またね〜」
二人とは結構ラフに別れ、俺たちはギルドに向かった。
『帝国ギルド本部』
ここが、本部……。
ギルドと言うより大聖堂という表現が似合う石造りの大きな建物。入口の上にはギルドの紋章だろうか、それの大きな垂れ幕が靡いていて、レイルと並んで口をあんぐりと開けていると。
「何してるの、いくよ」
「……行きましょう」
レミさんとリグルアさんが大きな扉を開けて中に入って行ってしまった、結構来たことあるのかな?慌てて二人を追いかける。
『受付』
在留登録はすんなり済んだのだが。
「レイジさんとレイルさん、お二人共冒険者ランクが暫定となっておりますが、正式な試験を受けられる予定はありますか?」
ヤーティクルのギルド受付嬢よりもテキパキとした、いかにも仕事のできそうなロングヘアの受付嬢からの質問だ。そうだった、向こうで正式な試験を受ける前にここに来たからな。
「あ、えっと、いつ空いてますか?」
面倒なことはさっさとやっておいた方がいい、ここで予約してしまおう。
「確認しますのでしばらくお待ちください」
なにやらホログラムのような空中に浮いた文字をタップする受付嬢、これは魔法なのかな?ステータス表示みたいなものか。
はえー、と遠目で見ていると。
「後日となると最短で一週間後ですね。本日であれば三十分後から可能とのことですが、いかが致しましょう?」
んー、一週間も待てるような待てないような、善は急げかな。
「じゃ、三十分後に」
「承知しました。手続きを行いますので三十分後にあちらの試験カウンターへお越しください」
「あ、はい」
対面にある試験カウンターを指さされ、そこにはこの受付の人とは真反対印象の黒髪ショートボブでメガネをかけた人が今は誰かの相手をしていた。
そして受付を離れレミさんのところに行く。
「長かったね、どうしたの?」
「なるはやでランクテストを受けろって事だったので三十分後に試験してきます」
「あー、そういえば暫定だったね。わかった、私たちは宿を探してくるけどレイジくんたちの部屋も探しておこうか?」
おお、なんと優しい!土地勘ゼロだからめちゃ助かる!
「いいんですか?助かります!」
「お易い御用だよ。一、二時間もしたら戻るから試験終わったらここで待っててね」
「わかりました」
そうして、話はトントン拍子に進みレミさんたちはギルド本部から出ていった。
するとレイルに肘で小突かれた。
「私の意見も聞いて欲しいなー、と思います」
「あ、ごめんごめん。でもさすがにレミさんと一緒の部屋とかでは無いだろうしさ、大丈夫じゃないかな」
「あんな、隙あらばレイジさんに近寄る泥棒猫の近くにいたくありませんっ!」
「泥棒猫って」
確かにここに来るまでの間、胸を押し付けてきたり、脚を擦り寄せてきたり、スキンシップがすごくてレイルがイライラしていることもあったような。そんなことを言うとカイユさんも結構近かった気がするが。
表面上は仲良くしてるっぽかったけど彼女のこと嫌ってんなー。でも、実害があった訳じゃないし、レイルの考えすぎだと思うけど。それとも俺が無警戒なだけ?
「まあまあ、人との繋がりは大切にしないと」
「むーっ」
ふくれっ面になっているがめちゃくちゃ可愛いレイル、渋々了承してくれた。
そして三十分後。
試験カウンターで受付を済まし、ランク試験への挑戦が始まった。




