87:みんなでとれーにんぐ! 3
「なるほどね、火が出せるのは決定されていて、その過程はすっ飛ばしてもできちゃうってことか」
「ざっくり言うとそういうことになります。で、鈴木さんの場合はどれになりますか? もしくは、あっちの世界のやり方で改めて火の魔法を覚えてそっちを伸ばす方向にしますか? 好きな方を選べる、というよりは俺の手間のほうの問題でしょうね。流石に結果が決まってて火が出る、となると、鈴木さんがどんなイメージで普段使っているかを共有して、その中で強化案を探っていく、ということになっていくと思いますが……鈴木さん、何も考えずに力使ってそうですから多分異能力タイプですね」
「なんか今凄く失礼なことを言われた気がするけど、能力向上のためだから聞き流してあげるわ」
さて、このタイプが一番厄介だ。なにせ長嶋茂雄タイプの感性で動いている。びゅっとボールが来た時にシュッと振ったらパーンと飛ぶ、みたいなもっと詳細に……詳細に語れよ! みたいな感じがひしひしと伝わってくる。鈴木さんもおそらくそのタイプだろう。
「じゃあ、試しに出してみてください。こう、理論的に説明できるなら理論的に、感性で説明するならその感覚を伝えてみてください」
「そうね……私の場合は火を出す! って思った時にボッと出たから……ボッと……」
いざ自分で説明を始めようとして、感性タイプの人間だと自覚したらしく、膝から崩れ落ちた。ちょっとショックだったらしい。
「じゃあ、ボッと出すイメージをボオッと出すイメージにすると、火柱になったりしませんか? 」
「するわね。頭の中でそうイメージして火を出せば思ったとおりになるわ」
「やっぱり。次にそのイメージを出し続ける形でしばらく維持してみてください。集中力が途切れたら多分火は出なくなると思います」
「よくわかるわね。イメージを固定し続けないといけないから長い間出し続けるのは難しいのよ」
こういうインスピレーションタイプの人間は意識的に脳内に形を作ることで実体化させられるタイプ、ということが俺の経験則上わかっている。なので、イメージを強く持てば持つほど強力なスキルを発現させられるし、意思が弱かったりコンディションが悪いとそれだけ出力に左右される。
試しに一番火魔法に有効な結界を張って、鈴木さんに対して構える。失敗して俺が黒焦げにならないために二重に結界を張っておく。
「どんなイメージを作っても良いので、この結界を破壊するつもりで全力で打ち込んでみてください。結界を破壊する! というイメージでもいいです。最大出力を出せそうなイメージを作ってその過程で出力が左右されるとすれば、結界を割る! というイメージで火の能力を使えば理論上この結界も割ることが可能になるはずです。さあ、どうぞ」
「それを割ればいいのね……割れろ! 」
鈴木さんが全力で火の魔術を行使する。その火の威力はかなり強く、結界が一気に炎に覆われる。集中しているのか、周りの出来事に目も振らずに一生懸命火魔法を行使している。
そんな中で、鈴木さんのほうへ土魔法で作り出した小石を一個投げ込んでみる。小石は鈴木さんに当たり、そっちに意識がそれた瞬間、火の魔術は威力を失い、火は消えてしまった。
「反撃されるなんて聞いてないんだけど? 」
「そこが今の問題点じゃないですかね。威力は充分出てたので、後は集中力を乱さない事が大事なんじゃないかと思いますよ。その訓練ですかね……たとえば、周りにタオルで叩かれながら火の魔術を使い続ける訓練とか、そういう方向性で行けばいいと思いますね」
「なるほど、集中力か……考えてみるわ」
鈴木さんは列を離れた後自分の課題を一通りこなした幾人かに声をかけて、本当にタオルでパシパシと殴られ始めながら火の魔術を頭の上に行使し始めた。顔とか肩とか尻を殴られながら、出力を一定にするように保っている訓練をしている。
まあ、とりあえずあれで自分の能力のコツというか、訓練方法をこなしていけばいいと思う。出力のほうはイメージを保てれば問題ないぐらい強くできるようだし、本人次第だな。
一通りの人の相談を受けたり、あっちの世界の魔法の使い方についてレクチャーや具体的な使用方法を伝授したり、フィリスの浄化訓練の結果が出たか判断するために、カルミナに瘴気のかけらを出してもらってそれが浄化できるようになっているかどうか、今度は三人連携しながらの訓練となった。
俺とカルミナはかなり高いレベルで浄化を使えるのは間違いないが、覚え始めの人たちは覚えた浄化を試してカルミナの出した瘴気にチャレンジしている。使えば使うほど強化されるようなものではないので、コツをつかんで浄化をより強く出せるようにすれば、全員が外回りに出かけられるようになるようになるし、効率も良くなる。
カルミナが瘴気を出す度に少しずつ縮んでいくが、まだ問題はないらしいので外回りで吸って成長していた瘴気を少しずつ出しては、それぞれの職員に浄化を試させ、浄化が出来たと喜ぶ職員を目にしている。
ここは良い職場だな、と改めて思う。それぞれ課題に打ち込んで、課題をクリアすれば褒め合う。クリアできなくても次があるぞと励まし合い、中には突出して成長する者もいるがそれぞれに成長がみられる。
そんなさなか、近藤さんが一騎打ちを所望してきた。近藤さんは元々身体強化は使えるが、今日の講習でさらに磨きをかけることが出来たらしく、試しに俺と打ちあってみたいらしい。
「じゃあ、いくよ」
「もう始まってますよ」
お互い準備不足の中からスタートだ。いつ異能力者と戦いが始まってもおかしくないように、出来るだけ実戦形式でやることにする。つまり、掛け声無しからのスタートだ。
近藤さんが全力で加速してこっちに向かってくる。加速力は問題なしだが、攻撃のほうはまだ単調。身体強化にまかせっきりでこの後のやり取りをどうしていけば効果的に相手にダメージを与えられるか、というほうにはまだ意識が向かわずにいるらしい。
拳でとびかかってくるのを皮一枚で交わすと、足元がお留守だったので足で掬い上げる。そのまま勢いを殺せなかった近藤さんが滑っていくように明後日の方向へ転がっていく。
「それじゃダメですね。身体強化に使われてるって感覚がまだします。身体強化をかけながらも、相手に手が届いてからのやり取りや拳や蹴りの応酬をどうやって行っていくかを意識しながらじゃないと、ただの素早い人になってしまいますよ」
「なるほど、意識が身体強化に向きすぎってことか。身体強化はあくまでオマケであって、本当のやり取りはその先にあるわけだな。本来は逆だが」
「そうなりますね。さあ、次どうぞ。もう一回転ばさせてあげますよ」
近藤さんのやる気を少し煽って、冷静さを失わせる。その中で冷静に行動できるかが身体強化の大事な所だ。身体強化で脳の回転数も少し上がってる分だけテンションも少し高くなり、単調な攻撃になりやすい部分がある。
そこをどれだけ冷静に自分を律して戦えるかが次の課題なんだが……どうやら俺の煽りで頭に血が上ってる、とまでは言わないがテンションが上がりっぱなしのようだ。そのまままた突っ込んでくる。
「ほい」
「あっ」
また足払いと胴への軽めの蹴りで近藤さんを吹き飛ばす。自分で気づけないなら教えるほうが大事だな。自力でなんとかしろ、というのは教育の効率が悪い。
「冷静になってください。まだ身体強化に使われてます。身体強化で頭がいっぱいな分だけ攻撃が単調になってます。もっと頭を使って、近づいた後の取っ組み合いを意識してください」
「ううむ……なかなか難しいな。合ってないってことはないだろうから冷静にか……冷静に……冷静に……」
「そして、冷静になっている間に時間をかけ過ぎると、今度はこっちからこんな感じで攻撃されるのでいかに頭のスイッチの切り替えを行うかが課題ですね」
話しながら近藤さんを三度、転ばせる。近藤さんはやられた、という顔でそのままごろんとその場で転がってしまう。
そんなやり取りをしつつ一日が終わった。なんだかんだで俺も教えながら得るものはあったし、また次回特訓の機会があればやり返すからな! と近藤さんには言われたが、次回までに癖が直ってると良いんだけどな。
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