98:時節を待つ
「とにかく、こちらからできる警告はさせてもらった、ということで一つよろしくお願いします。実際に現段階でこちらも何かが出来る、というわけでもありませんのでここは情報共有に努める、というのが限界かと思います」
「そうですなあ。こっちにも気になる組織はあるとはいえ、表向き監視だけはさせてもろうてますけど、これが動くとなればちょっとした捕り物になりますやろうし、彼らが同調して動き出すか、というのも気になる所ではありますなあ。出来れば異能力者同士潰しおうてくれて、こっちの手間を省けさせてくれれば一石二鳥なんどすけどなあ」
京都府対応部署からちょっと物騒な話も出たが、無事に話し合いと事前通達、これから起きるであろう可能性の話をし終えたことで、緊急会議は終わった。
「聞いてた通りだ。とりあえず何はなくとも情報が欲しい。この際ネットでも構わん。何かしら彼らについての情報を集める方法があればそれでいい。引き続き監視を強化して、何か起こしそうなら事前に引き留めるなりなんなりして、京都が言ってたような異能力者同士のぶつかり合いなんかが発生した場合、舞台になるのはおそらくここ警視庁管内だ。我々が事件発生に立ち向かうことになる。その為の戦力はあるとは考えているが、相手の規模によっては手に余る可能性もある。そこを考えての早めの対策と行きたいもんだが……こればかりは相手の動きを待つしかないか。転び捜査でさっさと捕まえてしまうことも考慮に入れるか? 」
「流石にそこまでするのは難しいんじゃないですかね。そもそも彼らがどこにいるかもわからないのに、それを探して四方に手を尽くすよりは次の出方を待つ方が消費カロリーが少なくて済むでしょう。いざ見つけてふんじばる段階になってこっちがヘトヘトでは何ともなりませんからね」
若干の強硬姿勢も念頭に入れている内村課長に近藤さんからなだめの一言が入る。どうやら先走りそうなのは内村課長も同じらしい。
「進藤はどう思うんだ。現段階で竜円寺を止められると思うか? 」
「市井がどう思うかでしょうね。野良の異能力者もですが、本気で彼が異能力者を糾合して一山当てようと画策しているのか、それともただ異能力を見せびらかせて再生数を稼いで金を得ようとしているだけなのか。まだどっちとも判断に困る状態ではありますからね。このまま見世物みたいに各自の異能力を発揮している様を見せつけて、本当に異能力なのか、それとも手品のタネがあってそれを検証する動画が上がったりして、それでも地道に活動を続けていってどうなるか、というところでしょう。現状でやるべきことはやった、と考えたほうがいいでしょうね」
内村課長は俺の感想を聞くとなるほどな……と椅子の背もたれにもたれかかって、一応の納得はしたらしい。それ以上追求もしなければ追加捜査の情報もなかった。その日はそれで解散し、新しい情報が出るまでは普段通りの仕事をする、ということになった。
◇◆◇◆◇◆◇
そのまま二週間ほど経ち、その間に集めた情報の交換会が開かれた。まずはネットから。竜円寺のやっていたパフォーマンスはマジックの類であり、こうすれば同じことが出来る、ということでネタばらしをするアカウントが現れ始めた。これは本人がマジックを得意としている動画配信者で、このようにすれば空中歩行もできるのだ、という感じで説明をしていた。
目に見えない細さの糸を空中に張り巡らせておくことで、その糸を踏んで上がり、靴には鉄板を仕込んでおくことにより糸で切断されない工夫がされていた。これなら特定の個所を踏んでいくだけで空中歩行のように見せかけることはできる。糸は細くて見えないため、録画の粗さをすり抜けるため実質的にこちらからは目視出来なくなっていた、ということらしい。
「なるほど、そういうマジックも実際にあるってことだな。一つ勉強になったな……細すぎる糸だと足まで切れてしまうが鉄板で足を覆うことで切断を回避することができるし、糸の強靭さから靴さえ守れれば後は大丈夫、と。マジシャンらしい発想だ。その動画は回っているのか? 」
内村課長がネットの情報を深掘りしたのかどうかと、動画の再生数がきちんとカウントされて情報が拡散されているかをチェックしている。
「悲しいことに回っていますね。元の動画を参照させた上でこっちの動画でネタばらしをしますよ、という体で動画配信を行っておりますので、元々そのマジシャンが持っていたユーザー層が動画の再生数を回したことになります。それ以外でも色々な場所で話題にはなっているようですね。異能力者とはそもそもなんなのか、異能力者がいたとして、今までどうして表ざたにならなかったのか。異能力者による犯罪が起きた場合はどのように対処されていたのか、と真面目に語り合う声もあります。続報の次のマジックはまだか? と考える層のほうが今の所は多いですね。異能力者という意味での信憑性はまだ広まっていない、というのが現状というところだと思いますが……問題は一般人以外にありますね」
近藤さんはそこまで話して一息つく。ここからが本題、ということらしい。
「ダークウェブに接続して反応を探してみましたが、異能力者の情報交換場所という物を発見しました。そこではかなり好意的に見られているようです。彼が何をしたくてあんな動画を上げたのか、というのがメインの雑談にはなっています。今のところまとまった動きがあるようには見えませんが、こちらも今後の竜円寺の出方次第、というところでしょう」
近藤さんなりに調べられる場所は調べた、というところだろう。裏サイトまで探してその反応、ということはまだ大手を振って活動を出来るような状態ではないということだな。
「ふむ……さすがに数日ではまだまだ動きが出ている、ということにはならんか。引き続き情報を集めるようにしてくれ。まだ動画を見たほうもどういう意図で持って同志を募集しているのかは表にされているわけではないし、本格的に稼働するにはまだまだ時間がかかるということになるだろう。表向きに活動できないのが難点だな。もしかしたらそれを表向きに活動させるようにさせるのがジャガーノートの目的かもしれんしな。まだまだ情報集めと出方をうかがうことしかできないのか、歯がゆいな、裏組織というのも」
内村課長もかなり厳しい表情と口調で声を絞り出すように話す。そこに俺が一言添えておく。
「向こうも同じ気持ちかもしれませんね。異能力者が異能力者として認められる社会ならこんな手を使わなくても自助組織として表向きの活動ができるのじゃないか、と。俺は色々あってたまたまそこそこ光の当たる場所で生活はできているものの、異能力の種類や特性、性格によっては生きづらさや息苦しさを感じている可能性はあります。そういう層を救い上げて立派に社会の一員として認めさせようとしているのか、それとも自分の野望のために協力を仰いでいるのか。どちらにしろ、今のままだと失敗しそうな雰囲気が漂ってるのが何とも言えない所ですね。もっとこう強力なイベントや動画を上げて再生数や支持者を稼いで行く必要があるでしょうね……敵対組織ながらなんか、ちょっと不憫ですね」
うむ……という何とも言えない空気が課内を覆っている。こんな感じで果たして大丈夫なのだろうか。敵ながら心配になってきたぞ。あまりにも情けない状況に対して、本当にこれだけ騒ぐ必要があったのだろうか。
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