81:新組織対策
「えー、先日の新橋の騒ぎによって、新しい被疑者……というより敵として認識して良い人物が候補にあがった。偽名だろうが、名前は竜円寺竜彦。画像は進藤が撮影してくれたものをそのまま拡大して多少綺麗にしたものだ。もう少し性能のいいカメラならもっと綺麗に出せただろうが、こればかりはしょうがない。この人物を最重要人物として今後マークしていくことになる」
ミーティングで、先日出会った竜円寺竜彦という人物についての情報交換がされている。俺はというと、隅っこのほうでこいつの人物像について色々頭を巡らせているところだ。どんな能力を複数持ち、どうやって俺の前から消えたのか。そっち方面に意識が向きがちなのは、俺も一つの異能力者だからだろう。
「進藤、何か感じたことはあるか? 」
内村課長から俺に話を振られる。
「そうですね。今はまだ今後事業を拡大していくための人員募集中であり、小規模な騒ぎを起こしては異能力の性能を検査している最中、と言ったところでしょうか。もしかするとですが、先日のダーククロウ事件の背景にも絡んでいる可能性はないと言い切れません。俺が全力で身体強化して転び捜査で逮捕しようとしましたが避けられました。おそらく戦闘行動に関する反応速度は俺以上なのか、あらかじめこっちの動きを予測していたか……とにかく情報はスマホの中のデータが全部です。異能力者の世界を作り上げると言ってましたが、具体的に何をどうするかまでは聞き取れませんでした。ただ、一級の危険人物であることは確かです」
「今後、この人物が異能力者犯罪に関わっているという可能性を考慮しつつ臨むことになる。頭の隅に置いておけばいい。異能力者の逮捕や事情聴取の際にこの名前を出して、少しでも情報を集めていくことにする。現状では……」
内村課長の情報共有と捜査会議はまだ続く。ちょっとだけ眠いが眠気は会議が終わった後顔を洗ってしっかり目を覚まして日常業務に励むことにしよう。それはそれとして、竜円寺が今後どう出てくるのか、という辺りに焦点を絞っていくのがいいのかな。
言い様から察するに、今回の事件も異能力の試運転、といったところなのだろうか。だとすると、かなり強力な異能力や魔法、その他いろいろな種類も取り揃えて世の中に向けて情報発信や秘密組織の開示に向けて動いていくのだろうか。
言っていた、異能力者による新しい世界の実現というのが気になる。異能力者で日本の組織として音頭を取っていくのか、それとも国体を乗っ取るつもりでいるのか。
「……で、他に何か情報はないのか、進藤」
話が再びこっちに振られる。思い出しつつも絞り出した情報であるかのように、竜円寺の話していたことについて一言申し上げる。
「竜円寺は俺にも誘いを持ちかけてきました。異能力者による新しい世界の実現のために手を貸してくれないか? と。それは公安内部から情報を持ち出して俺に協力を知ろという意味なのか、それとも公安を抜けて彼らの元にはせ参じて手駒になれ、という意味だったのかまでは判断がつきませんでした。その前にお断りの連絡を入れたのですが、もう少し引っ張って情報を引き出すように仕向けたほうがよかったのかもしれませんね」
「まあ、お互いに示し合って出会ったわけではないからな。突発の情報でそれだけ聞ければ充分だとは言い難いが、及第点だろう。次回の犯行現場にもまた現れる可能性はある。出来れば確保したいところだが、進藤の身体能力で捕まえられないということは他のメンバーでも同じように無理である可能性は高い。ここは目的やそのための手段として何をしてくるかを予測しておくことのほうが重要だろう。ひとまず、組織力も人数も資金力もまだまだ検証が必要な相手であることに違いはない。今後似たような事件が頻発する可能性はあるが、同じスキルを用いてくる可能性は低いと考えられる」
「課長、それは何故ですか? 同じスキルを使う人間を多人数集めて同時に行使することで混乱を引き起こすには充分だとは思うのですが」
鈴木さんが内村課長の方針に異議を唱える。
「それはだな、今回の騒ぎの容疑者の様子を見ればわかるが、ある程度意識の洗脳をされたうえで能力を無理矢理植え付けられている可能性が高いからだ。となれば、同じ能力を持つものを複数人用意するよりも違うスキルをうまく行使できるようになるか、という方向で徐々に形を見ていく方が合理的な仕事の仕方である、と考えられるからだ。それに、起こしたいのは乱闘騒ぎではなく同志集めとおそらく事を起こすための資金集めやアジトの確保、それらを徐々にやりつつあると考えられる。だとしたら次に行われるのは異能力者による強盗や襲撃、それにあたるものだと考えられる。最近不思議な銀行強盗みたいなケースの犯罪があった場合、それが彼らの仕事であった可能性が高いな。その情報集めも必要だろう」
「では、進藤君でも抑えられないほどの身体強化をして襲ってくるような異能力者は出にくい、と考えていいのでしょうか」
「そう考えられる。むしろ彼をサンプルとしてどれだけ暴れられるかをチェックして、データとして収集していたとみるべきだな。異能力者として覚醒していなくても一般人にスキルを付与するだけでどれだけ暴れさせることができるのか。その為の今回の破壊騒ぎだったと考えると、よほど強力なスキル付与者が居るのだと推測されるが、もしかしたらスキルの付与は個人の資質に左右されるのかもしれないし、そのあたりも本人がわかっていないんじゃないか? というのが私の予測だ。他に質問は? 」
俺が手を上げる。疑問に思っていることは素直にこの場で出し尽くしてしまおう。
「何だ、進藤」
「この一件、都内だけで完結してくれるものなんですかね。もしかすると他の都道府県にも足を伸ばして異能力者として見込みある人物を探している可能性もあります。その場合、何故警視庁は黙っていたんだ、と突き上げを喰らうことにはなりませんか」
「そうだな……他県、この場合京都と奈良か。あっちにも情報を送って、似たような一件があったかどうか聞き取り調査を行っていく必要はあるかもしれん。とりあえず表面上のニュースで似た事件があるかどうかを調べる必要はあるだろうな。もしそこに第六課と似たような組織のかかわりが見られるケースがあった場合、該当部署に連絡を取ってこっちでもこういう騒ぎがあったから情報交換をしよう、という話になるかもしれないな」
「というと、前に来たあの二人がまた来ることになるかもしれないわけですか」
久我警部と山本さんのことを思い出す。あの時はこっちが聞きとられていく側だったが、今度は聞く側になるわけだ。どんな情報を持っているかどうかはわからないが、耳聡い京都府警なら近いうちに向こうからまた出張ってくる可能性はある。その為にはこっちでしっかり情報を集めておかないといけない、というわけか。
「他に質問がないなら今回の会議はこれで終了、頭の片隅に置いたまま通常業務の継続になる。何も起こらないのが一番だが、進藤にスカウトするぐらいの中々の目の付け所のある人物らしいし放っておくと急激に拡大して手が付けられなくなる可能性もある。その前に組織の洗い出しを進める必要があるだろう。そっちは俺が担当するからみんなはいつも通り頼む。では解散」
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