第1話 異世界転移
《…………ください》
ん?
《…………選択してください》
なんだ?
知らぬ間に瞑っていた目を開くと真っ白い空間が目の前に広がり、感覚的に仰向けの上体になっていたみたいなので状態を起こすが、空間が真っ白すぎて上下左右がよく分からず目が回りそうだ。
《スキルを選択してください》
さっきからなんだ?若い女性のような声がどこからか聞こえてくるが、周りに誰かいるような気配もない。
頭をポリポリと掻いて辺たりを見回していると。
《スキルを選択してください》
また言われた、スキル?なんの事?てかここどこ?状況が掴めないまま「スキル?」と口にすると、目の前にぶわんとゲームとかでよく見る選択画面みたいな表示が空中に出現した。
ホログラム??謎技術で困惑していると。
《スキルを選択してください》
だんだん声の圧が上がってるような気がするのは気のせいかな?まあ、とりあえず状況把握は後にしてこのスキルとやらを選ばないと先に進めなさそうだな。どれどれ?
「スキル選択?」
そう呟くと『取得可能スキル』という一覧がぶわーと目の前に広がり、なんだかゲームとかで見た事あるスキル名がズラーーーと並んでいる。
「多すぎない?」
携帯会社の規約説明ぐらいスクロールしても終わりそうにない、すごそうなスキルからこんなの誰得?ってスキルまで色々だ。
《この中から五つ選択してください》
え、五つもいいの!?マジで!?めっちゃ悩むじゃん。
はぇーー。といろいろ眺めていると、既に取得済みのスキルがひとつあった。
『精霊の加護』
なんだかモンスターを討伐するゲームとかで見た名前だな、防御力が確率で上がるとか?
「これはなんでもうついてるんだ?」
誰もいないのに呟いてしまうと、さっきから選択しろ選択しろと煩い天の声みたいな声が答えてくれる。
《精霊の加護は転生者の固有スキルです、異世界で生きていくためのあらゆる手助けをします》
はぇ〜、あらゆる助けか。てことは防御力が上がると言うよりは補助系のスキルなのかな?あらゆるが抽象的すぎるけど。
てか、問いかけに答えてくれたな、ある程度質問には返してくれるのだろうか?
「転生者ってどういうことだ、俺は異世界に召喚されるのか?」
ここに来るまでの記憶は全然無いが、死ぬようなことはしていなかったはずだ、てことは異世界の誰かに召喚されているのか?でもそれなら召喚者って言うか、疑問がどんどん増えていく。
《…………スキルを選択してください》
変な間の後に同じ言葉が続いた、スキルに関する質問しか受け付けない感じか…………。
足掻いても仕方がない、さっさと決めてしまおう。
とりあえず攻撃系のスキルで『ソーサラー』と『ガンナー』を取得した、どうせ異世界に行くなら剣とかの近距離攻撃も憧れるけど学校の授業の剣道とかで酷い目にあったからな、多分剣技のセンスは無い、無難に遠距離攻撃しておこうと考えた。
そして三つ目は『マルチスキル』全体的な能力がレベルに応じて上がるみたいだからとっておいて損は無いかな。
四つ目は『回復』自己治癒力等がアップするみたい、異世界に来てまで死にたくないしこれも必要だ。どっかのバカみたいに当たらなければどうということはないを地で行くようなことはしないしできない。
五つ目は結構悩んで『信頼』だ、なんだか関係を持った生命体との信頼度が上がりやすく、裏切りもしなくなるとか。異世界の文明がどのくらいかは分からないけど人間には裏切りが付き物だし、そんなのはゴメンだ、仲間も作りやすくなりそうなのと少なくともボッチは嫌なのでこれにした。
《はぁ…………、スキル『ソーサラー』の固有魔法を三つ選択してください》
あ、時間かかってすみません。機械的な声かと思ったけど実は人が喋ってるのか?神様とか?
《早くしてください》
普通に急かされた。
「え、あ、すみません」
固有魔法つってもなぁ、火水風が普通か?でも普通なのも面白くないしなぁ。火は何かと便利だから絶対だとして、水とかは何かを応用すれば直ぐにどうにかなりそうだし、あ、雷とかもカッコイイな、んーーーー。
三十分後。
「火と雷と風で」
火はベターになんでも使えそうだから、雷は敵の攻撃で強そうだから、風は飛べそうだから、理由的には結構安直だ。
《…………あ、はい、承認しました》
寝てた?すみませんね待たせてしまって。結構抜けてる神様なのかな?
《基本ステータスはランダムとなります、それでは神の御加護を》
「え!?いきなり!?」
目の前が更に白く光りあまりに眩しくて目を瞑った。
●
光が弱まったので目を開けると何の変哲もない森に俺だけ立っていた。
「雑すぎね?しかも召喚じゃねーのかよ」
どっかの王国の魔道士に召喚されたって感じじゃなさそうだ、じゃあ勇者ルートはナシだな。
いやー、もうラノベやらアニメやらでこの展開は腐るほど見てきた、とりあえず元いた世界に帰ろうなんて思うのは後だな、この世界にまずは慣れよう。
「それで、ステータスはっと」
どうやって確認するのかと思ったら目の前にステータス画面チックな表示が開いた、まんまゲームみたいだな、それか俺の記憶だよりに分かりやすく表示してくれているのか。とりあえず魔法の一種かな、念じれば出てくるみたいだ。
『ステータス』
Lv.5
HP50
MP120
『スキル』
ソーサラーⅡ
ガンナーⅡ
マルチスキルⅤ
自然治癒Ⅱ
信頼Ⅲ
精霊の加護
謎にレベルは5か、HPとかは基準が分からないからよく分からないとしてMPは比率的に多い方なのかな?んでスキルだ、なんか色々レベルアップしてるみたいだけどどういうこと?よく分からん。
とりあえず使える魔法を試してみよう、いつモンスターが出てくるか分からないし。
早速右手を空に向けて伸ばし、炎系のそれっぽい魔法を考えていると。
「ファイア」
どこからともなく頭の中に出てきた呪文を口ずさむだけで、手のひらの前にぐるぐると回る拳大の火球が出現し、打ち出すイメージをしてみると空高く打ち上がり2〜300メートルぐらい進むとボンッと小さく爆発した。
なにかのアニメで魔法はイメージと言っていたが、この世界ではイメージするとそれに応じた呪文が頭の中に勝手に思い浮かんで、それを発声すればいいだけのかな?呪文とか必死こいて覚えなくて良さそうで助かった。
「すっげ」
なんだか楽しくなってきて雷呪文の範囲攻撃を試すと辺り一面に晴天の空から雷が降り注ぎ、木と言う木が倒れ、とんでもないことになってしまった、調子に乗らない方がいいのはわかった。山火事にはなってないな。
そして風魔法を試してみると3メートルぐらい体を浮き上がらせることが容易に出来た、頑張ればもっと飛べそうだけど落ちたりしたりMP消費量もイマイチ分からないから止めておいた。
「魔法ってすげーー!!」
わーー!!と一人で感動していると。
《順応能力高すぎないですかね?》
「ん??」
俺の他に誰かが?なんだか真っ白の所にいた時と同じような若い女性の声がして、その声がした方を見るとなんだか黄色っぽく光ってポヤポヤしたものが空中を漂っていた。
「なんだこれ??」
指先で触れようとするとスッと避けられた。
《ちょっと!レディーに急に触らないの!》
え?レディー?俺から見たらただの空飛ぶよく分からないものなんですけど。
「へ?誰?」
モンスター?ではなさそうだけど……。
《精霊ですっ、貴方、精霊の加護ってスキル持ってるでしょ?》
え、精霊の加護って抽象的な感じじゃなくて本当に精霊が付いてくるの?マジで?
「精霊って妖精見たいな?」
《なに頭痛が痛いみたいなこと言ってるんですか》
「そう??」
なんだか的を得てるような得てないような、よく分からないツッコミをされた。
《言ったでしょ、精霊の加護はあらゆる手助けをするって》
あー言ってたね、あらゆるが全然わかんないんだけれども。
《それなのに自分でポンポン勝手に進めるじゃないですか、私の存在意義ってやつですよ》
プンプンしてるのか上下に揺れるポヤポヤした精霊、ごめんけど全然怖くない。
「まあまあ、これから聞くことも沢山あるからさ」
適当になだめると上下に揺れるのをやめて。
《そうですか?》
と今度は横に揺れて嬉しそうにしていた。チョロイン枠の方かな?
じゃあ、とりあえずひとつ聞いておこう。
「精霊って言うけど、それが普段の姿?」
この精霊、スキルと言うだけあって何処かに行ったりしないだろうし、常に一緒にいるとしてずっと周りをポヤポヤされては困ることもあるだろう、消えることも出来るのか聞いとかないとね。
《普段の姿といいますか、精霊って精神生命体ですのでどうしてもこれが基本になりますね、一般的には精霊体と言いますが、この姿は一般人には見えません。見える人には見えますが》
はぇー、意外とそこら辺はしっかりしてるんだな。うんうんと相槌をうっていると精霊は続ける。
《また姿は見えるようになりますが、童話とかによく出る小人みたいな翼の生えた精霊にもなれますし。魔力、一般的に言うMPを分けてくれますと人型にもなれますよ》
はぇー、人型にもなれるんだ。一人だと怪しまれる所とかに行く時とかには便利そうだな、そんな場面があるかどうかは分からないけど。
「へぇー、今その状態になれたりする?」
一応姿も確認しておこう。
《なれますよ》
ポンッ!と雲が破裂したようにポヤポヤしたものが無くなると、四つの翼と言うか羽の生えた、金髪ショートヘアの可愛らしい妖精が現れた。
《この状態を精体化といいます》
すっご、精霊もそうだけど妖精が実際に喋っていると一気にファンタジー感が増すな。
「凄いね!」
わぁ、と感心していると、精霊は得意げに。
《MPを送ってくれるともっと凄いですよ!》
と言うので、言われるがまま精霊に手をかざして感覚でMPを送ってみると。今度は言うなれば魔法少女の変身みたいな感じに光だし、光が落ち着くと俺と同じかやや高い背丈で、さっきの妖精の雰囲気を保ちつつ、出るところは出ていて引き締まっているところは引き締まっているナイスバディでスレンダーな女性が現れた、服装もドライアドとか着てそうな布切れ一枚を羽織っているだけなので長い脚は見えてるはでかい胸の谷間も見えてるはでなかなかに目のやり場に困る。
「この状態を擬人化といいます」
「デッッ!!」
でっかい!色々と!と唖然としていると彼女はふふふんと得意げに胸をそらしたまま、体型とかそんなのは特に気にしないのだろうか。
「その姿はどれぐらい保てるの?」
《はい、スキル所持者のMP量と私、精霊の消費量によります。私はどちらかといえば低燃費な方ですよ》
へぇー、ここら辺もランダム要素があるみたいだな。当たりと言うことにしておこう。
「では、戻りますね」
「あ、うん」
ボンッ!
戻る時はそれなんだな、ナイスバディな女性は黄色っぽく光るポヤポヤに戻ってしまった。もう少し見ていたかったけど我慢だ。
《では、ステータスを確認してみてください》
ああ、MPの消費量を確認しとかないとね。
念じるとステータス画面が現れ。
HP50/50
MP95/120
となっていた、魔法も結構使っていたし、精霊の人化自体はそこまで消費しなさそうかな。まあ、要検証だ。
《MPは基本的に時間で回復しますが、アイテムによる回復も可能です》
「なるほどねー」
《スキル『回復』を所持しているのでMPの回復量も普通より20%多いです》
「おお、ラッキー!」
嬉しい誤算かな、MPまで回復してくれるとは思ってもいなかった。
そして、ステータス画面を閉じる。
さて、これからどうするか。近くにあった自分が倒したであろう倒木の丸太に座り、これからのことを考える。
街に出るべき、だよな、食料も何も無いし。この世界にもギルドはあるのだろうか?でも魔人とかの街だったら怖いなぁ、レベル上げしたくても結局食料に困るしなぁ。
などと色々考えていると、目の前をポヤポヤがフンフン言いながら漂っている。これは頼って欲しいって感じか?
「ところでさ、名前は?」
いざ呼ぶ時に困るし、そもそも自己紹介とかしてなかったな。
《名前ですか?……精霊は基本的に念話で話しますので名前という概念が存在しません》
「えぇ……」
名前は無い、ああそうですかという訳にも行かないしなぁ……。
「レイル、それでいい?」
ふと浮かんだので聞いてみた。
《え?》
「君の名前だよ、嫌なら断ってくれていい」
結構適当だし。
すると黄色っぽかったポヤポヤはだんだん赤みを帯びてきて。
《とんでもない!嬉しいです!レイル、レイルですね!気に入りました!!》
嬉しそうにピョンピョンしている、今はただのポヤポヤだがなんか可愛いな。
「俺の名前はレイジだ、よろしくな」
《はい!こちらこそよろしくお願いします!……ところで私の名前と2文字被っているようですが、わざとですか?》
「いや、たまたまだよ」
言われて気がついたからね。
【スキル「精霊の加護」がレベルⅡになりましました】
おっとそんなアナウンスもちゃんと流れるのね、便利だな。
ステータスを確認すると『精霊の加護Ⅱ』にちゃんとなっていた。レベルアップしてからの追加付加要素はよく分からないけど。
「じゃあ、これからどうしようか」
《まず、街に行くことをおすすめします!》
なんだか終始上機嫌なレイルと、これからの予定について話し合った。