52:歌舞伎町の影
今日の朝礼はいつもより長めだった。というのも、最近多発しているらしい窃盗事件についての話らしい。
「最近新宿歌舞伎町界隈で窃盗事件が多発している。あれだけの人が多い中での現金強盗、という話らしいが、被害者は全員昏倒させられ、財布の中身を抜き取られて気が付いたら一文無し、といった状況らしい。足がつかないように持っていくのは現金だけらしいが、内事第六課にその話が回ってきた。何かしらの能力者の仕業ではないか? ということらしい」
異能力者による窃盗事件か。確かにそういう能力に特化したものが人知れず被害者を襲って……いやでもあれだけカメラがある場所で事件をわざわざ起こすのは少々難しいんじゃないか?
「思っている者がいるだろうが、歌舞伎町はカメラだらけだ。死角も少ないし表通りで堂々とやることは不可能だ。被害者はみんなカメラの外側で襲われている、というのが特徴でな。後、襲われた時に皆口々に、霧に襲われたと言っているらしい。霧状に変化できる異能力者が関わっている可能性が高い。そこで、内事第六課にお鉢が回ってきたわけだ」
ふむ……霧状に変化するということは、本体は何処にいるんだろう? もしくは本体ごと霧になることで自分の姿を隠しつつ相手を襲っているのか。謎は色々あるが、普通にできる犯行ではないというのは確かだな。でも、わざわざ霧状になる必要があるんだろうか。顔が見えないパーカーとかで服装を装えばそれで済む話のような気がするが。
「事件は夜間にだけ起こっているのですか? それとも時間はバラバラで、場所だけが同じ、ということなのでしょうか? 」
気になる点があったので質問してみる。
「犯行は全部夜間に行われている。アルコールが入って酩酊状態で襲われているものがほとんどだが、シラフのままこれから呑みに行く途中といった被害者も居た。被害者間に明確な共通点はなかった。ただ、共通点は犯人の姿を見てないのと、さっきも言ったが霧に襲われた、という言葉だけだな。まだ異能力者の犯行と決めつけるには早いかもしれないが、ちょうど時間のかかるような仕事があるわけでもないので、表の肩書を使っての捜査になる。鈴木、進藤、フィリス、カルミナの四名で一チームとして現場の状態の確認と想定される相手の状態や強さ、能力の種類などを確認するようにしてほしい。特に鈴木以外の三人は異能力者との戦い、という点では初めての事だろうから、これを機に経験を積んでいってほしい。現状では以上だ。鈴木たちの報告によっては人員配置を増やして対応するのでそのつもりでいてくれ」
朝礼は終わり、早速四人で捜査会議を始める。現場に行く前に情報の共有をして、見落としや考え落としがないようにしておくのも大事だろう。
「現在までに被害者は十二名。結構な数ね。被害金額は一万円から十数万円まで一定金額に絞られている訳ではないけど、被害総額は百万円に届きそうになってるわ。あんなところでお酒を飲もうなんて考える以上、風俗店へ行く前に襲われた被害者もいるはずだからその分だけ現金を持ち歩いてたってことでしょうね」
鈴木さんが中心となって捜査会議が進められていく。あの辺で楽しもうと思ったら確かにそのぐらいの金額を持ち歩いてても不思議はないな。
「疑問なのは一つ。それだけの異能力を持ちながら何故カツアゲみたいな小規模な事件しか起こしていないのか。その気になれば銀行の金庫にも隠れられる程度の能力は有しているはずなのよ。それに、お金だけが浮いて動いているという目撃証言もなかったことから、少なくとも犯人は全裸で活動している訳じゃなく、自分の身に着けている物ぐらいまでは霧状に変化させられる能力の強度はあるということになるわよね」
たしかに、服だけあって全裸で霧状になって襲っているというのは何とも間抜けな性能だ。そこまでじゃないということはそこそこ有能な使い手であるという事だろう。ただ、それにしてはみみっちいというか……やってる内容がしょぼい。もっと大胆な計画が出来るはずだ。
「練習がてら襲っている、という可能性もあるでしょうから金額が小さいからと言って放置するわけにもいかないでしょうね。その内大事をやりだす場合もあるでしょうからその分早めに対処しなきゃいけないかもしれないわね。三人は何か意見は? 」
意見か……対処法なら思いついてはいるんだが、どうやって犯人に襲わせるか、というところだろうな。
「霧状になるだけならそう難しい話ではありません。問題は捕まえた後だと思います。捕まえても同じ能力で逃走を図る可能性は非常に高いわけですし、拘束する方法を何か考えておかなくてはいけないと思います」
フィリスと考えが一致したらしい。
「そこについては問題ないわ。一応第六課用の手錠として、特殊な仕掛けを施してある専用のものがあるの。手錠をかけられると魔力にしろ能力にしろ一切を封じられる奴があるわ。今私が持ってる奴がそうね」
そう言って鈴木さんがポケットから手錠を取り出し、俺にかける。午前八時十三分、俺無罪で逮捕。
「どう? 抜けられるかしら? 」
自信ありげに胸を張る鈴木さんだが……大分緩いなこれ。
「壊す前に自己申告します。これぐらいなら俺の出力なら抜け出せるかと」
「……まあ、一般の能力者ならこれで充分捕まえられるってことよ。進藤君は少々規格外だから……念のためフィリスさんとカルミナちゃんにも試してもらっていいかしら? 」
順番に手錠をかけられるフィリスとカルミナ。カルミナはのほほんとしてそのままポテチを齧り続け、フィリスは少しうーんと考えた後、鈴木さんに申し出る。
「この強度なら魔法を使わなくても物理的に破壊できるかと」
「つけてるのとつけてないの、とくにかわりはないわ! 」
二人もその基準には達している……と。異世界の勇者一行と魔王にはそうそう効き目があるものではない、ということは確認できた。これは、後日手錠の強化案として鈴木さんの名前で書類をあげてもらうことにしよう。
「……まあいいわ。あなたたちが規格外だってことがよくわかったわ。その点この犯人はどうだと思うの? 」
「今ならまだ捕まえていられる、と言ったところでしょうかね。このまま練習といたずらを続けて強化されていった先では効果が無くなるかもしれません。捕まえるなら早いうちにしておくべき、というのは間違いないでしょうね」
「なるほど、被害のほうが比較的少額で済んでるのも能力の使い心地を試すとともに自己鍛錬の一環として民間人を襲ってる、その内力が強化されていったら手錠でもすり抜けられるほどの能力になっていれば捕まえるのは困難、というところかしら? 」
「そんなところね! ただ、強くなろうと弱いままだろうと捕まえ方は簡単だからそんなに気にすることはないわ! 私でも見つけてしまえば楽勝よ! 」
カルミナがやけに自信ありげだ。カルミナも同じ結論にたどり着いたらしい。後は実際に出会って捕まえるのにどうすればいいか……だが、この四人の中で男は俺だけ。囮としてはちょうどいいかもな。
「とりあえず、事件現場を確認しに行きますか。早ければ今夜中にでもおとり捜査ということで俺が襲われる役をやろうと思いますが、それでいいですか? 」
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