74:反省
「大バカ者! お前たちが騒ぎを大きくしてどうするんだ! 」
内村課長に連絡を入れると、真っ先に怒られた。仰ることはごもっともです。
「全く……まあ、いずれ何か問題を起こす前に捕まえられたと見るべきなんだろうが、それは六課の仕事じゃないだろうに」
「いやあ、久しぶりに良い運動をしました。彼らについては暴力団対策課にでもお任せすることで事前に犯罪を抑止できた、ということでいかがでしょうか」
「それはもう連絡を入れてある。おかげで池袋、渋谷のいくつかの半グレ集団への強制捜査も始まるだろう。表向きはそれでいいだろう。前島京子についても、半グレからの保護、ということで一時的に署まで来てもらう。そこまではいいな? 」
「わかりました。連行……いえ、お付き合い願います。では、そちらに帰ります。残りのことは周りを囲んでいる捜査員に任せます」
まだ腰が抜けているままの前島京子を前に手を差し出して立ち上がらせる。
「ありがとう……強いのね。私はまだ、ダメみたいね」
「時間が解決してくれるさ。まだまだこれから時間もあるし、健太さんも無事に退院したらまたイチャイチャして上書きしてもらえばいい。いやな出来事はたくさんの楽しい出来事を積み上げることで忘れることもできるらしいぞ」
前島京子は俺の手を取る。軽く膝をパッパッと払うと、にっこりと笑って立ち上がる。
「それは素敵な話ね。でも、その前に私は私の罪を清算しなきゃいけないわね。今回は何もしてないと言っても、二回ほど罪を犯してしまっているのは確かなのだから」
「そうだな。でもまあ、反省しているということならそれほど重い罪にはならないと思うぞ。思考を操って犯罪行為をさせた、というのを立証する手段というのは限られている。執行猶予が付くかもな」
さて、今から彼女を連れて、病院へ行くか。
「内村課長、ちょっと寄り道してから帰りますね」
「寄り道ってお前……あぁ、そういうことか。わかった、許可する。ただし手短にな」
「はい、ありがとうございます。では、寄り道が終わり次第容疑者と共に帰還します」
捜査員が入り込んでくる。入り口から奥の部屋に向かって散々に暴れたため、散乱した家具やらメチャクチャになっている。その中を一人ずつ逮捕し、連行していく。どうやら連絡を盗み聞きする範囲だと、護送車をこっちに呼んでいるようだ。何人吹き飛ばしたっけな。数は一々数えてないし、数を競うつもりもないから好き放題に暴れさせてもらったからな。
前島京子と手をつないだまま、建物を後にする。残りの手柄は暴力団対策課の手柄だ。好き放題グループの資金源や繋がっている暴力団があるのならその背後関係なりなんなり好きなだけ漁っておいてもらおう。
「どこに行くの? 」
「数日、下手すると半年ぐらい会えないかもしれないからな。その前に会っておきたいだろ? 健太さんと」
「いいの? 」
「許可はもらった。それに向こうにはこっちの仲間もいるから合流ついでってところだな。ちゃんと再会して、謝って、それから付き合ってもらうからその間は……まあ、こっちは休憩でもしておくさ」
◇◆◇◆◇◆◇
前島京子を連れて病院まで来た。カルミナと俺で見張っているという体で、手錠はかけないままここまできた。今更逃げないだろうという確信もある。病室まで連れていくと、その場にはフィリスと男性がいた。この男性が健太さんなんだろう。
「健太さん! 」
「京子、そんなボロボロで……でもこっちはこの通り、目も覚めたしほとんどの怪我はこの人が治してくれた。内臓までボロボロだったらしいね、俺」
「でも、ごめんなさい。私、汚されちゃったわ。どこまで見てたかはもうわからないけど、色々とボロボロにされちゃった」
「今の服装もボロボロだな。でも、今回のことはお互い忘れよう。野良犬にでも噛まれたと思ってさ。こうして俺も京子も無事ってことになった。犯人はもう牢獄の中みたいだし、少しばかり無駄な時間を使ってしまった、ということにしておこうよ」
健太さんは前向きに生きていこうという意思が見られる。体の傷は癒えても、心の傷は癒えるかどうかは正直俺にもわからない。そんな人物を俺は何十人も見てきた。
勇者として襲われた人々がその記憶が気になって生活にも支障をきたすようなことだってあった。そういった場合、フィリスにあえて記憶を消させて誤魔化したり、元の生活に近い形で生活ができるようにあつらえたこともあった。
魔法で記憶を消したりすればしばらくは忘れることはできるだろうけど、何かのショックで思い出すことだってある。無理矢理そうやるよりは気にならなくなるように人生の方向性を進めるほうが大事だろう。
彼女の心の傷を癒すのは健太さん次第だとは思う。前島京子は復讐を果たしたが、その復讐に見合った罪をこちらが与えることはできない。とりあえず、彼女の霧の能力については封印させてもらうことにしないといけない。
「前島京子さん、あなたのその霧の能力、封印させてもらいます。そのまま生活するにも不便でしょうし、あなたが能力を使おうとすることで今回の事件について思い出すきっかけにもなりかねない。それから、もし何かのタイミングであなたの能力が暴発した時には力ずくで止める必要が出てくる。だから……」
「はい、力はもう必要ありません。健太さんが無事でいてくれるなら、後はもうどうなっても構いません。逮捕なり封印なり自由にしてやってください」
あっさりと同意してくれた。
「ちょっと驚いたかな。異能力を手に入れたからには自分で自由に使いたいと言い出すかと思ったけど」
「あなたの言った通り、思い出すきっかけになることのほうが怖いわ。それを考えたら、能力ごと記憶も消してもらってしまっても仕方がない、とは思っていた所だけど」
「記憶のほうは……消すといくつか齟齬が生じるからな。まず、君の罪が問えなくなる。本人の記憶も能力もないのに事件を起こした、という情報に齟齬が生じて、結果的に君の記憶が復活することになる。そうなるよりは、能力だけを封印して記憶は残させてもらう」
「それもそうね……ごめんなさい健太さん、また二人でゆっくりするのは少し先になりそう」
「詳細は治してくれた女性から聞いてる。俺のためにやってくれたことなんだ。二人で乗り越えていこう。そして刑期が終わったら、一緒になろう」
こんな所でプロポーズするというのも珍しいことだと思うが、感動的なシーンであることは間違いない。離れていたフィリスも合流し、三人で二人が見つめ合うのをただ見ている。
「感動的……で良いんでしょうか。この後お二人を引きはがすのがなんだかもったいなく感じてしまうのですが」
「仕事は仕事だ。きっちりこなしていかないと内村課長に怒られるし、これ自体も特例みたいなもんだからな。もう少しだけ二人にさせとこう」
「珍しく勇者がまともなことを言ってるじゃない。どうせ異能力はがすのはあたしの仕事なわけだし? もうちょっと見ててもいいわね」
二人抱きしめ合っている中、開いている窓から風が通り抜ける。まるで、風が二人を撫でて祝福しているかのように見えたのは気のせいだっただろうか。
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