9:魔王、復、活?
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「お前は……魔王カルメンなのか? 」
思わず身構える。もし魔王がこっちの世界まで付いてきたとなれば世界の危機だ。今すぐ殲滅してなかったことにしなければならない。
「正確には違うわね。魔王カルメンの魂の内のいくつかの内の一つというのが正確な所よ、勇者トモアキ。戦っている間に少しずつ復活のための魔素をいろんな方面にばらまきながら戦っていたおかげで、あなたのアイテムボックスに入り込めた一部分ってところね」
「ほう……ということは今倒せば丸く収まるってことだな! 」
握る聖剣に力が入る。ここで仕留めれば無事な人生が送れるということにもなる。俺の平穏のためにこの場で成敗してくれるわ。
「残念ながら無駄よ。実体化した以上、私は何度倒されても蘇るわ。それに、こっちにも魔素はあるようだし、勇者のいない所でまた勝手に実体化すれば魔王としてこっちの世界も……」
ぐうぅぅぅぅ
「こっちの世界でも魔王として……」
ぐぎゅるるるるぅぅぅ……
「……お腹、すいた」
急激に力が抜け始めるゴスロリカルメン。どうやら復活直後で腹が減って力も威厳も維持できないようだ。しかし、ここで倒しても他の場所でまた実体化されるとなるとどうすれば……アイテムボックスの中に封印することはできないだろうか。
「フィリス、この場合って」
「多分、カルメンの言う通りかと思います。一時しのぎで倒すことはできるかもしれませんが、完全消滅は難しいと思います」
「だよなあ……うーん、どうするか」
「何か……食べるもの……」
死にかけのカルメンにそっと、おやつにと開けておいたポテチの袋から一枚取り出し、口元へもっていく。口元に持って来られたポテチの匂いを嗅ぐと誘われるようにパリッと一口かじる。
「なにこれ! 美味しい!! 」
その一枚で気力を取り戻すと、残りのポテトチップスのほうへ吸い寄せられ、よたよたとにじり寄って残りのポテチを食べ始めた。
「気に入ったわ! 私こっちの世界で大人しく生きる! そしてポテチを食べ続けるわ!! 」
世界の危機の始まりはポテチにより救われたらしい。日本の食品産業は偉大だな。魔王の野望を屈服させるだけの味の暴力で支配したことになる。
「勇者! これから私にこれをよこしなさい! そうすれば世界征服の夢をあきらめないでもないわ! どっちにせよ今の力ではこの世界を支配するまでには及ばないし、その力を溜めるためにもこのポテ……チ? これの力が必要ね! 」
「立場が逆だ。世界征服を諦めるならポテチを一日一袋進呈しないでもないぞ」
「そちらこそ立場が分かってないようね! 私が暴れまわってもいいというの? 」
こっちを脅しにかかるロリカルメン。しかし、力の差は圧倒的にこちらの方が上だ。滅せずともしばらく発生させられないことはできる。しかし、今度いつ復活するかわからないものを野に放つのは俺の怠慢だと言える。
元々俺のわがままでこちらに帰ってきたという理由がある分だけ俺に分が悪いのは頭の中で少しわかっていることでもある。ここで押し引きを続けて落としどころを探すしかない。
しばらくお互いに立ち会ってカルメンと俺がにらみ合う。ぐぬぬぬぬぬぬ……
「解りました。カルメンの世話は私がします。一日一袋、それでいいんですね? 」
「フィリス!? 」
「ここが落としどころでしょう。それに、私の記憶が確かならこのポテチ一日一袋でそこまで負担がかかる金額ではなかったはずです。それで平穏が保てるなら安く済むというものです。ただし……カルメン、あなたはこちらでの生活に慣れるように私と共にトモアキ様の言うことを聞くこと、いいですね? 」
「えー、あたし関係ないもん。自由に生きたいもん。せっかく魔王っていう立場から離れることが出来たんだから好きにしたいの! 」
「それならあなたがポテチを食べることは永遠になくなるでしょうね。最悪私がこの身を挺してでも封印し直すか、数百年の眠りについてもらいます。数百年後、このポテチが同じような味で継承される可能性はゼロです。それでもいいのですか? 」
フィリスがカルメンを説得しにかかる。たしかに、この味のポテチが出来てたかだか数十年。しかも今カルメンが口にしたのは地域と時期限定のプレミアム味だ。これと同じ味を発売するかどうかはともかくとして、数百年先まで同じメーカーが存続している可能性は非常に低い。なるほどフィリス、考えたな。
「よし、聖女フィリス。契約は成立ね! これから私のためにポテチを進呈しなさい! 」
「カルメン……なんだか戦っていた時と姿が違い過ぎてカルメンって感じではないですね。カ……カル……よし、あなたは今日からカルミナです。カルミナ、大人しくしているならポテチを毎日一袋食べてもいいですよ」
俺の財布から費用は出ていくのだが……まあそれでも暴れられてアパートの修理費を請求されたりするよりは長い目で見れば収入にはならないだろうが突発的に出費を強いられることはなくなるか。とりあえずフィリスが手綱を握ってる間は安心してもいい、ということだろうか。
「そんなわけでトモアキ様、カルメン改めカルミナのことは私が何とかします。トモアキ様は日常を頑張ってください。私もカルミナの面倒見は頑張りますので、トモアキ様は毎日ポテチだけ買ってきてあげてください」
「お、おう……毎日買って帰って来ればいいのか? 」
「はい、お願いします。出来れば今度は違う味の奴を買ってきてあげてください」
フィリスがにっこりと笑顔でこちらへ微笑む。しかし、背中に見える炎には、二人きりの生活を邪魔しやがってタダで済むと思うなよ的なオーラが漂っていた。
「しかし、三人住むとなると寝る所がないな。今後どうするか……」
「私はトモアキ様と一緒で構いませんよ? 野営の時も一緒に肩を並べて眠った仲ですし、今更同衾しても私は一向にかまいませんから、ソファはカルミナに明け渡しましょう」
とんでもない提案をぶち上げてきた。俺はこれから毎晩眠れない夜を過ごすことになるのか。仕事に支障が出そうだな。いっそのこと既成事実を作ってしまって一緒に寝てても不思議じゃない関係にまで進めば……なんてことが出来れば俺は苦労しないんだよなあ……
「私もベッドでも問題ないんだけど? 」
「狭いしダメです。トモアキ様の寝首をかかれないように私がきっちり見張っておくことも必要ですからね。居候の身でベッドを占拠しようなんて厚かましいです」
フィリス、君も居候なのではないか? 今のところ、だが……しかし、フィリスがカバーしてくれるということは俺が仕事に行っている間のカルミナの世話や世の中のルールについてカルミナに教えて聞かせてくれる、ということに期待して良いのだろうか。
フィリス自身も任せてください、という顔をしているし、頼りにはすることにしよう。
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