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帰還勇者の内事六課異能録  作者: 大正


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48:高尾山ピクニック

 次の土曜日、朝早めに家を出て、三人そろって電車で出かける。異世界での登山経験はあるものの、こちらの世界ではまた事情が違うだろうということなので、家で色々調べてから必要な荷物を見繕った結果、アイテムボックスの中のうどんと日本酒以外にいくらかの駄菓子を用意してみた。到着までにカルミナに食べられないようにしてあるので対策はバッチリ。


 それぞれの荷物に発煙筒と念のためのお守りのマヨネーズを装着すると、それぞれ水分とお弁当を持ってのピクニックだ。カルミナもゴスロリ姿で登山はおかしいのでそこは何とかならないか? と指摘すると、Tシャツに足を出すタイプのミニジーンズ姿に変化してきた。これなら登山に来た小さな子、という感じに見えなくはないので一日その姿で居てもらうことにしよう。


 さて、朝早くに出たものだから電車の中では二人ともまだ夢の中。俺は流石に徹夜や夜討ち朝駆けは勇者の十八番ということで眠気は去ってくれている。


 こうやって寝てるとカルミナも可愛いんだけど……いや、寝てなくても充分に可愛いのは可愛いんだ。ただ言動と行動と魔力に問題があること以外はかなりのレベルを維持していると言っていい。足りないのは現代知識と技能あたりか。でも意外と器用にこなすかもしれないな。


 カルミナに飯が作れるのかどうか。でもフィリスを手伝ってはいるようだし、もしかすると万能選手かもしれない。学歴という意味では大検あたりを折を見て受験させて、バックアップを作っておくというのも大事かもな。最後まで面倒見るのだから生きてる間に何とかしたいところだが……まあそれは今後の課題にしておこう。


 フィリスはスウスウと軽い寝息を立てながら眠りに入っている。早起きなうえに弁当まで三人分作っていたものだから睡眠不足で朝から少しお疲れ気味なのはわかっている。これは到着まで起こさずにそのままいたほうがいいな。


しかし、高尾山の天狗とはどのような姿で出会えばいいのだろう。場所は。タイミングは。もしかしたらお寺の一室を貸してもらってそこに現れてもらう、なんてこともできるのだろうか。ちょっと高尾山を登りきったあたりでSMSで近藤さんに聞いておくか。


 今回は一号登山ルート、つまりごく一般的な高尾山の登山ルートで登っていく。自分たちが試練を受けるために登るわけでもないので、そこにこだわるつもりはない。


 あくまで一般客に混じって来訪し、完全に一から登るわけでもなくケーブルカーも使っていく。天狗様が本当に居るならば、こっちの匂いを嗅ぎつけて向こうのほうから何か用か? と出てくる可能性もないではないが、こちらとしては悪意を持って会うわけでもない……カルミナを悪意と感じられたらどうするかな。


 まあ、行ってどうなるかだな。とりあえず乗り換えの時間が来たのでフィリスとカルミナを起こし、乗る路線を変更する。変更したら後は到着するまでまた電車の旅だ。また四十分ほど時間が空くので引き続きフィリスには寝ていてもらおう。起きてすぐに体を動かすのはあまりよくないかもしれないが、寝不足で動き回るよりは分がいいはずだ。


「ねえ勇者、高尾山ってそんなに強い奴がいるの? 」

「話を聞いてなかったのか? 天狗というのはな……」


 カルミナに天狗について存在や伝承、好きなものや実際にあったとされる話を軽くレクチャー。


「私の眷属みたいなものなのね。私の四天王は強かったでしょ? 」

「いなければもっと気楽にお前を封印するなり消滅させるなり出来たんだろうけどな。おかげで睡眠時間が削られてギリギリの勝負だったぞ」

「そこまでして私にラブコールを送ってくれなくてもよかったのに。そうしたらより万全な態勢で戦争を行えたわ」


 確かにあの最終決戦はどちらもきつい戦いだった。お互い大勢死者を出しての最後に魔王を討ち取り、それに伴う俺の転移、その後あの世界はどうなったんだろうな。ちゃんと平和にやってるのか、それとも各国揃って今度は自分の国が主導権を握ろうとお互いで戦争をし始めたりしているんだろうか。


 まあ、こちらに戻ってきた時点で俺には詮無きことだしこっちに来てしまったフィリスが心を痛めることもない。どうせどうなってるか見られるわけでもないのだからこっちの世界での出来事と日々に集中していくことが大事かな。


「この天狗ってのはどのぐらいで死ぬの? 」

「千三百年歴史が残ってるからもしかしたら不死かもしれないな。人間より寿命が長いことは確かだ。数少ないお前の茶飲み友達になるかもしれないから失礼はしないようにな」

「さすがの私も他人の庭で暴れまわるようなことはしないわ」


 カルミナはそう言うとフィリスの隣に座りなおし、景色を眺めながら外をボーっと見つめていた。高尾山に近づくまではずっと街並みが続き、急に風景が山になりだしたらそろそろ下りる合図になる。


 そのまま静かに二人は眠ったり外を眺めたりで電車が高尾山口駅に到着するまで続いた。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 電車が高尾山口駅に到着し、皆が降りていく。今日も一杯の観光客に紛れて俺達も電車を降りて高尾山へと向かう。フィリスはしっかり眠れたようで、伸びをしながら今から一運動するぞ、と気合が入っている。


 カルミナはどうやら少し縮こまり気味。どうしたんだろう。


「なんかカルミナの元気がないがどうかしたか? 」

「ここ、凄い結界というか清浄な空気が保たれているわね。とても大量の人間がいて瘴気が食べ放題の所には見えないわ。長い間修行場として使われてたってのは嘘じゃないようね」

「こんな所で嘘をついてどうする。さ、ケーブルカーに乗って途中までは上がっていくぞ」

「え、最初から登るんじゃないの? 」

「さすがにそれはピクニックというより修行になるからな。俺達は修行しに来たわけじゃない、観光に来たんだ。たっぷり山の空気を吸って、綺麗な風景を見て、弁当食べてついでに天狗様に挨拶をして帰る。だからいいんだよ、一から登らなくても」

「ふうん。まあ、楽が出来ることに問題はないわ」


 ケーブルカーに三人乗り、途中まで一気に現代科学の力で駆け上がる。地面に対して平行にさせるためか、さっきまでの電車とは違い傾いている。それどころかケーブルカーの中に階段がある。休日で混んでいるのでなかなか乗り込むのに時間がかかったが、無事に乗り込んで出発。


 静かにゴゴゴゴ……と動き始めるケーブルカーに今までとは違う感触を感じて少し驚いているフィリスとカルミナ。


「こんな斜めの所にも電車を通してしまうのですね。そこまでして楽に登りたいのでしょうか」

「軟弱ね。こういうのは一から自力で登っていくからこそありがたみがあるというものよ」


 カルミナが珍しく正論を吐いているが、ここに来るまでに言っていたことと真逆の反応をしているのはどういう風の吹き回しだろう?


 ゆっくりと六分ほどかけてケーブルカーは高尾山駅に到着。そこで降りて多少の空気の違いを感じ取る。と、同時にほのかな瘴気の匂いも感じ取る。


「……フィリス」

「おかしいですね。これだけの結界……というか澄み切った空気のわりによどんだ気配がしています」

「何かあったんじゃないの? 念のため、目的地に着いてからこと細かく調べたらどうなの」

「そうだな。どうせ天狗様に顔合わせが出来るかどうかはわからないがそれなりの手段を持って来たんだ。出来ればお会いして、どういうことになっているかを調査する必要はあるだろうな」


 ともかく、登ろう。登ってみてから全体を判断しても遅くはないはずだ。

作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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事件の匂い
おや、ピクニック兼おつかいくらいのもんだと思ったらすんなりとはいかないか?
仏教に完全偽装した修験道の聖地
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