95:宣戦布告
結果的に終息を迎え、全員が無事に出社できるようになるまでに一週間ほどかかった。ちょっとしつこい風邪、ぐらいの重症度で終わってくれたのは良かったところだろう。かかった本人たちは中々の苦しみを味わったようだが、無事に快方に向かってきたこと自体は喜ぶべきだな。ただ、時間が一人だけズレたように風邪を引いて休んでいる鈴木さんを除いては。
「鈴木は休みだが……みんなが休んでいる間に頑張ってくれた分もあるし、大目に見ておこう。人間順番に休みが必要な時もあるし、元気そうだからと俺が無理をかけさせたのかもしれんしな。ゆっくり休ませてあげてやってくれ」
内村課長も鈴木さんには少し思うところがあったのか、かなり優しめの対応で終わった。結局鈴木さんが風邪をひかない理由はわからずじまいだったが、遅れてひいたことで彼女もアレな人というわけではなかった、という証明にはなるだろう。
全員が異能力者になったという反動でこの風邪が流行ったとすれば、もしかしたら俺かフィリスが病原体の素を持っていて、それが鈴木さんに感染して鈴木さんに症状が出ずに他のみんなに感染し始めた。元々はあっちの世界の風邪だった。そういうことを考えないでもないが、証明できないことを考えるのはやめよう。
しかし、こっちの風邪が一段落したとすれば、竜円寺たちのグループも快方に向かっていると考えていいはずだ。今後はどんな仕掛けをしてくるかはわからないが、何とか先行きを考えてどんな手を打ってくるかを今のうちにある程度考えておかないとな。
「我々も元気になったということは、異能力者の影のグループも治癒の傾向が見えていると考えてもいい。以前問題に上がった竜円寺竜彦という人物の所属するグループも風邪が蔓延していたようだが、そろそろ彼らも体調を戻しつつあるだろう。そうなれば、活動が活発化されると考えられる。今後はそっちへの意識を向けるのも大事だが、彼らが都内だけで活動している可能性は低い。他の都道府県の部署とも共同で当たる必要性があるかもしれないので、その場合はできるだけお互い活動を報告し合って情報共有を密にしていきたい」
内村課長の朝礼が終わったところで今日も外勤の計画書を書いて提出して勤務開始。今日は何処を回ろうか。病気関連のところは一通り回ったのでしばらくは……あぁ、でも立ち寄れる場所が一ヶ所あったな。道中についでに回るようにしておこう。
今のところ竜円寺の動きもまだ探知できていない。何らかのリアクションを起こされた後でないと活動できないのが警察の任務ではあるが、公安という立場として監視対象の団体として注意はしておかなければならないが今のところ根城も拠点も活動場所も定かではない以上、出来ることは限られているし、そっちに気を取られて普段の仕事に支障が出るのも少々問題だ。
うーん、どうするかなあ。いや、どうするか、というより何ができるか、だな。向こうからしっぽを出してくれるならそれはありがたく踏みにじりに行くところなんだが、今の所そういう様子はない。もしかしたら風邪っぴき仲間を探して集めて勢力拡大をしている最中なのかもしれないし、放置しておくのは危険だという話になるだろう。
各地の神社や仏閣にお参りしつつ、そういう傾向や怪しい集団がいたら教えてもらえるようにお願いして回るぐらいしかないか。ルートを変更して、色んな神様色んな仏様の名所を巡るルートに変更して、外勤予定書を提出する。
予定書を一通り見終わった内村課長は少し悩んだ様子だったが、こちらの意図をうまくくみ取ってくれたようだった。
「今のうちに情報集め、ということか? 」
「そういうことです。怪しい動きがあれば早めにお願いが伝わるようにしておくのがいいかなと思いまして」
「ならばこのルートで回ってこい。すでに目撃されている可能性もあるし、異能力者同士の戦いとなれば公安の捜査という表向きの理由だけでは済まないかもしれないからな。関係各所には近々怪しい集団がうごめく可能性があるから出来れば手伝ってほしい、という風にお願いして回っておくことにしよう」
内村課長からもOKが出たので早速出発だ。近いところから歩いて回れる場所を重点的に見回って浄化をかけながら、頭の中で「異能力者の集団が何か悪さをする可能性が高いです、もしそんな兆候があったら教えてください」と念じながら各地を回る。今できることはこうやって伝えることで、神社仏閣ネットワークの網に奴らが引っかかることを祈るしかない。
やれることはあんまりないので人事を尽くすのはもうやり切った。後は文字通り天命を待つしかない。その結果が神頼みというのはいかにもありきたりでもっとやることがあるだろう、というのが実際のところだが、こちらがリアクションでしか対応できない以上、その前段階で芽を摘み取るのは現段階では難しい。
立ち寄った各地の神社や仏閣では、話の通じる相手が出てきてくれた場合には状況を説明して、話に納得してくれたいくつかの神様や仏様のお使い様には了承を得ることが出来た。普段の丁寧な行いが形となって帰ってきたことになる。やっぱり常日頃良いことはしておくべきだな、とと改めて思う。
◇◆◇◆◇◆◇
外回りを一通り済ませて戻ってくると、帰ってきたら部署は静かであった。誰もいない訳ではなく、みんながパソコンの画面に集中していた。何かあったんだろうか。
「ただいま戻りました。どうしたんです皆静かになって」
「たった今宣戦布告文章がネットで流された、というところかな」
内村課長がこちらを向いて、お前も見に来いとジェスチャー。途中からだが参加しますよっと。
画面には竜円寺竜彦がうつっていた。まだマスクはしているので、顔を隠しているんか風邪が長引いているのかは判断がつかなかった。
「……つまり、我々ジャガーノートは同志を募集しています。周りの人に言えない異能力、特殊な能力をお持ちの方は是非こちらへご連絡ください。こちらから調査員が出向き、能力の状態や強さ、便利さ等について調査し、お答えを差し上げることになります。もしお望みなら、我々と共に社会を変える支えになっていただくべく本日はこうして動画をアップさせてもらっています。例えば後ろの彼。彼の能力は空中を歩くことが出来ます。まず、特殊能力であることをお教えするために、彼が歩く空中には何もない、ということを証明させていただきましょう」
竜円寺が歩く予定の所を同じく歩き、空中には何もない、ということをアピールした上で、竜円寺の後ろに控えていた男が空中を歩きだす。マジックショーを見せられているような気分だ。いや、実際空歩なんてものはマジックの見世物としてはちょうどいいものではあるので、本気に取らない人たちは面白いマジックチャンネルが始まった、としか受け取らないだろう。
だが、少なくともこの第六課ではこれがマジックではなく異能力であることを認識している。竜円寺は全国的に異能力者を集めて何かしらを始めようという腹積もりらしい。
お参りしてきた効果がこの結果なのか、それとも効果がなかったのかはわからないが、我々に向けた宣戦布告として受け取る、という内村課長の考えはそれほどズレたものではないだろう。これからは、公に手を振って彼らと戦う必要性が出てくるんだろうか。俺もようやくデビューの時かな? そう思うと少し小躍りしたい気持ちになるな。
フィリスもカルミナも画面にくぎ付け、というほどではないが、これから何かが始まるという空気は何となく伝わっているらしく、その手はぎゅっと握りしめられていた。さあ、この後どう出てくるのか。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。




