50:外国人観光客
「儂は国内の事に関しては鋭いと思うておる。それゆえ、今までは人が多くても問題がなかったのじゃが、最近外国人が増えておるだろう? 外国から持ち込んだ瘴気についてはどういう手順でどういう手法で祓えばいいかわからんのよ。そこで、お主ら儂の代わりに溜まった瘴気を浄化してくれんものかのう。浄化の手伝いはできるとは思うが実際の浄化となると儂の法力ではどうも効果が薄いようでの。このままだと瘴気があふれて浄化しきれなくなって下界の者……一般民衆にも被害が出かねん。一つ頼まれてくれるか? 」
外国の瘴気は日本の瘴気とは別物……ということか。こっちの世界では悪魔祓いと退魔と浄化が別カテゴリになっている、ということだろう。そのあたりを一緒くたにまとめて処理できるこっちの浄化に処分を頼みたい、ということか。
「では、一つお願いが。効率よく浄化するために一か所に瘴気を集めてしまってほしいのです。そのほうが広く浅く浄化をかけるよりも現在溜まっている瘴気を浄化させるには都合がいいと思います」
「瘴気を一カ所にまとめれば実体化して魔の物として形作られてしまうかもしれんが、それはよいのか? 」
「そのぐらいの瘴気の塊でまずい状態になるほどヤワではありませんので。それと、一時的な結界ではありませんが、似たような作用を起こすことが出来ますか? 目隠しが出来れば充分なのですが」
「それについては請け負おう。霧でも発生させてしまえば充分じゃて。では、頼むぞ」
簡単にお互いのやることを決めてまとめると、早速仕度に入る。
「じゃあやることを決めるぞ。天狗様が浄化させたい瘴気を纏めてくれるそうだから、寄ってくる瘴気をかたっぱしから浄化していってほしい。結界魔法陣でも単品でそれぞれ浄化し続けるのでもどっちでもいいが……効率が良いのは無詠唱での範囲浄化になるか? 」
フィリスに確認を取る。実際に浄化する担当になるであろうフィリスは少し考えごとをした後で言葉を紡ぎ始めた。
「そうですね、一つ一つ消し飛ばすのは手間がかかりますし、ある程度貯まったところで浄化していくのが効率的だと思います。全部でどのぐらいの瘴気が集まってくるのかまでは把握できませんが、少なくとも丸一日かかる作業ではないでしょうし、どのぐらいの速さで瘴気が集まってきてくれるかにもよります」
「ふむ……きっと天狗様はこの会話を聞いているだろうから、ここで詰めて話をまとめたほうが良さそうだな。カルミナも今日は腹一杯食えると考えているだろうし、二人に浄化は任せて俺は瘴気が実体を持ち始めた時のことを考えて迎撃役に回るかな」
「なんでわかったの!? なんて言わないわよ。最初からそのつもりだし、さっきからちょっとずつつまみ食いしながら来てるしね」
そういえば、朝よりちょっとだけカルミナが大きくなったような気がする。また大きくなり過ぎたらフィリスに浄化してもらって剪定を頼むことにしよう。
「さて、問題は何処でやるかなんだが……人目が比較的少なくて霧が発生しそうで高尾山の中心部に近い……となるとやはり山頂か。そこまで登って人払いの結界を張って、それから作業開始だな」
「これではせっかくのお休みなのに仕事になってしまいましたね」
「休日出勤手当か代休をもらうことにするさ。さて、近藤さんには連絡を入れておくよ。流れで浄化することになったって」
早速近藤さんに連絡を入れる。報連相は仕事の基本だからな。それに相談もなしにそんなことを、と言われても実際に天狗様にお会いして向こうからお願いをされた、という形には違いないのだし、ここで断って後日正式にという流れでは遅くなる可能性もある。出来る内にやっておくのは仕事の基本だ。……と、電話出たな。
「もしもし、進藤です」
「お、進藤か。内村課長からの伝言だ。天狗様のお願いがあったなら最優先で叶えて差し上げろ、とのことだ。そっちの状況はどうなってる? 」
かくかくしかじか。
「なるほど。じゃあその通りに行動しておいてくれ。三人そろってるからまさかということもないだろうが、充分注意してやってくれよ」
「解ってます。将門塚と同じ騒ぎになるのは御免ですからね。出来るだけ大人しく、小規模にかつまとめて浄化して帰ってきますよ」
「そうしてくれ。頼んだぞ」
近藤さんも休日に電話対応お疲れ様です、と心でお詫びを申し上げながら電話を切る。さて、後は……また登るか。
薬王院からちょいと登って、山頂付近まで来た。空気は気持ちよく、遠くまでよく見える。山を登りきった気持ちよさを存分に味わった後、早速作業に取り掛かる。
「天狗様、こっちは準備できてます。人払いをお願いできますか」
小声でそういうと、まるで耳傍から聞こえるような声で天狗様の声が俺の耳にささやく」
「うむ、任せておけ、霧を発生させて人を惑わすのは我も得意とするところよ」
そういうと、風が吹き、いきなりの上昇気流が発生してすぐに下降し、上空から冷たい雲が降りてくる。高尾山の山頂をぐるりと囲むように霧が発生し、周囲の様子が見えなくなった。霊脈の揺れが地面を震わせる。観光客の声が遠ざかり、わずかな静寂が戦闘を予感させる。
「なんだ、急に霧が出てきたぞ」
「天狗じゃ、天狗の仕業じゃ」
周りの観光客も少し騒ぎ出す。確かに天狗の仕業だが、本当に天狗の仕業だと思っている人は少ないだろう。
「今のうちに……よし、人払いの結界も張った。さて天狗様、瘴気をかき集めてもらえますか。ここでまとめて迎え撃ちます」
「承知した……それ! 」
天狗様の一声で、瘴気が周辺に一気に集まり始めるのがわかる。相当な量の瘴気が高尾山頂の自分たちの周りに一気になだれ込み始めた。
「さあカルミナ、食べ放題だぞ。フィリスも浄化はじめ! 」
「はい! 」
「おっやつーおっやつー」
一人暢気な奴がいるのは置いといて、集まり始めた瘴気に注目する。瘴気が獣の形を成しだした。どうやらイノシシらしい形をした瘴気が二つ、こちらに向かってくる。アイテムボックスから破魔の剣を取りだし、迎撃準備をする。この程度なら聖剣を使うまでもないな。モンスターの強さからしても、まだまだ数が集まってくることを考えると一体一体の強さはそれほどでもなさそうだ。
突進してくるイノシシをそのまま破魔の剣で撫でるように切り裂き、そのままイノシシを浄化させる。この程度なら剣の錆にもならんな。錆びないけどこの剣。もうちょっと大物が出てきてくれてもいい感じだしちょっとした運動にもなるからちょうどいいとは考えていたが、思っているよりも散発的に現れてくるらしい。
次はキツネ、そしてシカ。それぞれ三匹ずつ出てきたが、一匹ずつ襲ってきてくれるおかげで破魔の剣で一撫でするだけで消えていく。もうちょっと大物来ないかな。これでは俺だけサボってるみたいではないか。
っと、気を抜いていたら小鳥の姿をした瘴気がフィリスのほうへ行ってしまった。すると、フィリスがそのまま小鳥を握りつぶし浄化。
「邪魔です」
静かにそう答えると、浄化に戻り始めた。やはり、フィリスに肉弾戦で勝負を挑むのは難しいことを証明してくれた気がする。
「今日のポテチのお代わりみたいなものね! 」
好き放題に瘴気を吸収しているカルミナが徐々に背が伸び始める。どうやら結構な量が溜まっていたらしい。これは天狗様も困るわけだな。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。




