5:はなきん
あっという間に金曜日の夜。毎日のフィリスの笑顔とやる気、そして適齢の女性と共に狭い部屋で暮らすというドキドキものの生活のおかげで短く感じた。何よりも、家に帰っておかえりなさいと言ってくれる存在が居る、というのはなんだか嬉しいものだな。
明日はお待ちかねのお出かけの日だ。フィリスをようやく俺の監視下ではあるが、自由に行動させてやることができる。コンビニ弁当も卒業して、ちょっといい雰囲気の店で食事をすることもできる。
「明日はお出かけだからな。フィリスの体に合うような服とそれから色々、買い込みに行こう」
「はい、楽しみです! でも……トモアキ様も私と同じぐらい楽しそうですね! 」
顔に出てたかな。こんな美少女と現代で出かけるのは……そもそも出かけるのが久しぶりと言えばそう。財布に予算もバッチリ入ってるし、相当な出来事がなければ大丈夫。出来る範囲の、だが贅沢をさせてやりたいと思う。
「さて、今日もコンビニ弁当とインスタントの味噌汁だが、明日色々食材と食器を見て回って何か作れるように考えていこう」
「はい! 」
もりもりとチャーハンを食べ始めるフィリス。「はうう……これも美味しいです……」といいながらパクつく姿は中々に絵になる。着ているものがいつまでも俺のフリースというのも悪いからな。明日は好きな服装を選んでもらってついでに何着か着まわしできるようにさせてやらないとな。
「明日はフィリスに似合う服も買いに行けるからな。寝間着にしろ普段着にしろ、好きなものを選ぶと良い」
「私は別にこのままでも……トモアキ様の匂いもしますし……あっ、ええと、何でもないです」
そういうと下を向いて赤くなってしまった。なにやら言いたくないことを言わせてしまったようだ。俺の匂い云々は臭いってことじゃなくて多分そういうことなんだろう。
「そういうことならそれでもいいが、こっちは季節で気温の変化が激しいからな。薄手のものも必要になってくるはずだ。そろそろ暑くなってくる季節だし、そのフリースでは分厚くて暑苦しくなってくるはずだ」
「解りました……明日を楽しみに待つことにします」
楽しみにしている、という割には少しシュンとしてしまったが、出かけるのは俺自身も楽しみだ。仕事へ行く間外へ出かけていないわけではないとは言え仕事場と家の往復では世の中のことはあんまり頭に入らない。というか仕事のことで頭がいっぱいで風景を見て何かしら感じ取ることすら難しい。やはり休みの日にのんびりすることは必要だろう。
さて、飯が終わったら風呂だ。いつもフィリスに先に入っていくよう促すのだが、家主でもあり頼っている相手の俺よりも先に風呂に入るのは悪いと、フィリスはいつも後に入る。そんなやり取りを数日続けてもう俺は諦めたので先に風呂に入ることにした。
風呂に入っている間にフィリスは覚えた洗濯機の力を使うべく壁一枚外であくせくしているのが擦りガラスの向こう側から感じ取れる。馴染もうと頑張ってるようで何よりである。
さて、全身を洗って早めに上がってフィリスに風呂にも入ってもらわないといけないからな。フィリスが風呂から上がったら、今日は風呂の掃除もしたい。風呂から上がるとフィリスにお待たせの合図を送る。
フィリスは一瞬ビクッとしたが、「わかりました、お風呂いただきます」と言って静かに入っていった。洗濯機の回転音も響いてきたので、おそらく部屋着も一緒に洗ったのだろう。明日出かけるための服は……うん、ちゃんとあるな。サイズも良いようだし明日までは申し訳ないが俺の服と共用できるものは共用してもらおう。
◇◆◇◆◇◆◇
side:フィリス
危なかった……トモアキ様の洗濯物の匂いを嗅いでいるのがバレたかと思ったけれど、そうではないみたい。トモアキ様の匂い、なんだか落ち着くんですよねえ。やはりあれでしょうか、好きな異性の匂いは落ち着く、というやつでしょうか。てれびでもそんな話を耳にしましたし、やはり私はトモアキ様についてこちらにやってきて正解だと思ってしまう。
おそらく大司教あたりが私の名前を利用して権力を拡大していく予定だったのだろうけど、当てが外れてさぞ残念でしょう。ざまあみろですわ。
明日はトモアキ様とデートの日です。出来るだけ体を綺麗にして、髪も体もしっかり洗って、トモアキ様に恥をかかさないようにしないと。全身綺麗に磨き上げて肌艶に満足したところで湯船につかります。
さっきまでトモアキ様が浸かっていた、トモアキ様エキスの混じり込んだお湯……味は普通のお湯ですね。でも、トモアキ様成分が入っていることには間違いないはずです、これで私もトモアキ様の一部分を取り込んだことに違いありません。
つい癖になりつつあるトモアキ様成分の補充も、ばれたらどう言い訳をしようか悩ましいところですね。いい加減この癖も正さないといけない気がしてきました。明日はゆっくり繁華街に出かけるということになってます。私に似合う服装をトモアキ様が選んでくださるそうなので楽しみです。
市井ではどんな服装をしているのかはてれびを通してみることが出来ますが、自分が見られる側になるのは初めてかもしれません。うっかりトモアキ様の機嫌を損ねたり、浮いた格好にならないかが心配です。
初めてのお外……どんな感じなのでしょうか。楽しみですね。
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「お風呂いただきました」
「わかった、掃除するから先に休んでていいよ」
「手伝うことはなにかありますか? 私もお世話になってる以上そういった掃除などもできるようになっておきたいのですが」
「じゃあ今日は見てるだけでいいや。掃除もそう念入りにするわけじゃないしな」
フィリスは家事手伝いとして一人暇な間に出来ることは教えたが、風呂掃除は初めてだな。
「風呂掃除は専用の洗剤があるから、これをかけて部屋全体に泡をつけて擦って……それで終わりだ」
「簡単なのですね。本当にそれで落ちているんでしょうか」
「湯船をこすってキュッキュッって鳴ってくれればそれで湯船はよし。後は部屋の隅っこにくろずみが出来てたりなければ大丈夫。鏡も同じ洗剤で大丈夫だから全体をきちっと隅から隅まで念入りにする必要はないよ」
丁寧に教えているがそれほど手間のかかる掃除でもないし、毎日する必要があるかと言われれば、サッと湯をかけて黒カビ防止と換気をすることで毎日の簡単な掃除は出来ているし、フィリスもやってくれている。排水溝の髪の毛なんかの掃除がそれにあたる。
後は人の清潔の感度によって変わるので何日に一度行うべしと決まっているわけではないが、俺は数日に一度の割合、仕事が忙しい時は休みの最初の仕事が風呂掃除だったりする。その分をフィリスに任せることが出来れば共同生活の一部分として確実に手分けが出来るようになるので俺も楽になるな。
「さて、風呂掃除も教えたところで、後は……ゴミも分別できてるし、フィリスが外に出られるようになればゴミ出しもお願いできるようになるな」
「はい、頑張ります! 」
フィリスのいい返事が聞けたところでそろそろ寝る時間だ。まだフィリスをソファーで寝させていることに若干の申し訳なさを感じるが、かといって同じベッドで寝るというのも……俺も健全な男性だ、俺の黒王棒が黙って見過ごしてくれるはずもない。
でも、そこまで見越してついてきたフィリスなのだ、そうなるのが自然と言えば自然の流れなんだろう。しかし、フィリスの身元も明らかに出来ない時点でそういう行為に及ぶのはあっちの世界では問題ないのかもしれないがこっちではタブーだ。うっかり妊娠でもしてしまったら子供の戸籍はどうなるんだろう。問題が一つ増えたな。これも生活していく中で俺が考えなければいけない問題だ。休みの度にちょっとずつ調べていっていい方法を見つけよう。解決策はどこかにあるはずだ。
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後毎度の誤字修正、感謝しております。