62:後片付け
戦闘は終わった。短かったしどっちかというとまだ運動不足感は否めないが、俺が本気で戦わないといけない相手なんてものが出て来る時はそれは部署がどうとか秘密の公安第六課とか言ってる場合じゃない時になるだろうし、現状だとこれで満足、としておくことが重要だろう。
しかし、これだけの人数を部署に運ぶのは流石に第六課だけでは難しい。ここは乱闘騒ぎがあったということで他の部署の応援を呼んで収集するべきだろうな。と、思ったら俺が考えるのが早いか、それとも、というところで内村課長が既にスマホで応援を呼んでいた。
「十分ほどで来るらしい。護送車に全員乗せて連行、トレーニングルームに全員集めてカルミナ君に異能力の除去を頼んで、それから他所の部署に預ける形になると思う。いくらか意識がある者もいるので彼らには自分で護送車まで歩いて行ってもらおうか」
しばらくして、応援が駆けつけてくる。護送車に乗せられたそれぞれの能力者達と共に、内村課長も同席していくらしい。
俺達は最後まで残り、一番の異能力者であろう健三郎さんの左右に俺とフィリスが構える形で一つのパトカーで連行することになった。もう一人の重力使いのほうにはカルミナが同席している。カルミナなら一人ででも対応できるだろう。まずは全員を第六課の地下トレーニングルームへ運び込むことが最優先かな。
鈴木さんと近藤さんが最後まで残って後始末と、周りへの説明に回るらしい。これだけ大人数の捕り物になったのだから明日のニュースには、地下のクラブで乱闘騒ぎ、従業員客含め十数名を検挙、辺りの話で偽ニュースとして流されることになるだろう。そういうことになっている。
警視庁へ帰って今から行うのは、彼らから異能力を引っぺがして一般人に戻す行為だ。その上で、健三郎さんにはダーククロウという組織について色々と話を聞くことになる。
俺の予想が正しければ、ダーククロウそのものも何処かの下部組織である可能性が高い。もしかすると、健三郎さんが持っていたスキルの収奪・譲渡能力自体も他の誰かから更に譲渡してもらった可能性すら残っている。背後にまだなにか居そうな気がするのは俺の元勇者としての勘だ。
三人座りのパトカーの後ろの席に俺とフィリスが座り、健三郎さんが真ん中で両手に二重の手錠を掛けられ連行されていく。二重にしたのは念のため。本当ならもう一つぐらいかけてやってもいいところだが、もしまた霧化して手錠から抜け出すような可能性があった場合に俺とフィリスならすぐに対処できるという証明でもある。
連行されていく間、健三郎さんは何も語らず静かであった。戦闘力の格付けが終わってるからかもしれない。何をしても俺には勝てそうにない、そう思わせておいたほうがこの後もスムーズに話が進むだろうし、道中で逃げ出したなんてことにもなったら俺も怒られるのでそのままじっとしていてほしいのが本音だ。
無事警視庁に着き、全員まとめて地下六階の第六課のトレーニングルームの真ん中へかき集められる。早速カルミナが魔方陣の準備を始める。本来置いてあった障害物やベンチのようなものは多分内村課長の指示であらかじめどけられているのだろう。いくら手錠で防いでるとはいえ、うっかりまた重力操作みたいなものをやりはじめられたら被害が及ぶからだろうと推測される。
「じゃ、始めるわよ」
前回の新島の件で魔方陣をもう使い慣れたのか、カルミナはさっさと準備を終えて起動に入り始めた。カルミナの魔力がトレーニングルーム全体を覆っていく。一部の異能力を持つ警察官……近藤さんや鈴木さん以外の同僚は部屋からこっそり抜け出し、岬さんみたいに元から能力を保持していない人が立会人として現場に残っていた。
カルミナが詠唱を続けて徐々に異能力者達の弱いものから能力が抜け始める。白いもやがカルミナの体内に受け入れられながら、そのままカルミナが詠唱を続けると、段々抜け始めていって、重力使いの番になった。重力使いが必死の抵抗を試みているが、両手両足に手錠をつけられた状態では身動きが取れず、やがて白いもやとしてカルミナの体内に入っていった。
そしてやはり、最後は健三郎さんの番になった。健三郎さんは不思議そうな顔をしながらも覚悟を決めたような雰囲気で身じろぎもしない。やがて健三郎さんから複数の白いもやが出始める。もやの数だけ異能力があったってことだろうか。それらを最後の一つまで搾り取ると、健三郎さんは疲れ切ったような表情で横たわると、そのまま気絶した。
「あー美味しかった! またこれやる時は呼んでよね」
かなり大量の異能力を吸い取り切ったカルミナはポテチの要求すらしなかった。どうやらよほど満足したらしい。
さて、次は容疑者達の取り調べだが……実質的に取り調べをしたいのは健三郎さんだけだ。他の従業員は他所の課に回すとして、彼については背後関係を洗いたいのは内村課長も同じだろう。
そんなわけで、松平健三郎容疑者の身柄は引き続き内事第六課で取り調べ、他の容疑者は上階層へ連行、それぞれの対応部署の管轄で処理してもらうということになる。
大勢の移動が終わった後で、健三郎さんがいつもの取調室に連行されての事情聴取だ。
「もう能力は使えないから一般部門での取り調べでも良いとして、君についてはもうちょっとだけ聞きたいことがある。君ら、上部組織とかないの? 」
内村課長がかなりフランクに話しかけている。健三郎さんは観念したのか、ぽつりぽつりと話し始めた。
「もともとこの話……というかこの組織も、俺の能力も他人から授けられたものだ。今回は成功したのは覚せい剤の横取りとそれと交換で手にした金だけ。後は細々と店をやりながら稼いでただけだ。新島にさせた仕事も物のついでで、本来は異能力者の育成に使えと、いくらかのスキルを譲渡されて、更にスキル譲渡、没収のスキルも俺に付与されたものだ」
「つまり、君らに指示した人が居るってことだね。その人の情報について教えてもらえないかな」
「それが……わからないんだ」
「わからない、というのは? 」
健三郎さんは手錠をはめられたその手のままで頭を掻きむしりながら答える。
「誰かに教わったのは間違いない。そして異能力者を育てるように指示されたのもわかってる。ただ、誰に指示されてどうして俺がこの仕事をし始めてるのか思い出せないんだ。まるで記憶から消されたように、もやがかかっててわからない、と言った方が正確か」
「ふむ……記憶を操作できる能力者ってことかな。君はその能力者に見初められて金儲けと能力者育成の仕事をし始めた。金のやり取りはどうなってるんだい? 」
「それは、お互いに符丁を決めてそこで金のやり取りをした。やり取りをしたはずなんだが……やっぱり思い出せない。なあ、俺の頭はどうなっているんだ? まるでぽっかり眠っていた時のように完全に記憶にないんだ。決して酒の勢いで何も覚えてないとかじゃない。誰かに記憶をいじられたような、そんな感覚だ」
取り調べを見ていてふと思い立ち、カルミナに確認する。
「能力と一緒に記憶まで吸い出してる、ってことはないよな? 」
「ないわね。あったら彼を問い詰める必要もなく、あたしが答えてるはずだわ。だからきっと、記憶を消されてるってことで良いと思うわよ」
記憶操作か……また面倒な異能力者が向こう側にいるもんだな。いざとなったらしっぽを切り続けて本体にたどり着けない可能性だってある。そういう意味では健三郎さんも被害者なのかもしれないな。ある日突然異能力者にされて、異能力者を束ねながら裏で金集め。そして肝心の上の情報はシャットアウト。
これ以上健三郎さんから得られることは何もない可能性が高い。今回の捜査はここで一時終了ってことになるかな。しばらくはまた平和な日々になりそうだ。何もなければ、だけどな。
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