77:喧噪での出来事
深夜、日勤を終わりフィリスと肩を抱き合いながらいつも通り眠っているとスマホが鳴る。着信音からして本部からの呼び出しのようだ。夜中に呼び出しを受けるのは珍しい。よほどの事態だと言えるのだろう。
「……はい、進藤です」
「寝てるところすまん、内村だ。至急新橋駅西口通りまで向かってほしい。酔っ払いが暴れているとの通報があり現地の警察官が向かったところ、交通標識を引っこ抜いたり街路樹を抜いて投げつけたり、あまりに力がありすぎて現地警察では確保できないらしい。今のところ遠巻きに被害を抑えながら避難をさせてるそうだが、肉体技能系能力者である可能性があるということでこっちにも連絡が来た。身体強化で言えば多分進藤が適任だろう。フィリスとカルミナを連れていくかは判断に任せる」
「解りました、進藤出ます。……深夜手当つきますよね? 」
「無事解決したらな。では頼んだぞ」
通話を切る。ややこしい異能力だったりすると面倒だが、純粋なパワー系と判断された辺り、他の能力の可能性は認められないんだろうな。つまりうちの課の誰かが既に現場到着して一報を入れている可能性は高い。落ち着かせて捕まえて終わり、かな。
「トモアキ様……内村課長から連絡ですか? 」
まだ眠たげなフィリスが体を起こす。前なら即座に目が覚めて出動、というのが身体に染み付いていたのだろうが、フィリスもこちらの事情に慣れてきて眠れるときはきちんと眠るようになったらしい。
「能力者が物理的に街を破壊して暴れまわってるそうだ。身体強化なら自信があるからな。そうそう負けたりはしないとは思う」
「では、急いで参りましょう。私はカルミナを起こしてきます」
「場所は新橋だ……まだ終電までは時間があるけど、ついてくる気満々だな」
「もちろんです、私はトモアキ様の力になりますし、もし現地でけが人がいたならこっそり治療する必要もあるでしょうし、カルミナが見えない霧で周りを落ち着かせることも必要でしょう。最初の通報こそ異常だったかもしれませんが、最終的にただの酔っ払いが暴れただけ……そういう風に見せかける努力も必要だと考えます」
「なるほどな。じゃあ任せる。まずは着替えないとな」
急いで服を着替えていつものスーツ姿になると、一般人に紛れ込むように新橋駅へ向かう。フィリスとカルミナも着替え終わって一緒についてきた。
「勇者……まだ眠い」
「終わったら寝てても背負って帰ってやるから目を覚ましててくれ。お前の霧能力が必要になるかもしれんからな」
「そういうことなら今はもうちょっと頑張る所ね。でも、夜中に事件を起こすなんていい度胸してるわね。私の安眠の邪魔をした分だけ覚悟してもらわないと」
カルミナが眠気を吹き飛ばしやる気になり始めた。そのままやる気を維持したままでいてくれるとありがたいな。
新橋駅に到着すると、西口は無茶苦茶になっていた。ひん曲がった信号機、引っこ抜かれた街路樹と消火栓の標識、そして避難して遠巻きに見ている人々。スマホで様子を撮っている奴もいることから、完全に遮断することは諦めた。さて、暴れてる奴はどこにいるのやら……と、見つけた。警察官複数人と押しくらまんじゅうをしているが、警察官側が負けて吹き飛ばされている。
異能力を使ってる痕跡はあちこちにあり、瘴気にも似た独特の魔術の香りが立ち込めている。身体強化の魔術を使っているのは間違いないらしい。急いで内村課長に現状報告をして、目撃者が多数いすぎるため第六課で抑え込むのは不可能だと報告をすることにしよう。行動を起こすのはその後だな。
「こちら進藤、現場には多数の目撃者。スマホでライブ配信している者もおり、封鎖するのは不可能だと判断します。対応どうしますか」
「そうか……わかった。たまたまお前がいたから抑え込めたということにしておくので、周りの目を多少気にしつつも現状からの最小限の被害で食い止めてくれ。根回しはこちらでやっておく」
「わかりました。とりあえず表向きは特殊な薬物中毒者の疑いがあるということで応援に駆け付けた、ということにしておきます」
「それがいいだろうな。よし、進藤。後は任せた」
「はい、では失礼します」
電話を切り、軽く準備運動を始める。さて……たまには全力を出させてもらうか。
「フィリス、警官側にけが人がいたらこっそり治療を」
「わかりました。できるだけわからないようにします」
「カルミナは霧で周囲の人々を散らしてくれ。できるだけ周りに被害が及ばないようにしなくちゃいけないからな。これだけ広まった以上もう沈静化することはできないだろうから、何気ない日々の一幕ぐらいまで落とし込んで興味が無さそうに振る舞わせてやってくれ」
「わかったわ。そう思考誘導させればいいのね」
後は……容疑者は無理矢理止めるしかないな。まずは力で受け止めて、その後どうするかは今のうちに考えておかないと、俺もヒートアップしてやりきるところまでやり切ってしまうかもしれん。
「そこまでにしなさい、警察だ」
ファーストタイミングは落ち着いて。強者の風格なんて見せつけなくていい。ただ沈静化させに来た一おまわりさんであることを認識させなくてはいけない。
「それ以上暴れられると被害が洒落にならなくなる。そこまでで落ち着きなさい。何があったかは知らないが器物破損と往来妨害罪、それから傷害の現行犯だ」
「おれをとめられうれじゃじわ」
だめだ、日本語以外の言葉でも通じないぐらい酔っぱらっているか、精神的にキているらしい。実力行使しかないか。
暴れている容疑者は俺に向かって走り込んでパンチを繰り出してくる。テレフォンパンチだが、避ける余波でダメージを受けそうなぐらい勢いとパワーのありそうなパンチを、全力で身体強化した片手で受け止める。
受け止めた瞬間バチイィッといい音が響く。警察官側はおおぉっという声と共に、これだけ暴れていた犯人を片手で受け止めたことについて驚かれているようだった。
「はい、動かないでくださいね、多分折れてますから固定して治していきますよ」
その間にけが人の治療をフィリスが行っていく。サイレンの音が聞こえてきたのでどうやら救急車も到着したらしいが、まだ暴れている犯人がいるためそこまで近づけないでいるらしい。早いところ抑え込まないといけないな……と。犯人が今度は体当たりを仕掛けてきた。受け止めようとするも、スピードと勢いをもろに喰らって俺も吹き飛ばされ、ビルの外壁にぶち当たる。
当たった分だけビルの外壁は凹んで、修理代のかかることになっただろう、どうも参ったな、損害なしで抑え込むつもりだったが早速損害を出させてしまった。いかん、早速内村課長との約束を破ってしまった。
「おー凄い体当たりだ。意識ごと持っていかれるかと思った」
頭を軽くコンコンと叩いて、意識をこちら側へ戻す。視界は歪んでいないので脳にダメージは入っていないことを確認。さて、全力の身体強化なら抑え込むことはできるが、その状態でどこまで無傷で相手に手錠をかけることができるのか。そのあたりが思案のしどころだな。
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