39:帰りは何事もなしに
奥多摩霊園の管理者に仕事が終わったことと、しばらくは何もしなくても安心だということを伝えると、向こうは感謝の言葉でたたえてくれた。この後は本当に見回りをしないと確実な効果は見込めないだろうが、その点は大丈夫なんじゃないかなとは思っている。
なにせ奥多摩霊園の外側まで浄化魔法が届いていたぐらいだ。周辺から寄り付く瘴気もある程度は浄化されたのだからいましばらく時間を置いてしまっても問題ないだろう。フィリスも、これで大丈夫ですよと向こうに伝え、管理人さんからは「外国人の方も働いているんですね。人材が豊富で羨ましいことです」とまで言われてしまった。
「トモアキ様、この国では他の国の人が警察で働いているのは珍しいことなのですか? 」
「そうだな、基本的には外国籍で警察官になることは出来なかった……はずだ。ですよね? 」
「そうよ、だから今のところは公安預かりということで正式な警察官としての身分は与えられないわ。あくまで情報協力者って立場の上で同行を許している、という形になるわね」
「ということは私たちだけで仕事をしに出掛けることはないということなんですね」
「そうなるわ。だから進藤君か私か近藤さんか、また別の誰かにくっついて浄化作業を行うって形になると思うから、今のうちに仲良くなっておいてね」
「わかりました、努力します」
挨拶も終わり車に乗って帰り道。帰りもまた二時間半、今度は俺が運転しながらの帰り道だ。途中で休憩こそするものの、部署に戻って報告書書いて、それで今日の大まかな仕事は終了になるかな。
「どう? 今後この仕事続けられそう? 」
鈴木さんがフィリスとカルミナに質問している。休憩所でコーヒーを人数分買っておいたのでそれを飲みながらだ。カルミナは苦そうに飲んでいるが、フィリスはブラックコーヒーでも大丈夫らしい。
「そうですね、前のお仕事に比べてずいぶん楽だと思います。一日に離れた場所で数ヶ所同じだけの魔方陣を行使して浄化していく……なんてこともありましたし、それに比べれば」
「あなたたち、どれだけブラックな仕事をやってきたのよ……」
「勇者パーティーに勤務時間や時間外労働の概念はありませんでしたからね。顎でひたすらこき使われてましたよ。それに比べればこっちは天国みたいなもんです。前の職場もブラックでしたが、勇者時代ほどではなかったですね。それに、こっちは今のところ命のやり取りが一回しかありませんでしたから暢気なものです」
運転をしながら鈴木さんの質問に答える。元勇者という肩書を知っているのはまだ今のところ限られているので、愚痴を吐く相手もまだまだ少ない。今後知られていくことにはなるだろうが、今のうちに言えることは言ってしまうほうが後でお互いの勘違いや溝が出来たりするのを防ぐために、コミュニケーションはできるだけ取っておいたほうが良いだろう。
「じゃあ一番厳しかったのはどんなことだったの? 」
「それはもちろん、カルミナと戦うのが一番厳しかったですわ」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃないの! 魔王としての威厳が保たれたわ! 」
その元魔王様はブラックコーヒーに苦戦して中々飲み干せないでいる。
「まあ、実際二徹の後で最終決戦って流れだったからな。ボロボロの中でよく勝てたと思うぞ」
「こっちだって部下をあっちにこっちに向かわせて、指示を飛ばし続ける中三徹で戦って負けたんだから徹夜がなければ勝ってたわ」
魔王なのに眠気には勝てないらしい。その時点でこちらが勝ったようなものだったか。一徹分の時間を稼いでくれた勇者パーティー以外の人たちに感謝だな。
「まあ、なんにせよ今は同じ釜の飯を食う仲になってしまったわけだ。諦めてこっちでは大人しく暮らしたらどうだ? こっちで暴れたらポテチが食べられなくなるぞ? 」
「むぅ……それもそうね。それにこうやって時々つまみ食いさせてもらって瘴気を溜め続けていればいつか私も元の姿の大人のレディに戻るんだからせめてそれまでは長生きしてほしいところね」
「そもそも魔王の寿命ってどれだけあんだよ」
こいつは俺が寿命で死んだ後も内事六課に居座りそうな気がする。ポテチ一袋二袋で落ち着いてくれている災害……と考えれば安いものか。たまには顎でこき使えるし、これはこれで便利な存在として消滅するその日まで生涯を全うしていくもかもしれないな。
「とりあえず私が張った結界も無事に作用しているようですし、これで何年かは持ちそうですね」
「何年!? 何か月とかじゃなくて? 」
「フィリスの浄化魔方陣、結界効果も付与されるのでしばらくは何も寄り付かない形にはなりそうですよ」
「じゃあしばらくここまで出張してこなくてよくなるわけね。一仕事減って嬉しいところだわ」
「あ、でも年に一度ぐらいは報告を聞いてちゃんと作動しているかのチェックは必要だと思いますのでそこだけは確認しておいてください。不完全な状態で使ったわけではないですが、念のためはありますから」
フィリスと鈴木さんの認識に多少のずれがあったらしい。鈴木さんとしては現在溜まっている瘴気だけを浄化しただけと思っていたらしいが、フィリスの張った浄化魔方陣はしばらくは結界としても作用するのでそもそも瘴気が溜まらない、という形になるのだ。
「事後承諾みたいな形になってしまって申し訳ないのですが、そういうことになったということで一つ報告のほうは……」
「まあ、そういうことを懸念事項として挙げておくからそこはなんとかしてね、進藤君」
「解りました。報告書はよく解ってる俺の担当ってことですね」
途中トイレ休憩を挟みつつ警視庁にたどり着いて、予定よりも二時間ほど時間がかからなかったため早めの解散となり、鈴木さんはフィリスとカルミナを連れて巡回に回っていった。その間に俺は今日起きたことの報告書の作成だ。怒鳴る上司も一々やることに注文を付けてくる隣席も居ないので落ち着いて書類仕事をまとめることができる。
いや、でも隣席が居ないのは少し寂しいか。外回りに行かせる前にフィリスに簡単にレクチャーを受けておけばよかったか。いやでも、俺の知ってる浄化魔方陣であったから解ってる範囲で書き終えて、残りの細かいところはフィリスに聞いてくれ、という形で現状報告をまとめるしかないか。
今日の業務日誌……片道二時間半かけて現地に到着して、現地で三十分ほどで周囲一キロメートルから二キロメートルに亘る広大な範囲を一発の魔法で浄化、そして結界を張ったので、経過報告こそ必要なもののいましばらくは大丈夫であることだろう……と。
パソコンで書面を書き終わって、詳細なことはフィリスに聞け……という形で提出した報告書は無事に再提出を受け、フィリスが帰って来るまで他の仕事をすることになった。先に聞いておけばよかったと思いつつも、どうせ一緒に帰るんだから同じか、と思い直したので、素直に帰ってくるのを待った。
帰ってきたフィリスにおおよその結界の強度と時間的な猶予を確認し、推定値を入力して再提出。今度は認められたので、無事に帰ることが出来た。一緒の家に住んでいても、たとえ五年間一緒に居たとしてもすり合わせが必要なことは確かにある、ということを実地で学んだのだ。こんなことなら帰り道で頭の中で報告書作り上げておけばよかったな。
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