40:お給料
社畜の唯一の楽しみである、お給料日がやってきた。今では社畜と言われるほどの忙しい日々を送っている訳ではないが、それでも外勤内勤それなりに忙しく回ってはパトロール中にすれ違った人の浄化なんかをこまめに行っているため、俺もフィリスもカルミナもちゃんと仕事をしている、と言えるぐらいにはなってきた。
何処かへ出かけてまた浄化魔方陣を編み上げて範囲浄化する、といった具合の仕事はまだあれ以来舞い込んではいないが、日々の浄化の見回りや細やかな場所の報告、それから瘴気の貯まりやすい場所から算出された、最近回っていない所の確認などをしていき、ようやく仕事にも慣れてきたところでの給料日だ。
途中緊急入庁のため満額は出ないだろうが、それなりには給料が出ているものだと考えている。それにフィリスとカルミナも人数としてカウントされているため、多少安くなっていても三馬力で生活する分だけ楽は出来るんだろうな、とは思っている。
「フィリスさん、カルミナ、ちょっと来てくれ」
朝一の朝礼が終わり、二人が呼び出される。なんだろう、と聞き耳を立てておく。
「二人の給料の話なんだが、まだ日本国籍を取得してないので表向きは警察官という立場で迎え入れることが出来ない。なので、銀行口座に振り込むことが出来なかった。そのため、この場で現金で支給することにする。こっちの世界ではあまり褒められた方法ではないんだが、体面上無給料で働かせることもできないからな。一応給与体系に基づいた金額にはなっているので、正式に警察官として登用された場合でも同じ金額を支給することになる。ここまではいいかな? 」
内村課長が二人に確認を取る。フィリスは少し考えた後、内村課長に尋ねていた。そして俺の手元には給与明細が手配りされてきていた。
明細を見る。中途入庁でフルタイムで働いていない分少ないとはいえ、ちょっと心許ないところはある。前の職場のほうが給料は多かったな。
そういえば、この間の奥多摩霊園の浄化作業は出張作業にはならないのだろうか。一応都内だから出張にはならない、ということなんだろうか。まだまだ給料については一考の余地がありそうだな。そういえば、最初のスカウトを断ったのは給料が若干シブいせいだったな。
しかし、今後は三馬力だ。三人とも同じ給料だったとしても、三人で共同資金を管理して家賃と食費はそこからねん出していくことにしよう。
しかし、前の職場の給料がちゃんと振り込まれているかどうかはまだはっきりしないし、退職金も出るのかどうかはわからない。入ってくるかもしれない金の話を考えるより、しばらくこの金で生活をすることを考えていこう。
「トモアキ様、私お給料をもらってしまいました! 働いた分のお金がもらえるって素敵なことですね! 」
「そうだな、色々あったが無事に今月も乗り切れたということになる。帰ったら使い道についてちょっと話し合っておこうな」
「これでポテチ何個買える? 百個ぐらい買えるの? 」
カルミナはまだ金銭価値の違いを理解してないらしい。少なくはないが多くもない、と言った金額の給料を袋から出してはペラペラと札のちょっとした束で扇いでいる。
「まあ、詳細は家に帰ったら話そう。人前でそうそう見せつけるもんじゃない。あまり行儀のいい行為とは言えないな」
「そうですね、では、家に帰るまで無くさないようにしっかり保管しておきます」
「あたしもー! 」
二人してアイテムボックスにパッとしまったので、アイテムボックスの存在をまだ知らない他の職員が少し珍しい表情でこちらを見ている。俺は振り込みなので明細書さえ手元にあればいいんだが、今日は給料日だしすき焼きとはいかずともそれなりに贅沢なものは食べられそうだな。
昼休みになってお弁当を食べつつ、金の使い道について伝える。
「まず、家賃と水道光熱費、それからこれから二人に持ってもらうことになるスマホの代金を三分割して、それぞれの給料から差し引いていこうと思う。それはいいか? 」
「お家賃と電気代、水道代は三人で分けていこうと決めましたからね。それは問題ありません」
「後は食費もだな。ポテチ代は別として、三人で暮らしていく分には……多分このぐらいはかかるだろうから、その分も引いて、残ったらプールしていつか美味しいものを食べに行く用として溜めていこうと思う。かといって必要以上に食費を削ると体に無理が来るからな。ちゃんと食べた上で残ったらって所だ」
カルミナがさっき振り回していた札束の分で二人の今月の給料はおおよそ把握が付いている。俺も似たようなもの、というところらしい。役職手当とか技能手当が付くようになればもうちょっと上向きの生活ができるようになるだろうし、公務員だからボーナスも潤沢に出るだろう。それに期待しておく事にするか。
「すまほというのはトモアキ様の持っている通信機器の事ですよね」
「ああ、給料も出たことだし、俺の名義で二つ契約するからそれぞれ持っていてほしい。緊急時に連絡がつけやすくなる。後、アイテムボックスに入れると多分繋がらなくなるからアイテムボックスの外に持ち歩くようにしてくれ」
「わかりました。次のお休みぐらいに買いに行く形になるんでしょうか」
「本当は仕事の都合上すぐにでも……と言いたいところだが、今のところ二人が外出するときは誰かが付き添いで来てくれてるからその間の連絡は大丈夫だと思う。だから休みの日になったらだな」
フィリスとカルミナの立場上、個人として動き回るには目立つし、何より正式な警察官の身分を持っているわけではない。もうしばらくして日本国籍を取得するか、それとも外国籍を手に入れて外国からの研修として公安に勤めている、という言い訳が成り立つまではもうちょっと時間がかかるのだろう。
「それで、大丈夫なのですか? このお金で暮らしていけますか? 」
「今回は一月の中途半端な時期に仕事を替えたから、その分給料は少ない。でも、次回からは……多分このぐらいのお金が振り込まれることになると思うので、これなら充分やっていけるし、ポテチも欠かさず毎日食べられるぞ。せっかくの給料日だし、今日はポテチも二袋食べていいことにする」
「やった! ポテチ! 」
カルミナが満面の笑みでガッツポーズをしている。ポテチ二袋で機嫌が取れるなら安いものだな。
来月からスマホ代も三人分払うことになるとしてもそれでも貯金する余裕は出来るはずだ。
「とりあえず、だ。家に帰ってちゃんとお金を計算して、もらう分はもらって、二人の自由に使っていいお小遣いを決めていこう。もちろん俺もだ。そしてその残りは貯金として俺の銀行口座に預けていくことにする。そこに異論はないな? 」
「私たちは銀行? にはまだお財布を作れないという説明を内村課長から聞きましたが、それまではトモアキ様に預けるという事ですね」
「もちろん、自由に使う分のお金は渡すぞ。新しい服を買ったりアクセサリーを買ったり、色々してみたいこともあるだろうしな」
「競馬! また競馬行く! それで増やしてポテチも増える! 」
「競馬はダメだ。またズルするだろ。警察官としては許される行為ではない」
そう、胸を張って警察官と言える立場になったのだ。賭け事を禁止されている訳ではないが、あからさまな八百長や相場操縦に加担するようなことは控えなくてはいけない。
「むう、競馬また行きたいのに」
「競馬ではありませんが、他の動物も見てみたいですね。他にはどんな動物が居るんでしょう? 」
「動物か……動物園へ行くのも悪くないな。それも今後の休みの予定に入れておこう」
「約束ですよ! 」
フィリスが笑顔で腕をブンブン振りながら俺と手を繋いで約束の握手をする。スマホを買いに行ったついでに動物園に行って、実際に使えるようになるか実験をするのも有りかもしれないな。今日もお弁当が美味しいし、今のところ新しい公安生活は順調であるようだ。
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