75:報告書と叱られ
「じゃあ、始めるわね」
カルミナが能力の封印を始める。病室の立ち入りは色々あって遠慮してもらっているので邪魔が入ることはないだろう。その間に前島京子の異能力を封印することに決めた。
「そういえば聞いてなかったな。どうやってこの能力を手にしたんだ? 」
前島京子は少し考えるそぶりをしてからある意味予想通りの答えが返ってきた。
「覚えてないわ。気が付いたら使えるようになってた。だからこそ、お礼参りを思いついたのよ。もし誰かに教えてもらってたら、事件はもっと早く発生してたと思う」
「ふむ……手掛かりなしか。今回も異能力者に関する手掛かりは何もなしってことだな」
もしかしたら運び込まれて眠っている間に何かしらの悪戯がされてそれによって異能力を発現したのかもしれないし、レイプされたショックで目覚めたのかもしれない。どちらかは解らないが、また異能力に関する手掛かりが得られなかったのは間違いない。
カルミナが儀式の準備を終え、目を閉じて早速能力の封印を始める。能力に関する一部の記憶も消すため、思い出して再起動する、と言ったこともないだろう。
「せっかくの便利な異能力、私が効果的に使えるように私の中に封印してしまうわ。これを応用すれば結界の魔道具がなくてもこっちに意識が向かないように操作することも難しくはないとは思うわ」
「トモアキ様いいんですか? またカルミナに変なおもちゃを持たせて」
「うーん……使い所はあるスキルみたいだし、間違った使い方をし始めた時は没収して再封印する、という形にすればいいんじゃないかな。カルミナの言った通り、結界の魔道具なしで動けるようになるのは得になる場面が多そうだ」
カルミナが儀式を継続していくと、前島京子の身体を光が包み込み、そしてその光がカルミナに移されていく。そしてすべての光がカルミナの体内に取り込まれ、少しカルミナが成長する。服も成長に従って拡張されているようだ。流石に自分の魔力で編んだドレス、というところだろう。カルミナが光の動きを終了させて閉じていた目を開く。
「終わったわよ。これであなたはもう霧の能力は使えないはず。試しにやってみてくれても構わないわ。もう一回使えたらもう一度儀式をして今度こそきっちり封印するから」
「やってみるわね」
前島京子が普段やっていたかのように手を下に向けて手のひらから何かを取り出そうとしているポーズを見せるが、何も反応はない。念のため破魔のネックレスをアイテムボックスから取り出して反応を見るが、うんともすんとも言わない。
「……ダメみたい。完全に力を失ったってところかしら。これで、一般人として生活できそうね。びっくりして出すようなこともなさそうだし、あなたたちに託したことになるかしら」
「ちなみに私は出せるようになったみたいよ。こんな感じで」
カルミナが手のひらから薄い霧の幕を出してみせる。どうやらカルミナへ霧の異能力の権限は移譲されたらしい。これで面倒ごとを起こさないならそのまま、何か問題を起こしたらフィリスと共に再封印して何もできなくするところだろう。
フィリスと見つめ合い、肩をすくめて軽く笑ったところで、今度こそ前島京子を警視庁に移送しなくてはならない。
「じゃあ健太さん、私行くわね」
「ああ、待ってるからね」
実際のところ、これ以上同じ罪を重ねる可能性はないのだから俺が考えてるよりももっと罪は軽くなる可能性はある。もしかしたら逮捕、ではなく参考人として今回来てもらうだけで、起訴やその他手続きは在宅という可能性もある。ただ、復讐という方法を取ったことについては厳しく追及されるだろうが……そもそも、騒乱罪と傷害未遂罪以外で裁く方法はあるのか? というところだ。
道中、彼女は何もしゃべらずにずっと顔を上げていた。もう覚悟は決まってるし、復讐も果たした。そして能力も使えなくなったことで今後の生活についても色々考えているところだろうが、まずは彼女自身が落ち着いていることからも、素直に取り調べに応じて必要な情報を提供してくれる事だろう。
そして、第六課に帰ってきて最初の一言は叱られだった。
「いいか、お前らは池袋で乱闘をさせるために向かわせたわけじゃないんだ。容疑者である前島京子がこれ以上扇動して乱闘をさせないために派遣したはずだぞ。それを代理で任務達成してどうするんだ! いくら半グレだからってやっていいことと悪いことはあるだろうが! 」
「お言葉ですが内村課長、我々も巻き込まれたほうなのです。あと数分時間稼ぎが出来れば彼女と半グレのアジトの前でお話し合いをすることなくもっと手早く事態を収束できたかもしれません。それに、いずれは立ち入る必要性があったであろう半グレのアジトです。ここは暴力団対策課に手柄を全部譲るってことで貸しを作っておけたのですからそれで帳消しってことになりませんか? 」
「ならん! なにより、カルミナが暴れた分だけの被害額が大きすぎる。カルミナの保護者である進藤、お前の責任だからな。始末書と反省文で済ませてやるが、以後このようなことのないようにしっかり勤め上げろ。後カルミナ。今日はポテチなしだ。それと反省文も書くように。これを以って反省ということにしてやる。内々で済ませられるだけまだマシ、ということにしておくからな」
始末書と反省文か……それで済むということはそれ以外のことについては予定通りに進んだからよし、ということにしておいてくれてる分優しいと言えるところか。さぁ、さっさと反省文と始末書書いて家に帰れるようにしたほうがいいな。しかし、このデジタル化の世の中でも始末書と反省文は手書きなんだなあ。
念のためにパソコン書きではだめか? と内村課長に聞いてみたが「手書きじゃないと反省した気にならないだろ? 」と言われたのでしぶしぶ原稿用紙に手書きで書いている。これとはまた別に始末書を書かなきゃならない。今日は残業にならない程度に時間をかけないように頑張るか。
フィリスがお疲れ様、とコーヒーを買ってきてくれた。ブラックだった。ちょっと甘味が欲しかったところだが、せっかく買ってきてくれたコーヒーだし文句を言うのはお門違いだ。有り難く受け取って飲み干すと、反省文に集中する。
本日池袋ににおいて、本来阻止させるべき乱闘騒ぎに対して職務遂行をした結果、止めるどころか自分が手を出して乱闘に参加し、それにより自称一般人に迷惑をかけ、多数のけが人を出してしまい誠に申し訳ありませんでした……以後このようなことがないように職務に邁進し、忠実に勤め上げることにいたします……と。こんなものか。
始末書のほうは……フォーマットとかあるかな。誰かが過去に始末書を……あ、近藤さんが最近将門塚でやらかした時のがあるはずだ、わかりやすい形として利用させてもらおう。
ふむふむ……よし、こんな感じか。始末書を紙一枚にまとめると、内村課長の机の上に提出しておく。後で見るだろうしやり直しって言われたらやり直せばいい。書き始められなくていつまでも進まないうちに時間を浪費するよりは、ダメでも出して、ダメな点を指摘されて書きなおす方がいくらかマシだろう。
カルミナも反省文を書き終わったのか、内村課長の机の上に提出していた。字が俺より綺麗。これが召喚補正って奴か。そういえば俺も向こうの文字は流暢に書けていたし、やはり召喚魔方陣に仕込まれた文字変換と言語変換の機能は相当優秀なものが使われているのだろう。
カルミナより多少汚い字でも自筆なことに間違いはないので、これで始末書と反省文提出完了。さて、帰ろう。
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