97:対策会議は踊らず
動画を見終わると、内村課長は各都道府県の部署に緊急招集をかけて動画のアドレスを添付し、本日中に緊急会議を開くように依頼した。
他の都道府県ではどう取られるかわからないが、以前から怪しいと思っていた組織が顔を見せ始めたということで、全国ネットでの中継でもある所を考えると全都道府県に情報を共有しておいたほうがいいというのが内村課長の判断だ。
連絡が伝わり、ビデオ通話が緊急で開かれ、その様子を拝見した各都道府県の担当者から口々に意見が飛び出す。
「で、実際彼らがどのような犯罪を犯したのか、犯す予定なのか、それは法にのっとって裁けるものなのか。そこが問題です。ただ知り合いを募集しているだけにも見えますがそこのところはどうなんですか内村課長」
「前に起きた歌舞伎町での騒ぎの中心に居た人物に、彼が接触していた疑いがあります。その彼は記憶を消去されていて接触したことを思い出そうとすると苦しみだすので直接的な証拠は挙がりませんでしたが、状況証拠として考えられる犯人の一味であることは疑ってかかるべきだと思います」
ダーククロウでの一件だな。確かに竜円寺の影がちらついて見えるのは間違いない。健三郎さん元気にしてるかな。風邪とか引いてないだろうか。さすがにあれだけ隔離されていたら風邪の感染源からも離れていそうだから大丈夫だとは思うが……
「仮に彼らの野望というか目標ですか? すべての人類を異能力者にする、ということは本当に可能なのでしょうか。実際問題我々の部署の間でも異能力者とそうでないものが分かれるような状態ですが、そんなことが本当に可能でしょうか? 」
「実は内事第六課の中でちょっとした実験をしまして、現在内事第六課の異能力者率は100%になっています。全員が全員何らかの異能力に目覚めているという状態になっています。仮に彼が本当に異世界から帰ってきた勇者であった場合、同様のことを出来る可能性は非常に高いと言えるでしょう」
矢継ぎ早に飛んでくる懐疑的な質問を、次々に捌いていく内村課長。頼もしさが5ポイントぐらいアップしたな。
「では、そちらの部署にも異世界帰りの勇者様がおられるということですか。是非会ってみたいもんですな」
「進藤、カメラの前に来られるか? 」
「全国デビューですか? いいですよ」
異世界帰りの勇者を所望されているということなので、カメラに向かってお辞儀をする。
「進藤と言います。竜円寺の行っていた世界とはまた別の世界でしょうが、そちらで五年間勇者をやっていました。第六課全員を異能力者になれるように手助けしたのは確かです。全員身体強化とそれ以外に何かしらの力に目覚めている、というのは間違いない話として受け取ってもらって結構ですし、何なら私がそちらへ出向いて異能力者として覚醒させることもできますよ」
気がるに、ああそのぐらいなら楽勝っすよ。とうっかり言ってしまったが、出張地獄になる可能性もあるんだよな。まあ、そんな奇特な都道府県警がそうそういてたまるか、とは思うが出来れば近隣の警察署で日帰りで済む範囲ならうれしいところだ。
「ほう、それは凄いですな。是非その件が落ち着いたらウチにも出張扱いで来てもらって色々教えていってくれると仕事が捗って便利でしょうな」
「うちはそれができる人材が今三人いますので。ただ、今季にはいって異能力者しかかからない風邪、というものが流行った結果すこし前まで部署が壊滅状態だったのが問題ですが」
「まあ、その件はいいでしょう。問題は彼らが本当に異能力者の集団なのかという点と、彼らが目指す目標についてです。全ての人間が異能力者になったら、どんな不具合が起きると思いますか? 」
話の核心はそこだ。全人類が異能力者になったら世の中はどうなってしまうのか。
「今の世の中の法律や刑罰、ルール、マナーなどは異能力者ではなく、通常の人間に対して適応されるように作られています。どのような能力の持ち主かわからないものをどのような法的根拠でどのように処罰するかも、異能力者がまだ少ないとされている現代でも問題になるケースが発生している以上、新しく刑罰や逮捕、立件の根拠などを明確にし、それらに適応していく必要があるでしょう。そうなった場合、社会の混乱は確実に訪れます。いわば、静かなテロ行為であるとも言えるでしょう。それらを出来るだけ防ぐのが我々の役目ではありませんでしたか」
疑問形の質問に対し、毅然とした態度で答える内村課長。また好感度が3ポイントぐらい上がった。俺の上司はこんなにかっこいい人だったのか。今日を機会に態度を改めよう。伊達や酔狂で課長をやってる人ではなかった。
「ともかく……この動画を機に異能力者の活動や異能力者同士の交流や集団化した上での異能力犯罪が増える恐れがあります。それの注意喚起として今回緊急で集まっていただきました。京都からは……何かありますか」
やはり京都様のゴキゲン伺いは必要らしい。それだけの実績と権力があるということなんだろうな。
「そうですねえ。まずは実際に事件が起こらないと動けないのが警察っちゅうもんですから、何かあった場合のホットラインとしてこの会議の議事録として残しておく事と、誰が楽観視していてへまをこくかどうか、そこらをしっかりと観察させてもろうた上でになりますが、警視庁としては毅然とした態度で臨むべき、そうおっしゃりたいわけですね」
「画面にメインで映っていた竜円寺竜彦という人物はつい最近も都内で目撃されておりますし、潜伏先がここ警視庁管内であることはかなりの確率で高い、と言わざるをえません。その上で、各都道府県警には自分の把握している異能力者集団がこちらへ一斉に移動した形跡があるですとか、そう言う情報があったら細かい情報でも構いませんので教えていただきたい、というところです」
あくまでまだ受け身。これから始まる大事件を予感して行動するしかない、というのが現状の方針らしい。
「もしかしたら、の話になりますやろけど、我々の組織も表立って活動する必要が出てくるかもしれませんなあ。ちゃんと異能力者に対抗する組織は警察にも存在しますから、異能力者だからと言って好き放題やっていいというわけにはいかん、ということをビシッと見せつける必要が出てくるタイミングがあるかもしれません。最悪そこまで考えておられる、ということでよろしい? 」
「最悪のパターンとしてそこまでは考えています。ただ、警視庁だけになるのか、それとも全国的にそういう組織が存在するのか、というのはまた別の話とします。こちらとしては竜円寺が計画している全人類異能力者計画、そこまでの規模で出来るかどうかはわかりませんが、最大限の注意を払っておくに越したことはない勢力と考えています。以前歌舞伎町で発生した……ああ、今お手元に送付された資料のケースですが、この事件の裏にいた人物としてマークを続けていた人物が竜円寺竜彦であります。今回元勇者で異世界から帰還してきた、という情報と全人類に異能力を分け与えることができるという本人の口からの自供と共に、我が第六課でも似たようなことができたという状況証拠を考えると、異世界帰りという異能力者はそれぞれ何かしら強い力を持ってこの世界に帰ってきた、と考えられます。そこを加味すると……見世物になってて笑っている間に裏で壮大な計画が練り込まれていて、各都道府県部署においてマークしている組織ともつながりを持ち始め、裏で巨大なクモの巣を張るような形になりうるとも考えます。そこまでの想定です」
「では、今我々に出来ることは各々がマーキングしている組織への監視を強める……といったところでしょうなあ。それ以上のことは警察としても裏組織としてでも、対応できる範囲を超えとる、ということになるでしょう」
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