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帰還勇者の内事六課異能録  作者: 大正


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37/94

37:奥多摩霊園で

 二時間半ほど自動車の旅行が終わり、現地に着いた。カルミナもフィリスも途中からうつらうつらとしながらの旅だったので、助手席の自分は鈴木さんと雑談をしながら運転手まで眠らないように話を盛り上げつつ、昔話も交えての自動車運転だった。おかげでのどがカラカラだ。


「二人ともついたぞ、一応仕事中だから寝るなよ」

「申し訳ありません、だんだん眠たくなってきてしまいまして……あっちの世界の馬車に比べても乗り心地が気持ち良すぎますし、運転も上手だったのでつい」

「運転技術を褒められるのは悪い気はしないし、今からしっかり働いてもらうからその分でチャラってことにしたいわね」

「帰りは俺が運転していきますよ。道は覚えましたしナビもありますから大丈夫だと思います」

「そう? じゃあ帰りはお願いしようかしらね。私は責任者に顔通しをしてくるから三人は大体霊園の中央部あたりで準備をしておいてもらっていいかしら? 」

「わかりました、準備しておきます」


 フィリスとカルミナを連れて、まず地図のある所まで行く。地図を読んでこの区域のほぼ中央地点を大体把握すると、その地点に向かって歩き出す。中央部分は管理棟と休憩所のちょうど中間あたりに位置するところになるらしい。


 道端で何かをしているというよりは、少し道から離れてしまう辺りが中心になるのかな?ともかく何かの建物の中だったりするわけではないらしい。人に見られないという意味では逆にやりやすいか。


「とりあえず目的地まで散策するか。二時間半も身動きせずにいた分運動不足だろうし、仕事前のちょっとしたウォーミングアップだと思って歩くか」

「そうですね……ついでに、周辺の瘴気の様子も見ておきたいところですし、もし偏って瘴気が存在するならば中心位置をずらして偏ってる瘴気を中心にして浄化する必要もあるかもしれませんし」

「それもあるな。そこを考えて……とりあえず墓のある方まで歩いてみるか」


 運動不足解消にと歩いて……約一名は歩いてるふりをして浮いているが、ともかく霊園の中を歩き続ける。さわやかな森の印象のあるここだが、たしかに所々で瘴気の匂いがする。


「うーん、まだ中心部にも行ってないのにそこそこ居るなあ。ここ、そんなに集まるような仕掛けでもあるのか? 」


 スマホで色々検索してみるが、パワースポット以外にも休日のお散歩コースとして観光地扱いされている様子。人の多いところはよどみやすい、というのは座学の時間に聞かされた話でもある。特にこういうところに意図的に入り込む人は瘴気をまとったまま持って帰ったり、逆に持ち込んで濃度を上げていくことがあるそうだ。


 そこそこ人の出入りがあって、しかもここはお墓。亡くなった人を懐かしんだり残念がったり、そう言った負の感情を自らの内側から出し始めることにより、瘴気が少しながらその場に発生する。その瘴気を置いていく人とそのまま連れていく人がそれぞれ存在する。


 置いていく人はまだいいが、それを引き連れたまま歩き続ける人……パワースポットで瘴気をたっぷりと吸収して動き回るような人は、その瘴気を他の人に伝染させて最終的になんらかの異常事態を引き起こす可能性が高くなる。そうなる前に、そういう人が居ればこっそり浄化して回るのも第六課の仕事の一つだ。


「やっぱり中に入るにつれ濃くはなってるな。やはり中間地点よりも瘴気の重心地点……一番効率よく浄化が出来る所を探す方が良さそうかな」

「だとしたらお墓周りになりますね。人目が気になる所ですが大丈夫でしょうか」

「まあ人払いの結界は張るし、人がたくさんいるというならまだしも、少し影になる部分で結界を張るにはいい感じかもしれない。とりあえず……今は歩くか」

「道がそこそこ綺麗な分だけ歩きやすいのでそれだけは良いところですね。でも、本当に広いですねここ。こんなに広い土地が本当に必要なんでしょうか」

「広いほうが瘴気も塊になりにくくなるし、合理的なんじゃないかしら。あくまでそっちの視点だけどね」


 カルミナが魔王視点で注釈を入れてくる。薄く広く瘴気を扱うってことはそれだけかき集めにくいということにもなる。もしこれが狭い領域に塊として出現するならそれだけ強い瘴気として現代社会に何かしらの反応を起こすようなことになる、というところなのかもしれない。


「……おぉぉ……」

「ん、今誰か何か言ったか」

「いいえ、何も言ってませんけど」

「私も何も言ってないわ」

「おかしいな、今何か聞こえたんだけど」

「くやしい……くやしい……」


 やはり何か聞こえる。どうやら瘴気が固まって形を成すほどまでにはなってないが、声を発するレベルにまで成長した瘴気が周辺に漂っているようだ。やはり全体的にまんべんなく瘴気の塊が存在する、というのは本当らしい。


「だとすると幻聴か瘴気の声だな。声を出すまでに成長してるのは中々気合が入っている証拠だとも言える」

「そうですか、ならさっさと浄化に入るのが良さそうですね」

「何言ってるか気になるわ! 」


 ふむ……一応声という形になるまで成長した瘴気ではあるし、浄化する前に話ぐらい聞いてみてやってもいいだろう。


「何が悔しいんだ、言ってみろ」

「あの三連単が当たっていれば俺もこうならずに済んだ……悔しい……」


 どうやら、競馬で負けて死んだ者の声が大きく聞こえているらしい。あほくさ。


「ギャンブルってのは片手間でやるものなんだよ。それで負けて死んでたら世話ないわ」


 軽く浄化の魔法を行使し、その瘴気を霧散させる。このぐらいの恨みつらみなら詠唱も要らない。浄化っと。


「信じていたのに……紀尾井ジョッキー……」


 どうやら軸にしていた騎手が振るわなくて負けたらしい。騎手で選んでいいのはG1乗る時のごく一部だけだぞ。そのまま瘴気は消え失せ、少し清い空気になった。


「で、結局何が思い残しだったわけ? 」

「ただのギャンブル中毒者だったよ。こういうのでもちゃんとお墓にいれてもらえるってのは良いことなのかもしれないな。向こうの世界だったら纏めて穴に放り込まれて浄化して終わりだったしな」

「清い魂になって戻ってきてくれると良いんですけどね」


 なに、日本の輪廻転生的に言えばお前は次には虫けらになるのですホホホホ……みたいなもんだろう。次は虫けらで精々徳を積んで新しく生まれ変わってほしいものだな。


 中腹まで上り、休憩所に来たところで鈴木さんと合流した。


「どう? 道中なにかあった? 」

「そうですね、ギャンブル中毒者のそこそこ薄めの瘴気には出会いましたかね。さっさと浄化させてもらいましたが。あんなのばっかりでないことを祈るのみですね」

「良い運動になりました、やはり適度に毎日歩くのは大事ですね」

「あたしは浮いてたけどね」


 地図をみるあたり、この休憩所を中心にして浄化魔方陣を張り巡らせるのが効率的であると考えられる。裏手で人払いの結界を発動させて、さっさと終わらせて帰りたいところだ。


「じゃあ、とっとと終わらせて帰りましょうか。わたしは人払いの結界のほうの準備をするから、みんなはフィリスさんの護衛と魔方陣展開の準備をして頂戴」

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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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― 新着の感想 ―
どんな恨み辛みかと思ったらしょーもない瘴気だったw これくらいの軽めのばっかりだったら楽なんですがねえ
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