66:霧の能力者 2
数日後、事件は始まった。今日も何事もなく平時の浄化作業を終えて帰ろうかと帰り支度を始めた頃に、内村課長からの緊急集合がかけられた。
「どうやら渋谷で謎の霧が再発生しはじめたと通報があったらしい。その一報以外にも一般市民からの複数の通報があった。ただ、話している途中に切れたり、通話のまま突然叫びだしたりするケースがあり、今警察無線も混乱している。もしかしたら例の霧の能力者の仕業かもしれない。このままで悪いが、至急渋谷センター街駅まで向かってほしい。その際、ガス対策としてガスマスクを各自持っていくようにしていってくれ。最悪警察官の同士討ちが発生するケースもある、充分に気を付けていってほしい、では、各自移動開始」
内村課長はここに残って全体指揮と状況把握に努めるらしい。俺とフィリスとカルミナも、現地要員として出動が命じられた。
「ようやく出番ね! 霧と言っても能力には違いないから、結界さえ張れれば防げると思うわ」
「問題は巻き込まれているであろう一般市民のほうか。結界で自分を防御しつつ、結界範囲内に入った人を少しずつ逃がす形になるのかな? 」
「結界で覆ってしまえば霧の能力は解除されるはず……私の部下だった奴の能力ならそうだったから、こっちでも同じとは限らないけど、フィリスの結界なら広範囲で移動しながら結界を張り続けることもできるはずよね。そうして避難誘導すると良いわ」
「ここはカルミナの言うとおりにしてみましょう。やってダメだったら能力者本人を探す方に焦点を絞ったほうが良さそうですね」
俺は念のため、渋谷センター街のライブカメラをネットで確認するが、完全に霧に包まれてぼんやりとしか映っていない。しかし、霧の中ではうろうろする者や吸わないように口元のマスクやハンカチで顔を覆う人や、暴れ出してショーウィンドウや標識を破壊する者などを見ることが出来た。
「ううん……前回の再現もされてるような感じか。しかし、何を目的にしてこの霧を発生させているかをはっきりさせないと、対処療法にしかならないな」
「進藤、そのへんの指示も俺が出すから現場に急行してくれ。確実に霧の影響を受けずに動けるのはお前達三人ぐらいだろうからな」
「わかりました、至急向かいます」
内事六課のバンを駆り、俺、フィリス、カルミナ、近藤さん、鈴木さんが渋谷に向かう。到着までにどれだけの被害が出るかまでは解らないが、到着次第なんとかできる……犯人がその場に居れば霧の発生中心地点として結界魔法で包み込んでしまえば犯人も確保できるだろう。
「ガスマスクの準備は良いですか? 」
「こっちは結界魔法でなんとでもなる。俺達三人はともかくとして、鈴木さんたちは早めに準備をしておいてください。車から飛び出る前に装着ではなく、今のうちに装着しておくぐらいの念入りさでないと危ないかもしれません」
「解ったわ……慣れないわねこれ」
「まあ、慣れないほうがいいんですけどねこんなもん」
鈴木さんと小林さんが掛け合いをしつつも、車は渋谷方面へ向かう。
「こちら内村、渋谷センター街は完全に霧に包まれた。倒れている人もいるかもしれない、踏んづけるなよ」
無線から内村課長からの指示が入る。
「センター街の手前で霧が発見できたところで降車、そこから突入だ。民間人の保護を最優先。暴れるものが居たら無力化して保護。霧の外まで誘導した後解放せよ」
「近藤班了解。引き続き渋谷へ急ぎ向かいます」
サイレンを鳴らしパトランプを明滅させながらバンが走る。同様の車が三両ほど続くが、どうやらお仲間ではあるらしいが部署違いの応援、ということらしい。彼らとも連携しながら移動しなきゃいけないな。
前後の車両の警察官はちゃんとガスマスク配備されているんだろうか。配備されてなかったら場所から引きずり出してでも霧を吸い込ませないように彼らも保護の対象になる。頼むぞ他部署。
霧が発生しているらしい地点まで車は進んで、手前で停車。全員がガスマスク装備で、俺達も念のため身元を隠し、こっそりと結界を張っていることを気づかれないようにガスマスク装備だ。
「コーホー。では行くぞ、行動開始」
近藤さんの合図で全員が飛び出る。前後の警察車両からも人が飛び出るが、彼らはちゃんとマスクをしていた。一つ懸念が減って何よりだ。
いくつかの人の塊が霧に近寄るかどうするか悩んでいる姿が見えたので、他の警察官が注意をしに行く。現場には規制線が張られはじめ、徐々に範囲が広がる霧に対して対応をしているように見られる。みんなが頑張ってくれている間にこっちで対処しろ、ということなんだろう。
「よし、今のうちに突入するぞ。入場規制は他の課に任せよう」
近藤さんを頭にして全員で霧の中に侵入する。霧の中には……倒れてる人が複数人。どうやらまともに吸い込んだらしく、少しばかりの呼吸困難を起こしている人もいるようだ。
「一般人確保、保護が最優先。フィリスと進藤で結界で覆いながら保護だ」
「了解。大丈夫ですか」
一人一人やっていたら埒が明かないので、フィリスに広めの結界を張ってもらってその中に数人を囲い込むと、動ける人は自分で、動けない人は肩を貸して霧の外へ連れ出す。
それを複数回やっている間に、近藤さんと鈴木さんは全体の把握と救出をしている。カルミナはどうやら霧の中心点を探っているらしい。流石魔王の分霊だけあって、霧の中でも平気らしい。
「移動しながら異能力を行使しているみたいね。中心点みたいなものがどんどんズレていくわ」
本人は散歩がてら毒霧攻撃とは恐れ入る。そのままカルミナには犯人の特定をしてもらいつつ、安全圏の確保に努めてもらおう。
しばらく民間人の保護を最優先に移動してはいるものの、人数が多い。流石に人が多くいる場所なだけはある。全員とまではいくかどうかわからないが、可能な限り多くの人を助けられるようにしよう。
幸運なことに、建物の中までは霧は入り込んでいないらしい。あくまで外にいる人が救護対象だ。可能なだけ助けて回って、カルミナが犯人を特定するまでの時間でできるだけ……と、暴れ出した奴がいるらしい。どうやら向こうで叫び声がする。一定以上の濃度の霧を浴びると狂暴化、薄い場合や本人の気質によっては気絶や朦朧とした状態になるらしいな。
暴れ出した一般人をフィリスが腹パンで黙らせて肩に担いで脱出を始めている。あれ結構痛かったはずだ。暴れ出した奴の冥福を祈りつつ、朦朧としている人たちの脱出を急がせる。
「見つけたわ! 犯人! 井の頭通り方面から渋谷駅に向かってる! 」
カルミナからの通信で犯人の方向が分かった。そのまま通り抜けて他の地域にまで手を出されるとさらに厄介なことになる。その前に止めなければ。
カルミナの通信を聞いた俺とフィリスが一旦救護活動を中断して井の頭通り方面へ駆け出す。到着した先には、一人の女性がゆっくりと夜の散歩でも楽しむかのように歩いていた。彼女の周辺は明らかに霧の濃度が濃い。巻き込まれたら俺やフィリスでも危ないかもしれないな。
「あら、この中で平気な人もいるのね。もしかして、ガスマスクのおかげかしら? だとしたら、あなたたちは私を捕まえにでも来たってところかしらね」
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