42:結界の内部構造 2
中身の解析に移ることにした。中身の解析と言っても、空気だ。その中の空気が噴き出し、今結界内で人払いの儀式を行っている最中、ということになっている。効果が切れるまで何分ぐらい持つものなのかもわからないが、それを計測するのも含めて調査だ。
中身は普通の空気に見えるが、光属性の魔法で反応を見た所、少し中の反応があった。どうやら光属性ではなく闇属性の力で出来ているらしく、光属性を帯びた手で近づけてみると少しずつ消滅していくのがわかる。意図的に人払いの結界を消すことは可能らしいな。
「消えてますね」
「その気になったらあたしの食事に出来るかも! 」
「今はダメだ、全部終わってからなら良いぞ」
「わかった! 早くしてちょうだいね! 今すぐでいいよ! 」
参加する気があまり起こらないカルミナを放っておいて、人払いの結界の発動後の入れ物の周辺空気について分析を始める。
無色無味無臭。軽く吸い込んでみてもその反応は変わらない。ほんのりと瘴気ではないが闇の魔力を感じるかな? 程度の区別はつくが、能力者でもない一般人はこれに気づくことはできないだろう。
「ふむ……なかなか難しいなこれは」
「せめて粉の形にでもなってくれてれば良いんですが、結界の中に充満している、としか判断できない現状ですと、容器の作りはわかりましたが中身の作り方はサッパリですね」
二人してうーんと考え込む。カルミナが何にそんなに悩んでるの? といった感じでこちらに話しかけてきた。
「物質化させるのは簡単よ? やって見せるわ、それ」
カルミナが軽く魔力を放つと、今まで無色だった結界内の空気に色が付き始めた。濃密な闇の魔力がそこから感じ取れる。
「闇魔法と言えば魔王の仕事だからね、このぐらいはポテチ前よ! 」
「どうだ? これでなんとかなりそうか? 」
「そうですね……見えない魔力よりも見える魔力のほうが扱いやすくはありますが、カルミナ、これをどうやって? 」
「闇の魔力にマーキングをつけて着色しただけよ。後はそれがどういうものか解析すればいいんじゃないの? 」
「じゃ解析もついでに頼めるか。ここで一番闇魔法に精通してるのはカルミナだからな」
「任せなさい、その代わり、今日のポテチは二袋よ」
「解析に成功して同じものを作り上げられたらな」
ポテチを鼻先に吊り上げると、面白いように魔力の解析を始めるカルミナ。
「なるほど……人の深層意識に触れて能力のないものはそもそも見えないように誤解させるのね、その後は……できるだけこの結界に近寄らないように働きかけて、魔素の粒子の一欠片でも吸い込めば誤認識させ始めるだけの威力は有しているみたい」
「それ、こっちで作って逆に売り込むようなこともできるのか? 」
「入れ物が問題ね! やっぱりこの入れ物がよくできているわ。内側にびっしり張り巡らされている結界が封じ込めてくれているからこそ蓋を開けた時に一気に広がっていく、という形らしいわ」
カルミナにこんな性能があるなんて知らなかったが、そういえば元魔王だったな。そういう素質もあった……というよりは人払いの結界みたいなものもこっちのほうが本家本元なのかもしれない。なんせこっちは現存してるのだから。
「これをこうして……っと、試しに結界を解除してみてくれる? うまくいってれば面白いことになるわよ」
カルミナの言う通り、フィリスに目配せをして結界を解除させる。同時にカルミナが魔力の色を元に戻すと……あれ?
「フィリス、どこ行った? 」
「トモアキ様、どこへ行きましたか? 」
お互いを認識することが出来なくなった。
「実験は成功ね! 能力者にだけ感知する人払いの結界を作ってみたわ。これで二人ともお互いを、そして私を見ることが出来なくなったでしょう? 」
カルミナの声が響く。カルミナも見えなくなっているな。これは物理的に見えなくしているのか、それとも能力者の脳にだけ働きかけるように周りが見えなくなっているのか。
「おい、みんなどこへ行った? 」
部屋の外に魔力が漏れ出しているらしく、部署内が少し騒ぎになっている。
「カルミナ、結界を解除できるか? 」
「出来るわよ。さっき放出した魔力を吸い上げればいいだけだもの。……それ」
カルミナが指を鳴らすと、魔力がカルミナのほうへ吸い上げていかれたらしく、カルミナの姿も見えるように、それと共にフィリスの姿も見えるようになった。
「あれ? みんな今いなくなってなかったか? 」
「何だったんだ今の現象は」
外が騒がしい。個室だから大丈夫かと思っていたが、この魔力は部屋位なら簡単にすり抜けてしまうらしい。後で内村課長に怒られるつもりで今のうちにみんなに謝っておくか。
「すいません、それこっちの仕業です。ちょっと人払いの結界のテストをしてまして」
「なんだそうだったのか。原因がわかればそれでいいよ。で、結界は解除したんだろ? 」
たまたまその場にいた近藤さんがこっちの話を聞いて茶々を入れてくれた。
「はい、おかげさまでそれなりに有意義なデータが取れました」
「内村課長にばれる前にちゃんと処理しとくんだぞ」
お騒がせしました……と扉を閉めると、さっきの結界装置にもう一度着目する。
「能力者だけを対象にして効果を及ぼすことも可能、か。これ、一般人向けの魔力を充填して結界内に封じ込めれば再利用できるようにはならないかな」
「出来るとは思うけど、あんまり効率は良くないと思うわよ? ただ、特注品としてより巨大な範囲に人払いの結界を及ぼしたいとかならまあ、出番はあるかもしれないわね」
「よし、最後にそれを作って仕舞いにしよう。カルミナ、魔力の充填を頼む。フィリスはカルミナの魔力を結界内に封じ込めながら蓋をする係だ」
「はい、やってみます」
「じゃあ、最初は色付けてさっきの魔力を再現して入れ物の中に入れるから、全部入ったら結界をどんどん狭めるようにして封じていってね。もう大丈夫だと思った頃に私が色を消すからその後封印して頂戴」
「わかった。よろしく頼むわね」
二人が協力して人払いの結界の再利用品を作ろうと試みている。かなりの濃さの魔力が結界装置内に封じ込められていき、フィリスが結界でそれが外に漏れないように調整。後は容器の中にしか魔力が残らないようになってから、カルミナが魔力の色を消し、無色透明の魔力が容器内に封じ込められたところでフィリスが蓋をする。
俺も魔力感知で魔力の流れを読んでみるが、完全に容器の中に入り切ったらしく、容器は無事。きつすぎる魔力をまとって破損している様子もない。実験成功かな。
「二人とも協力ありがとう。ちょっと面白いことがいろいろ分かったので三人の成果として報告書を作って内村課長には渡しておくよ」
「まあ、ポテチ一袋のためだからね! このぐらいは楽勝よ」
「私はトモアキ様のお役に立てればそれで充分です。では、席に戻りますね」
後は報告書をまとめて……どうやら工業製品であることが確実であり、結界装置の内側はインクプリンタのようなもので流し書きされてはいるので、特別なインクを使っているのでなければ普通に効果はありそうだということ。
カルミナの魔力で同威力で違うベクトルの、能力者にだけお互いが感知できなくなるようなものを実験で作り上げることが出来たこと、そして、最終完成品として今までの物よりもおそらく威力が高いであろう一品を製造し直したことをまとめた。
内村課長の机の上にそっとその用紙を差し出しておくと、いつもの次に回るべき散歩先……つまり浄化先だ、それのリストとにらめっこしながら一日が過ぎていった。
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