76:その後
事件は終わりをむかえた。池袋での喧嘩騒ぎはたまたまいた警察官に半グレグループが喧嘩を売ったことから始まり、逆に一方的にボコボコにされて全員公務執行妨害と暴行罪で逮捕されていった。
その後行われた現場検証によって、違法ドラッグの類が見つかったため、彼らの罪はより重くなるだろうというのが警察発表のニュースとなった。ネットでは、現地に居た警察官どんだけ強かったんだよ、二昔前の刑事ドラマじゃねーんだぞと少しだけ話題になった。
たまたま現場の近くにいた目撃者の書き込みによると、拳のお話し合いが終わってから刑事が一斉に突入して一斉検挙が始まったため、やたら喧嘩の強い刑事がいたんじゃないかという話で盛り上がったが、その後他のニュースによりかき消されていって、俺とカルミナ二人の蛮行は話題に上がることはそれほどなかった。
この騒ぎのそもそもの中心人物であった前島京子は取り調べに対し真摯な態度で臨み、また異能力を持ち合わせなくなったので一般の刑事事件として裁かれることになった。証拠隠滅や逃亡の恐れもないと判断されたことから、在宅起訴という形になり、フィリスの治療もあって医者が驚く速度で回復した堀江健太とも比較的早く再会することが出来たらしい。
起訴や裁判は今後行われていくのだろうが、検察の話によるとこちらの情報を完全に塞ぐ形で起訴する場合、扇動罪についても罪に問えない可能性が高い、という話だ。そうなると、傷害示唆に当たる可能性もあるが、どうやって示唆を行ったのか、そもそも実行犯である暴動の連中との関係性からして、どういう意図や背後関係があってどのように示唆したのか、という部分について曖昧になってしまう。
こうなっては傷害示唆についても怪しく、騒乱罪の適用も難しい、という話になると、じゃあ一体彼女は何の罪を犯したのか? ということにもなり、どうやら警視庁も検察に送る送致文面を作るのであたふたしているらしい。まあ、そりゃそうだろうなというところだな。
そのため最悪、不起訴の形で処理するかもしれない、という話らしい。今回のケースは復讐心が元とは言え、かなりの被害者を出した事件でもある。その事件の顛末が不起訴、となるとマスコミや暴動に巻き込まれた被害者たちが騒ぎ出す可能性もあるが、実際に暴動を起こしていたのは半グレのチームであり、彼らは今もまだ病院で治療中。
治療が終わってから暴動を実際に起こした加害者として、被害者たちが裁かれていくことになっていくというのは、今回の騒ぎを俯瞰してみることができる者にとっては、半グレグループなんかに入り込んでレイプまで行った自分たちの自業自得でもある。しかし、本来裁かれるべきものが裁かれないことによる不満感みたいなものは残るだろう。
視点を変えて社会的に見たらどうだろう。半グレグループが実質三つ、つぶし合って社会から消えてくれたのだから社会貢献としてはバッチリ、という意見もあった。実際に加害者がいたかどうかはおいといて、世の中の掃除をしてくれた、と好意的に見る人も多いだろう。
しかし、不起訴となるならじゃああの喧嘩は一体何だったんだ? と気にする人も多くなるだろう。なんだか、自分達が関わってきてからこの隠れた公安第六課も表舞台に立つような事件が出てきてしまうのだろうか。もしかしたら俺がこっちの世界に戻ってきたことによってなにかしらの事象がかき混ぜられたような気がしてきた。
今後はできるだけ控えるようにして日常業務である浄化と見回りに力を入れていくことで、異能力者とのバトルみたいなものからは出来るだけ離れるようにしていこう。
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始末書と反省文で済んだ俺は今回活躍する場面はそう多くはなかったが、実際に彼女の凶行を止められず暴動が発生していた可能性のほうを考慮すると今回は戒告処分、ということになった。減給とかそういう方向にならなかったのは一つ良かった、という所だろう。
フィリスは堀江健太の回復をサポートし、それによって最悪のパターンは防ぐことはできたとして逆に金一封が出ることになった。フィリスは金一封が出たことよりも前島京子が軽い罪で済むことのほうがほっとしたらしく、その言動にも内村課長の機嫌をよくする一助になった。
なんだかんだでフィリスも内事六課に馴染んできたな、というのをほんのりと感じてきた。カルミナは初日からしっかり馴染んでいたので後は俺がちゃんとしなくちゃいけない所なんだろうな。
さて俺とカルミナだが、始末書と反省文できっちりそれで今回の話は終わりということになり、日常業務に戻った。
カルミナが吸収した霧の能力者の能力は、何回かテストをした。使い始めた当初はただ霧が出るだけで訓練場を真っ白にしてしまい、炎上騒ぎと勘違いした内村課長に軽く怒られもしたが、複数回の使用によって、岬さんのような異能力を持たない一般人に対して効果があることを確認できた。
そこから更に性能を増して、霧を発生させたフリをして何もない空間に人払いの結界と同等の能力を持つまでに至った。前にテストした能力者にだけ効果を及ぼす人払いの結界と同様の能力も持つことが出来た。カルミナの能力訓練の成果である。
総仕上げに警視庁の地上階で能力を使って一般警察官に向けて試したところ、素通りされたあげくエレベーターを動かしても気づかれなかった。かなり使い勝手がよく、自分で出し入れ自由で扱えることから、カルミナのその能力を使うことを部署内で公に認められた。
人払いの結界をうっかり忘れてもカルミナがいれば不要になった、ということになる。その分だけ更に予算を使わなくて済むようになった、と内村課長は好意的に見ているらしい。ただ、悪用はしないようにと厳命したのと、カルミナが悪ふざけで使った場合は俺かフィリスが強制的に浄化、封印して使用しないようにと後付けの説明をされた。
カルミナとしては、フィリスのアイアンクローは軽いトラウマになっているらしく全力で頷いていた。フィリスのアイアンクローはそれほどの威力があるものなのか、それともアイアンクロー越しに魔力を吸い取られていくのが痛いのか、もう二度といたずらはしない、というような感じであった。
今日もこうして日々の浄化の定期検診をしつつ、東京都内各地の墓や仏閣、パワースポットを回り、瘴気が溜まってきているなら除去しつつ、すれ違う人たちにも軽い浄化をかけながら出歩く毎日だ。
しばらくは平和が続いてくれると良いなと思っている。次の事件までの短いささやかな平和だ。また何処かで新しい異能力者が生まれてはその力を悪用した犯罪を犯しているかもしれない。
異能力者が生まれることはどうやら止めようがないらしいし、異能力を意図的に付与して社会的混乱や己の利益のために行動しているどこの誰とも知らない者がいることもわかっている。しかし、しっぽを掴むまではこちらから何かをする、といったことはできない。
事件らしきものが発生してからでないと動けないのが警察だ。俺も警察所属である限り、事件が発生してからでないと動けないのは確か。できることはあんまりない。それでも、やれるだけのことはこれからもやっていこう。
このままあと何年か生き残ることが出来れば正式にフィリスと結婚して所帯を持つことだって可能になるはずだ。今のところそこが目標だな。それまでは出来るだけ平穏な時間が過ぎてくれることを願う。
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