85:みんなでとれーにんぐ! 1
「えー、では全員参加の合同自主訓練を始める。今後、異能力者犯罪が増加するに当たって、皆の異能力にもそれぞれ強化、もしくは新しく異能力を得る必要が出てくるだろう。ここらでそれぞれの力量の把握と見合った能力の強化や、身体強化の習得等、様々な課題に取り組んでもらいたい。今回の監督役は進藤、フィリス、カルミナにやってもらうことにする。それぞれ得意なことと特殊能力や個々人の能力の見極め方の相性はあるだろうが、数日かけてでもやる価値はあると考えられる。通常業務のほうは皆が頑張ってくれているおかげで日程に余裕が出来ている。そんなわけで、今日は特訓日だ。一日で覚えられるかどうかはわからないが、何かしらの異能力を持っている者なら出来れば複数の、そうでない者でも身体強化を目標にして体に覚え込ませられるように頑張ってもらいたい。私も何かしら異能力に目覚めればいいなぐらいの気持ちでやるから監督役の教えの上手さに期待しようと思う」
内村課長の簡単な説明が終わり、全員が訓練場に集合する。今回は非異能力者である岬さんや他の一般職員も参加しての課を上げた大規模な訓練、ということになった。全員動きやすい恰好、人によってはスーツのままだが、いつどんな時でも動けるようにできるだけ日々の服装で参加しなさいとのお達しがあったため、俺はスーツ、フィリスは私服での参加となった。
最近何かと出番が多い第六課である。通常警察においては柔道や剣道、空手などの武道を嗜むことで逮捕術や精神的な身構え方を身に付けることは多いが、ここは公安第六課。
通常の方法では犯人を逮捕するのも難しいところがある。その為の新しい訓練として、出来れば全員に身体強化を覚えてもらえるようにならないか? という内村課長の方針により、俺とフィリスとカルミナが教官役になって全員を鍛え上げることになった。
ここから何人身体強化を覚えたり、既に強化できるものはより強化できるように、もしくは新しい異能力に目覚めるようにするにはどうすればいいのか、等といった課題を各自で覚えていくことになった。
とりあえず俺はまず身体強化担当だな。何をするにも肉体強化をしておくことに越したことはないし、多少の異能力がはびこっていても物理的に解決することでごり押しすることもできる。腕力、腕力はすべてを解決する。
「よ、よろしくお願いします! 」
真っ先に身体強化の身につけ方を学びに来たのは岬さんだった。岬さんは異能力を一切持っていないので、せめて身体強化が出来るようになれば現場にも出ることができるだろうし何かしらの手伝いができるだろう、という見込みらしい。
「まず、ちょっと背中を触ります。魔力を背中から全身に回すので、それを感じ取ってください。まずはそこからです」
岬さんに断ってから背中を触る。でないとセクハラで訴えられかねない世の中だし、フィリスに変な気持ちを感じさせないためでもある。女性の背中はいろんな意味でデリケートな場所だ、ちゃんと意味を説明してから了解を取り、それから魔力を流し始める。
「なんかあったかいですね。それが全身に回ろうとして……頭はあったかいですが両腕はまだって感じですね」「その暖かさを全身に行き渡らせるようにイメージできるかな。その後下半身にも、順番に流していく。それが全身をグルグル駆け巡らせられるようになったら、第一段階終了だ。第二段階はそれを自分でできるように努力してみてほしい」
「わかりました。まずは全身に巡らせられるまでが一仕事ですね……」
岬さんは素直に了解してそのまま俺に魔力操作をゆだねる。岬さん自身の魔力量にもよるだろうが、魔力操作と身体強化を同時に覚えるテクニックとして向こうの世界では標準的な効果的訓練法として取り入れられていた。これを三日で覚えて戦闘に使えるように無理矢理覚えさせられたので体にもしっかりなじんでいる。
「あ、あ、あ、なんかわかった気がします。こうですね」
要領がいいのか、岬さんが自分で魔力をグルグル回し始めた。どうやら全身に効率よく、とまではまだいかないがやり方はわかったらしい。
「次は、自分の力だけでそれをやってみるのが第二段階だね。第一段階突破おめでとう。こんなに早く体になじませられるのは才能があると言っていいよ」
「普段からそういう人たちに囲まれてるから魔力や魔術の素質について身近に感じていたおかげかもしれません。やってみますね」
岬さんは列から離れ、一人で修業を始めた。非能力者としては、何か一つでも異能力を持ってそれを扱えるようになったことによる嬉しさでテンションが少し上がっているらしい。
俺も最初に魔法が使えるようになったのはああだったっけ……いや、違うな。使えたら次は別の系統の魔法を使えるようになれ、と連日睡眠時間を削って無理矢理全属性を叩きこまれたのを思い出してきた。詰め込み教育としては高効率だったのだろうが、ブラックもいいところである。休むことによってより効率的に使えるようになる、というわけではないらしいな。
「次は……鈴木さんもか」
「私は身体強化と火の魔術の強化が課題ね。どっちも使えるんでしょう? 」
「少なくとも手の中で握りしめて消し炭にする程度の問題じゃなく、かなりの出力まで使えることは保証するよ」
手のひらから天井に向けて炎の柱を噴出させて見せる。周りがおおっと驚くが、天井は前に耐火コンクリートに作り替えてあるので部屋の形を変えることはなかった。
「教官、よろしくお願いします」
それだけでも充分だったらしく、鈴木さんが頭を下げてこちらに教えを乞う形になった。とりあえず身体強化を教えて、全身に行き渡らせる感覚を教え込む。どうやら火の魔術が使える分だけ魔力操作というものにはある程度慣れているらしく、岬さんよりも短い時間で身体強化に必要な全身に魔力を巡らせるという行程に移るのが早かった。
「なるほど、こうやるのね」
「さすが、能力者は覚えが早いな」
「誉め言葉と受け取っておくわ。早速岬ちゃんと手合わせを願いましょう。身体強化が一段落したら火の魔術の強化方法を教えてもらいに来るわね」
「俺の知ってるやり方と同じとは限らないけど一助にはなるとは思うから、まあそれなりに期待してて」
離れたところで一人前転バク転をゆっくりと空中で決めて身体強化の効果を存分に味わっている岬さんのところへ駆け寄っていった。おそらく、これから組手でも始めるんだろう。その間に次の所員の相手をする。
身体強化はみんなが使いたい必須技能とも言えるところらしく、希望者がどんどんと俺のほうへ集まってくる。身体強化を学んで覚えて使い方がわかったところで、フィリスやカルミナのほうへ向かう所員も多く居た。どうやら、次の人気は人払いの結界の使い方らしく、カルミナの人気が次だった。
フィリスのほうが身体強化をうまく扱えるのは間違いないんだが、どうも俺の専売特許だと思われている節があるので、女性の職員はフィリスのほうへ誘導することでそれぞれに学ぶ時間を多くとることになった。
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