91:絶対に休めないあなたへ。
(なるほどな、それはまた厄介な話じゃ。そして結論から言おう、われの力でも何か手伝えることがあるかと言われるとちょっと難しい)
(難しいんですか。普通の風邪ならいけるけどこっちの風邪は厄介だと)
(異能力者だけがかかる風邪、というのは聞いたことがないでの。ただ、新しい部類の病気であることは確かじゃから、このような事態が起きても我らの神通力的なものが効果的になるように新たな力を得るための準備が必要じゃのう)
ふむ、今のところは何もできない、ということらしい。つまりここの問題は自力で対処しなきゃいけないということになるらしい。だが、お願いをして回るだけでもご利益があるのは間違いないのだから今日回るだけ回ってしっかりとお願いをして回ろう。
(わかりました。こちらでもなんとか治りが早くなるように手立てを講じてみます。出てきてくれてありがとうございました)
(うむ、こちらも新しい病気が出て来たってことで対策を立てねばならんからな。その情報には感謝しておくぞ)
話は切れたらしい。お礼に浄化を強めにしておくと、もう二、三ヶ所回ってから帰ることにしよう。お賽銭でパンパンになったポケットを少しずつ軽くしながら、回れるだけ回って帰った。
課に戻ると……そこは病人の巣と化していた。
「あ、おかえりなさいトモアキ様。皆様やはりお倒れになってしまうようで。異能力者にだけかかる風邪、というのはどうやらかなり厄介な代物らしいです」
「どうやらダメだったみたいだ。お使い様にもちょっと無理と言われたよ」
フィリスが平然としつつも、他の職員を気遣って小声で話しかけてくる。フィリスは元気だな。というか無事なのは俺とフィリスだけになってしまったのか。
「私も大丈夫なんだけど、どういうことなのかしらね」
鈴木さんだけが元気そうに活動している。なんでこの人は大丈夫なんだろう? あれな人は風邪ひかないって奴だろうか。
「何か言いたそうだけど……まあ、追及しないでおくわ。これはアレかしらね? 異能力者を狙った犯罪の可能性もあるわね。もしくは異能力者だけを狙って風邪を流行らせて、異能力者をあぶりだして確認して、異能力者ならスカウトするとか、そんな組織に心当たりは一つは少なくともあるわよね」
「竜円寺竜彦……あっちも人材不足で募集しているってところか。その人材をあぶりだすための病原菌散布……これを逆に考えると今風邪ひいてる人は異能力者の可能性が高くなるってことでもあるのか。今スカウトしたらあたりを引きやすいかもな」
「そんな余裕はないけどね。ひとまずその仮定が正しかったとして、その病原菌を振りまいてる相手もわからないし看病していくしかないわね」
「しばらくは開店休業状態かな……まあ、浄化が使える人が増えたことで日々のローテーションは楽になっているし、風邪が一段落するまでは少数人数で回すことにするか。いくらなんでも一ヶ月二ヶ月と長引くようなものではないだろうし、みんなが帰って来るまで無事でいることを願うか」
もし長引くようならその時はまた対策を考えなくてはいけないが、内村課長だってそうそう長く休み続けることもできないだろうし、警察官は体が資本だ。多少無理をしてでも這いずって出てくるだろう。その際に指示を受けられるようにきちんと態勢は整えておかないといけない。いざ課長が出勤してきてボロボロの状態の課を見て何を言われるかを考えれば自然とやることは決まってくる。
「そんなわけで、出勤できる人は出勤、無理なら無理、ではっきりさせておきましょう。内村課長もひょっこり明日出てきて咳き込みながらも出勤してくるだろうし、今日の日報で調べた情報を提出しておいて、異能力者しか感染しない風邪のような症状を巻き起こすウィルス的な何かがまき散らされている。原因や目的は不明だが、もしかしたら異能力者を選別してスカウトしている組織がある可能性がある、という辺りか」
「そうですね、それだけわかってるなら仕事をちゃんとしたという証明にはなるでしょうし、今日一日で相当数回ったことの証明にもなりますからね。課がほぼ全滅してても私たちは仕事してたってことは間違いないですし、今日のところはこのぐらいで帰りましょうか」
「上司がいないと退勤も気楽でいいな」
「カルミナの様子も気になりますし、ポテチを買って帰りましょう。大人しく寝てたらいいんですけど……でもそれはそれで心配になりますね」
ほぼ全員の体調が悪いこともあり、この日は早めにみんな帰って養生する、ということで全員が定時退勤を行った。
帰り道にのど飴とジンジャー風味のポテチと葛根湯を買い込むと帰宅。カルミナは……部屋の中で静かに寝ていた。額に手を当てるとまだ熱い。熱が下がり切っていないのは確かなようだ。
「ふむ、これはそこそこ重症だな。死ぬ心配はないにしろ、これはポテチは食べない方が体に却っていいかな? 」
「ポテチ……ポテチ頂戴……」
お、目を覚ました。ポテチの前に水を飲ませてやる。こくこくと水を飲める分だけ体力はまだあるらしい。帰ってきたら脱水症状で干上がってる魔王を見る可能性もあったのだから明日はもうちょっとわかりやすいところに水分補給用のスポドリとポテチを置いておこうかな。
「大丈夫かー。ポテチの前にご飯食べれるか? 」
体温計を用意して脇に挟ませる。しばらくして計測が終わり、体温は三十七度七分。朝よりは下がったな。
「ポテチ……ご飯よりポテチ……」
「ご飯が先だ。ご飯食べれたらポテチ食べていいぞ」
「じゃあご飯をポテチにして」
「甘えんな」
「でも、お腹は空いたのは確かだから食べるわ」
よろよろと立ち上がってはフラフラとリビングへ向かうカルミナ。やはりまだ万全には程遠いな。これ何日ぐらい続くんだろう。カルミナの体力と魔力なら無理矢理治せそうな感じではあるが、それを飛び越えて病気状態ということは、やはりカルミナがひいた風邪も異能力者専用の風邪、という所なんだろう。どこで拾ってきたんだろうな。
リビングへ座らせて、フラフラのまま夕食を食べだすカルミナ。
「いただきます……カルミナ自分で食べられるか? 」
「うーん、多分大丈夫」
「無理だったら食べさせてあげますからね。魔王とはいえ病人には優しくしないといけませんから」
俺もフィリスも真面目にカルミナの様子が心配だ。周りにいる風邪っぴきの中で一番重症らしいのがカルミナである以上、カルミナの治療がうまくいくならほかの職員にも効果がある治癒魔法が編み出せるかもしれない。そういうサンプルの意味を込めてもカルミナには早いところ元気になってもらわないとな。
何とかカルミナに食事をとらせ、栄養と活力の素を体にしまい込んでもらったところで、いつも通りポテチを食べ始めるカルミナ。
「熱のせいか味がしないわ」
「生姜がピリッと聞いてるはずなんだがな。そこまできつそうなのか」
「一日寝たら普段ならこのぐらいの風邪なんて問題ないんだけど、何か情報は得られたのかしら? 」
カルミナは何となくだが自分の体に起こっている変化を認識しているらしい。素直にカルミナに、異能力者にだけ感染する風邪のようなものが流行っており、課内もそれでほぼ全滅していることを伝えた。
「なるほどね……似たような魔法を使う奴に心当たりはないけど、そういうことならあたしが寝込んでも仕方がない、というところかしら。勇者やフィリスに効果がないのは、教会の加護がまだ続いてるからかしら」
「だと思うぞ。まあ便利に使わせてもらってるし、おかげで部署が完全に止まらずに済んでる」
「明日までにどれだけ回復するかね。今日のところはポテチを食べたら大人しく回復に努めることにするわ」
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