79:収束
77話、重大な浮気事案を発見したので修正しておきました。
新橋での大乱闘は終わった。周囲はガレキだらけ、商店はボロボロ。花屋の店先は完全に荒らされ、飲み屋の看板やノボリ、交通標識はあらかた引き抜かれたり散らばったりで大損害は確定だろう。犯人には盛大な請求額が届くのは間違いない。
今後の取り調べの行方によっては事件が内事六課に戻ってくる可能性もないではないが、身体強化能力自体は封印してしまったのでなぜ暴れたのか、という点についてはここの担当の警察署で取り調べが行われてその中で発覚していくことだろう。とりあえず今夜の出番はこれで終わりだな。
しかし……全力の俺を吹き飛ばせるほどの身体強化を身に付けるのは一朝一夕で出来る芸当ではない。誰かに無理やり付与されて、ついでに頭を混乱させられた、とみるのがいいだろうな。これは明日……もう今日か。報告書を出すときについでに申し送り事項として付け加えておこうかな。
「お疲れ様です、トモアキ様」
フィリスが一通りの仕事を終えて戻ってくる。けが人の治療はほぼ終わったらしい。後は救急の仕事、ということで他の怪我人についてはちゃんとした治療を受けたほうがよい、ということになった。何でもかんでも治療してはせっかく駆けつけてくれた救急隊員にも不思議がられるだろうからな。
「封印終わったわよ、これで暴れ出しても問題ないはずだわ。後は記憶はいじってないから、お酒も抜けて意識はハッキリしただろうし取り調べにも応じられるはずね」
「よーしよしよし。頑張った、今日はポテチを二袋食べてもいいぞ」
カルミナを軽くなでてやるとポテチ二袋につられたカルミナはゴキゲンで笑顔を振りまいている。
「じゃあ、俺は護送に付き合うから先に二人で帰っててくれ」
「はい、ほどほどで帰ってきてくださいね。もしくは第六課の仮眠室で眠るようにしててください。朝までに帰ってこない場合はお弁当作っていくので朝ご飯にしてくださいね」
「わかった、お弁当のほうで期待しておくよ」
フィリスとカルミナを先に家へ帰し、俺は所轄と共に署まで同行することになった。俺の横に手錠を三つかけた犯人を乗せ、警察車両が出発する。
犯人は完全に酒が抜けて、自分の力も抜けたことに勘付くと、今度はひたすら青い顔をしていた。これから何をしゃべらせられるのかという不安と、自分がやらかした騒ぎの規模に今更気づいて後悔しているのかはわからない。
「これから取り調べだからな。酒飲んだとはいえやらかしたことが軽くなったりするわけじゃないからな。これからみっちり、どこで酒飲んで何があって暴れたのかきっちり取り調べさせてもらうぞ」
同乗した警察官から犯人に向かって前口上を述べている。今のうちに軽い恫喝をしておけばスムーズに取り調べが出来るだろうという判断だろうか。
こちらも内村課長に連絡を入れておくべきだろうな。スマホで内村課長のところへ直接連絡を入れる。
「はい、内村」
「進藤です。無事……とは言いませんが事態の収束はしました。犯人は無事確保。付き添いとして新橋庁舎まで同行した後、部署に戻ります。そのまま部署内で仮眠して明日出勤……ということにしておいてください。流石に今から帰るのは難しいので署に戻ってそこで休むことにします」
自宅に戻るのと署に戻るのを比べたら署に戻るほうが早いからな。今日は仮眠室でゆっくり眠ることにしよう。
「わかった。現場の被害のほうは相当大きかったようだな。ライブ配信してるカメラもあったが、おまえ自身も相当やられたようだが大丈夫か? 流石に怪我ぐらいはしただろうに、明日出勤できないとか、いざ仮眠室にたどり着いたらそのまま動けなくなっていたとかそういう可能性はあるか? 」
「こちらのほうは問題ないです。何かあったとしても明日フィリスに診てもらえばいいでしょうし、心配するほどの怪我はしてないつもりです」
「そうか。こっちは悪いが自宅なんでな。もし報告書を早めに書いて出すなら署に戻った時に書いて机に提出しておいてくれ」
「了解です。それではおやすみなさい」
「うん、深夜にご苦労だった」
電話を切って、報告するべき内容を頭の中でまとめる。身体強化能力自体は非常に強力なものであったことを伝えなければならない。後、誰かに付与された可能性について言及はしておくべきなんだろうな。
途中で犯人を取り戻しに来るような動きもなく、無事に新橋庁舎まで送り届けた後で警視庁の第六課まで戻る。現場から所轄署まで付き添いをしたお礼だと言って、警視庁まで送ってもらえることになった。歩いて帰るつもりだったのだが、その分睡眠時間が増えてお得な気がしてきた。ありがとう。
さて、部署に戻ってきたぞ。このままここで仮眠していこう、もう終電もなくなったことだし今から家に帰って寝直すよりもここの仮眠室で寝ていったほうが睡眠時間が取れる。
さて、日報というか報告書を書いて……警察車両の中で考えた文面を思い出しながら徐々に書き始める。流石に始末書と違って報告書はパソコンだ。そのほうがきっちりとした文章になるし多少字が汚くても関係ないので淡々と書いていく。
本日夜間に発生した暴れた容疑者についての情報をわかっている範囲で書き記す。身体強化の能力を付与されていた容疑者の能力はアルコールが入っていたため、そのリミッターが解除されていたせいもあるだろうが、勇者であった俺のスペックにも追いつこうとするぐらいの強力なものであった。
特殊手錠も一つでは効果がなく、三つかけて封印を施すことでようやく抑え込むことが出来た。危険と判断したため、その場でカルミナの封印を施し、器物損壊、傷害、往来妨害罪で現行犯逮捕したため、他の署に連行された際も暴れて何かを破壊する、という形にはならないだろう。
もし今後脱走なりするケースはあるかもしれないが、そもそも容疑者の精神状態がまともではなかったため取り調べの先行きによってはこちらに再び連絡が入ってくる可能性もありうる。その際は誰からあの力を授かったのか、どういう経緯で暴れはじめたのか、という話を細かく聞く必要が出てくるだろう。
後は何だろう……現場の被害についてはこちらで把握しきれてない部分が多いし、フィリスによる簡易治療によって犯人と直接対峙してけがをした警察官については問題なく治療が完了していると思われる、ぐらいか。一応警察内部でも秘密組織扱いなのだから迂闊に治療させるべきではなかったかもしれないな。そこは反省点……と。
後は被害の金額等は後日民事裁判にて提出されるであろう被害届や損害賠償請求書を参照しないとわからないほどの規模の損害であったことと、警察にとっても道路標識やいろんなものが引っこ抜かれたのもあり、アフターケアが早急に必要であるだろうということを書いておけばいいか。何がどれだけ壊されたか、というのはこの時間から調べるのは難しい。他所の部署に任せよう。
今の段階で書けるのはこのぐらいだろうな。書類を印刷すると内村課長の机の上にプリントアウトしておいて、今日の、いや昨日の俺の仕事は終わり。さて、明日は出勤しなくてもいいし、適当な所で起きてきていつも通りの仕事に戻るとしよう。しかし、犯人の裏側にいたであろう誰かは何がしたくてあんな無茶なレベルの身体強化の付与を行ったのか……今後わかっていくのだろうか。
仮眠室に入り布団をかぶり目をつぶると、考えることが虚空のかなたにいき、眠気のほうが訪れ始めた。
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