64:平和は過ぎ去りし
しばらくして、何事もなく日常業務を繰り返していた俺達に緊急招集がかかった。なんだろう? 珍しいこともあるもんだ。
部署勢ぞろいで内村課長のところに整列すると、開口一番事件のあらましを説明しだした。
「まず、表向きにはこの事件は内事六課の仕事ではない。あくまで一般事件に該当する話だ。昨日起きた渋谷での乱闘騒ぎについては知っているか? 」
「たしか、半グレ同士の乱闘が広がって数十人単位の乱闘になり、渋谷駅前交番だけでは抑えきれずに渋谷区警察署本署まで騒ぎが波及して結構な規模の出動があったってっていう事件ですよね? 」
たしかネットで見てたな。事件の様子はリアルタイムで実況されて何万再生もされていたはずだ。あの光景は現地で見ているようで中々にすごかった。原因は本当に半グレだけの乱闘かと思いきや、一般人も紛れ込んでいたという不思議な事件だった。
「では、その乱闘騒ぎの中に異能力者が居たということですか? 」
「まだ定かではない。ただ、明らかに一般人も混じって乱闘に参加していた、というのが不思議でな。普通なら避けて逃げ出すところへ何故嬉々として向かっていったのか。こっちでも何か掴んでないか? という話が本筋だ。この際ダーククロウを疑う必要はないが、他の組織や完全に独立した異能力者による犯罪誘導……この際思考誘導と言ったほうが良いか。その可能性を指摘されてこっちに少し話を回せないか? という形になった」
なるほど、思考誘導か……しかし、何が目的でそんなことをさせたんだろう? 渋谷の支配勢力図を書き換えたりするならもっと一方的な思考誘導の方法もあっただろうに。
「つまり……参加した一般人を判別して、その中に異能力を使われた痕跡がないか調べる、ということになりますか」
鈴木さんが確認を取る。それが出来るのはフィリスか俺か、カルミナか。他に人員が居れば誰かが行うことになるだろうな。
「そうなると思われる。ついてきてくれるか。今大規模乱闘の聴取ということで、渋谷区警察署も手が一杯で、比較的関係性の浅そうな容疑者……つまり一般人参加者だな、彼らについては今警視庁本庁で取り調べを受けてるところなんだ。それほど長く拘留できるわけでもないし、急ぎの用事と言えばそうなる」
ふむ……近くに、というか真上に来ているなら他の部署からも何らかの名目で被疑者に出会えるというわけか。それがもし異能力者がらみならうちの部署の出張る話になるってことだろう。
「では……小林君と鈴木君、悪いが付き合ってくれるかね。鈴木君は質問担当、小林君は筆記官のふりをして異能力の残滓がないかどうかの確認だ」
「わかりました。尋ねる内容ですが、事件当日の体調不良等を訴える人が多かったためそれの確認やなにかしら薬物に近いものを服用していたりしないか、等を確認すればいいでしょうか」
「そうだな、そのあたりをそれとなく質問してくれるとありがたい。小林君は何を書いててもいいから、異能力の使用された痕跡について念入りに調べてくれ。それと進藤君、カルミナ。君らは隣室から見ていて不思議な気配が感じられたら報告という形で頼む」
「あ、俺達も出番なんですね。わかりました、隣室待機しておきます」
「あたしもかー。まあ、お仕事お仕事。真面目にやりますよー」
真面目からは程遠い返事をしながらも、カルミナは何かが引っかかっている様子であり、少し悩ましげな表情をしている。
「どうした、珍しく悩んでいるようだが」
「普段は悩んでないみたいな言い方しないで欲しいわね。似たようなことを私がやらせたような気がしてそれが気にかかってるだけよ」
「そんなことは……あったかもしれないな。だが、パッと思い出せるほどに俺も記憶力は良くないからな。もしかしたら何かがヒントになって思い出すかもしれないぞ」
「そうね、さあ行きましょ、時間がないんでしょ? 」
率先して仕事をしようとする姿勢になっているカルミナをからかってやる気をなくさせるわけにもいかないので素直にみんなで地上階に移動する。
地上階の一般犯罪者が拘留されている場所から、当日乱闘に参加してけがを負わせた被疑者の一人から話を聞くことになっている。一応公安が出てきているということで、本当に一般人なのかどうか調べることと、何らかの犯罪と関与していないか等を追求する、という建前になっている。
「だから、本当に記憶にないんですよ。気が付いたらおまわりさんに押さえつけられていて、その間の記憶が酷くあやふやなんです」
被疑者の一人はそう答える。小林さんが何か書いているふりをしながら異能力の痕跡がないかどうかチェックしている様子だ。
「そういえば、記憶が無くなる前に何か霧のようなものに包まれたような気がします。何か関係ありますかね? 催眠ガスとかそういう物を嗅がされた可能性とかじゃないですかね。でないと私がそんな乱闘に参加するなんてありえませんし」
ふむ、霧か……カルミナのほうをちらりと見やると、腕組みをして考え込んでいる。
「何か心当たりでもあったか? 」
「部下にそんな能力持ってる奴がいたような……まだ完全に思い出せないわ」
「そうか。なら俺ももうちょっとすれば思い出せるかもな」
「勇者が関わってるとは限らないからね。他の件で問題を起こしていたのを自力解決した領主が居たのかもしれないし、全ての報告書を読んで全てにおいて私が統括していたわけでもないから思い出せるか、それとも記憶違いだったのかはまだ判らないわね」
なんだか煮え切らないカルミナ。もうちょっとで思い出せそうな感じがするらしいのでそのままそっとしておこう。中での話し合いはさらに続く。
「で、やっぱり事件当時の記憶は思い出せない訳なのね」
「申し訳ありません。何故かすぽっと、まるで記憶だけ抜き取られたかのようにそこだけはっきりしてないんです。その前に霧が出てきたことぐらいしかやっぱり思い出せないですね。すいません、もうしません」
「ふむ……みんな同じか。あなたのように一般の方の中で乱闘に参加した人が何人かいるのですが……この中に顔見知りな人はいたりしますか? 」
鈴木さんが写真を見せている。どうやら複数人の一般人が紛れ込んでいたらしく、一人や二人ではないらしい。そりゃ、区警察署が乗り出して制圧しなければならないぐらいの騒ぎになったらしいのだから、それだけ逮捕者も多く留置場は似たような奴らで一杯なんだろう。
「……知り合いは……いませんね。皆さん初めて見る方ばかりです」
「間違いありませんね? 」
「知り合いでしたらその人が乱闘に参加しようとしていたら止めようとしてはずですから。私自身、そう言う暴力行為は好きではないですし」
カルミナが指をパチンとならす。何か思い出したらしい。
「部下に居たわ、似たような能力持ってる奴」
「ほう、参考までに聞かせてもらおうか」
「霧の中に自分の体液を混ぜて、体液を吸収した人の意識を失わせて強制的に動かすって能力よ」
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