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38:広範囲浄化

 鈴木さんが人払いの結界のアイテムを取り出し、地面に置く。蓋を開き、中から何やら瘴気ともまた違った不思議な雰囲気の魔力の塊のようなものが漏れ出ては空気中にそっと広がっていく。これは流石に内事六課で研究開発されたものというわけではないんだろう。もっと古くからある宗教や退魔組織から物を融通してもらってお互いに協力関係を築く代わりに役割分担をしましょう、といった内容のものである可能性が高い。


 さて、フィリスのほうだが、俺からの許可が出ていることにより聖杖メテオストロークを手にして地面に立て、浄化の準備中。無言で淡々と仕事に入るフィリスの真剣な部分がちょっとかっこいい。


「うん、新鮮な瘴気ね。やっぱりポテチよりこっちのほうがおいしいわ!」


 カルミナはフィリスの浄化の空気を察知してそれを妨害しようとしている小さな瘴気を相手に闇魔法で吸収、自分の糧として食事……つまみ食いをしている。まあ、このぐらいのつまみ食いなら大丈夫だろう。


 フィリスの浄化の儀式の準備につられて小さな瘴気の塊がいくつかこちらにふよふよと釣られてくる。小さいうちは大丈夫だがこれが巨大化して妨害するようになると厄介なので、カルミナと共に小さく浄化作業を始める。


 うん、先日の将門塚に比べればはるかにやりやすく、仕事もそう疲れるものではない。むしろここまでくる二時間半の車でのドライブのほうが疲れるぐらいだ。


「オッケー、人払いはし終わったわよ」


 鈴木さんが人払いの結界が張り終わったことを告げてくれる。周りには人が居ない訳ではなく、時々通りかかるが、こちらが何もしてないような感じで素通りしていく。どうやら本当に人払いの効果はあるらしい。こんな小屋の裏でむにゃむにゃとしていたりカルミナが変なポーズを取りながら周辺の弱い瘴気を食べている様子が視覚そのものに映ってないようだ。


 相変わらず謎の技術体系で作られているな、この人払いの結界。可能ならフィリスとああだこうだ言いつつ解析してどういう魔力や技術の方向性からこれが作られているのかというのを解き明かしたいが……そういうのは仕事に完全に慣れて、暇な時間が出来た時だな。それに、異能の力に目覚めている者にはこの人払いの結界は機能しないらしいのでそこも含めて謎の技術ではある。


「フィリスはそのまま集中してくれてていいぞ。周りに寄ってくる邪魔しいの瘴気や煩わしいのはこっちで処分していく」

「解りました……あと五分ほどで霊園全体を覆うぐらいの浄化魔方陣は組みあがると思います」


 フィリスが更に集中し、静かに文言を唱え始める。凛とした空気が周りに広がり始め、それに伴い瘴気らしきざわめきが聞こえ始める。


「お主ら、ここを浄化しようとしておるのか? 」


 ふと、人の声がする。人払いの結界をしているさなかに聞こえてくるということは何らかの能力者である、と考えたほうが良いだろう。


 声のする方を見てみたが、姿は見えない。


「わしの姿を探そうとしても無駄じゃ。既に空気に溶け込んで居る故な。それより、浄化を行うなら出来るだけ丁寧にやってくれ。パワースポット巡りやら観光やら気晴らしやらで瘴気を持ち込んではため込ませていく観光客がそれなりに多くてうんざりしておったのよ」

「わかった、威力のほうはお墨付きだからきっとあんたも静かに眠れるようになると思うぞ」

「よろしく頼むな。我らはもはや静かに眠りについておるのが一番じゃ。余計な瘴気を溜めこんでいたずらをし始める者がおるから困っておったところなのよのう」

「あんたは……ここの管理人というより代表みたいなものなのか? 」


 虚空に向かって質問を投げかける。すると、どこかから返事が返ってくる


「代表か、まあそのような者じゃな。穏健派代表と思ってくれればそれでよい。出来ればしばらく悪さが出来んように徹底的に浄化してくれると安らかに眠れてちょうどいいんじゃがのう」

「あんた自身はもうこの世に未練とかそういうものはないのか? えらく落ち着いてはいるが」

「未練があるかないかで言えば大いにある。しかし、死人となってまで叶えたいと思うことでもなし、その為に誰かを操ろうとまで思うでもなし。まあ、寿命を悟ったということじゃな。人間の欲というのは死んでも長く残るものらしい。ワシもこうして落ち着いていられるのも今のうちじゃて。もしこの場が瘴気に覆われてしまったらいたずらに人間に憑りついて自分の欲を満たさんがために行動に移るやもしれん。その前に浄化して、その気をなくしてくれればそれでええのよ」

「そこについては保証しよう。もうすこしだから待っていてほしい」

「うむ、期待しておるよ」


 虚空から聞こえてきていた声はそれ以降聞こえてくることはなかった。かの声の持ち主は一体何を望んでいたのかすら聞きとることは出来なかったが、瘴気が悪さをしているおかげでその欲望が内側から溢れ出してきて、次第にそれを形と成して実行するほど強い欲でもなかったのか、それとも自制心が強い人だったのか。


 いずれにせよ、瘴気に当てられたお墓の中の人も浄化を望んでいるのだからここで浄化を取り消す理由はなおさらないということがわかった。後はフィリスの魔方陣が完成するのを待ちながら、近寄ってくる瘴気をプチプチと潰す作業に従事しよう。


「浄化魔方陣、準備できました。いつでもいけます」

「やっちゃってちょうだい」


 鈴木さんのGOサインがでる。フィリスが静かに長めの詠唱を始める。


「静寂の深淵に響く光が穢れたこの地を清める刻を告げる。穢れを焼き、闇を溶かす清浄の輪よ、今、そっと開け。私の心の鏡に映るは、純白の炎。全てを赦し、全てを還す光の波濤よ、この手に集い、邪な魂を清らかに導け。オールピュリフィケーション! 」


 フィリスの詠唱が終わると同時に、一気に魔方陣から放たれた浄化の輪が広がり、辺り一帯の音を消す。こちらが見えていない人たちも一瞬「ん? 」と感じることができる程度には一般人にも感じることができるぐらいの威力だったらしい。その波動が目に見える範囲以上の距離まで届き、一帯を浄化する。


 広がった光は天に届き、周囲の空の雲を一瞬ざわつかせる。その後、一気に浄化の光があふれ出し周辺に漂っていた細かな瘴気が一瞬にして消滅していく。カルミナが「あぁ、おやつがー! 」と騒いでいるが、そもそもそのおやつを消しに来たんだから目的としては成功している。


 墓の多い地域でいくつもの浄化の柱が上がり、十字架を作り始める。おそらく何らかの能力がなければ見えないこの光の柱の多さに鈴木さんがちょっとびっくりしているが、フィリスの最高出力を知っている俺としてはかなり抑え気味に浄化術式を組んだのだな、ということがわかる。思わず腕組みして、うちのフィリスはすごいだろう? という後方彼氏面でフィリスを見やる。


 やがて、範囲全ての浄化が完了したのか光りの柱はそのまま天に昇り、周辺の空気が気持ちいい感じになってきた。


「終わりました。このぐらいで良かったですよね? 」


 何事もなかったかのようにフィリスが立ち上がり、ひざまずいていた部分に付いた土をパッパッと払う。


「予想以上、というところかしらね。範囲外まで浄化しちゃった感じがするわ。でもまあ、これも行政サービスということで良いでしょう。終わったことを報告したら帰るわよ」

作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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― 新着の感想 ―
本職の人たちが仲介組織が異常な戦力保有してることどう思ってるのか気になりますん メテオストロークは多分物理攻撃の方でこそ真価を発揮するんだと思ってる
浄化を喜ぶ霊的な存在もいるんだなあ 生前はどんな方だったのやら
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