51:事態の沈静化
まだまだ浄化するべき瘴気は集まり続ける。霧を張ってもらって人払いの結界をかけ続けているとはいえ、長期戦になるのを避けるために一ヶ所に集めてまとめて浄化という手段に出たのだ。それでもこれで充分浄化できていることを考えると、それほど濃い瘴気が発生していたわけではないんだろう。
「フィリス、ついでに結界は張れそうか? 」
「やろうと思えば、というところですね。ただ、今少しお時間をもらうことになるかと」
「この程度の瘴気なら問題なく抑えきれる。こっちも結界を張るからその分浄化に回してる分を結界にも振り分けてみてくれ」
「わかりました」
「カルミナは引き続きつまみ食いを続けててくれ。大きくなり過ぎたら浄化してまた小さくしてやるから」
「わかったわ! でも小さくなんてさせないからね! 」
三人の意思疎通が微妙にずれて繋がったところで、引き続き集まってくる瘴気の浄化と、新たに結界を張り巡らせる準備を始める。
瘴気に当てられた人は今のところ居ないらしく、周辺ではこちらを見ていない上に、霧が晴れるまでじっとして居ようとする観光客の姿が時々映る。
瘴気の塊はまた徐々に大きくなり、今度は熊ぐらいのサイズになり始めた。このぐらいだとさすがに舐めプしてるとケガする奴だな。慎重に対応していこう。
瘴気の塊である熊がその強靭な爪と腕を振りかぶりこちらへ襲い掛かってくる。バックステップでギリギリ避けると、避けながら破魔の剣で腕を切り落とす。切り落とされた腕はそのまま浄化され、熊から前足の一本が消え去ることになった。
前足一本を失っても戦う姿勢は衰えず、なおも向かってくる熊。前足がない分バランスが崩れてまっすぐ走れていない熊に対して、バックステップで向こうの間合いから離れた瞬間に熊が姿勢を変える。そのスキを狙って一気にダッシュして前進し、頭から熊を両断する。熊はそのまま消滅していった。
まさか、順番に強そうな形になって襲って来るとかはないよな。熊より強い自然動物なんてこの国には居そうにはないが……等と考えていると、フィリスから声が飛んでくる。
「トモアキ様、結界と浄化魔方陣、準備できました、いつでもいけます」
「そうか、じゃあいっちゃってくれ」
「はい! 静寂の深淵に響く光が穢れたこの地を清める刻を告げる。穢れを焼き、闇を溶かす清浄の輪よ、今、そっと開け。私の心の鏡に映るは、純白の炎。全てを赦し、全てを還す光の波濤よ、この手に集い、邪な魂を清らかに導け。オールピュリフィケーション! 」
フィリスがいつもの詠唱を唱えるとフィリスを中心に凛とした空気が広がり、霧と共に周囲の瘴気を吹き飛ばしていく。高尾山全体とまではいかないが、かなりの範囲に対して浄化する炎が上がり、いつもの光の柱が立ち上る。特に自分たちの頭の上に出来た大きな光の柱は、ここに瘴気が集められていたことの証拠だろう。
どでかい光の柱が自分たちを覆い、そのまま上空の空気を清浄化して天へ昇っていく。霧が晴れ、人払いの結界の効果も少し薄まるが、まだ効果は続いているらしくこちらを向いている人はいない。
「これで……完了かな? 」
破魔のネックレスを取り出し反応を見る。光ってはいないので周辺の瘴気は一通り浄化できたと判断できるかな。あれだけ広範囲の瘴気を集めて実体化するぐらいまでの密度を誇った瘴気を浄化できたところで今日のお仕事は終了かな。
「ちょっと疲れましたね。でも、これでしばらくは大丈夫なはずです。天狗様にもご報告に参りませんと」
「その必要はない、ここで見て、聞いて、そして感じておるわ」
また耳傍で声が聞こえる。どうやら身近で見ていてくれたらしい。
「これだけ浄化されておれば十数年かそこらはしばらく浄化をするまでもなく平穏に暮らせるだろうよ。世話をかけたのう」
「まあ、これも仕事の内ですから。今日は休日だったので後で休日出勤手当でも貰おうかと思いますよ」
「かっかっか、はっきりしておるのう。そういう素直な奴は嫌いではない。こちらからも口添えをしておくゆえ、たっぷりと休日手当を請求するとええ」
天狗様直々に一報を入れてくださるという。とりあえず、こっちも一般観光客でございますという風にするか。
「さて、とりあえず……山頂の景色を楽しんでから帰ることにするか。せっかく観光にも来たんだし見れるもんはみて食べれるもんは食べて、のんびりしながら帰ろう」
「はい、ピクニック再開ですね! 」
「私お腹いっぱい……ほら、こんなに成長しちゃった! 」
カルミナの目線が大分上に来ている。三年か四年ぐらい年を取った感じがするな。すると、フィリスがカルミナにアイアンクローを繰り出し、カルミナの頭を押さえつけながら浄化を施す。
「いだいいだいいだい! どうじでいづもアイアンクローなの!? 」
「脳から直接浄化するのが最も効率がいいからです。今、元の大きさに戻しますね」
しばらくカルミナから浄化し続けたフィリスが満足するところまで浄化を終わらせると、カルミナは元の小学生ぐらいの大きさまで戻ってしまっていた。
「あうう……せっかく大きくなれたのに……」
カルミナの浄化も終わったところで、人払いの結界を解いて破魔の剣や聖杖を隠すと凄い霧だったなあという感じの雰囲気を出しておく。カルミナの機嫌は途中の食い物屋で何か見繕うことで改善を図っていこう。
しかし、食べてもアイアンクローで元の大きさに戻れるなら、新しい瞬間ダイエット方法みたいなものか。俺もアイアンクローで浄化する機会があるかもしれないしフィリスにコツを教えてもらっておこうかな。
何にせよ、まずは高尾山頂の景色を一望して、それから帰り道だな。ここからなら新宿方面のビル群もよく見え、霧が晴れた綺麗な天候のおかげでスカイツリーも見ることが出来た。やっぱり眺めがいいな高いところは。山を登ったという気分を存分に楽しむことができる。
「お家はあっちですか……さすがに見えませんが、警視庁はどっちになるんでしょうね? 」
「流石に警視庁は見えないが……タワーは見えるぞ、ほらあそこ」
「本当です、こんな遠くからでも見えるなんてすごいですね! 」
完全に観光客ムードを全開にしているので、さっきまで瘴気や魔物と戦っていたという雰囲気は出していないはずだ。
「人が作った建物がこんなに遠くから見えるなんてよほど大きいのね! さすがにやるわね! 」
カルミナもスカイツリーを目にして若干興奮気味である。普段君らの頭の上に鎮座している物なんだけどなあ。人間案外こういうところまで行かないと普段自分の頭の上を見上げるということはないらしいということを知る。
思う存分風景と空気、そして浄化されたての新鮮な空気を精一杯楽しんだ。もうちょっとここで楽しんでもいいが、帰り道にはお土産屋さんもある。そろそろ帰り支度を始めるとするか。
「さて、帰りには何もないよな? さすがに人払いの結界の予備はないぞ」
「その時は……アイアンクローでなんとかするしかないんじゃないですか? 」
「うーん。まあ大丈夫だろ。それよりお土産とお菓子食べながら帰るとしよう。行きは真っ直ぐ来たから何もよらなかったけど、帰りにはそれなりにお楽しみがある。ケーブルカーを降りたところにお店があったはずだからそこへ寄って帰ろう。部署のみんなに消え物でお土産も持っていかないとな」
「はい! 」
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