31:初任務の後始末
ダンジョンで潮干狩りを
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こちらもよろしくお願いします。
現場は将門塚の結界の再封印を確認した後、内事第六課は各地に散らばっていき、通常業務に戻った。後に残ったのは近藤班、鈴木班、そして我々の上司である……
「外回り初日でこんな大事を引き起こしてくれたのは初めてだなあ? ん? 近藤ちゃんよ」
上司である、内事第六課長、内村さん(偽名)であった。
「まあ、反省はしてるようだし初動の対応も完ぺきだった。その点は評価するにしてもだな。新人にいきなり将門塚にお参りに行かせるような奴があるか? 」
「彼女たちの強さなら再封印もできるとタカをくくっていたのは確かです。ですが、まさか封印を解いて瘴気を吸い上げ始めるとまでは思いませんでした」
「カルミナだったか? まだ寝てるが、闇魔法で瘴気の吸収が出来ることと、他の世界で元魔王だったこともあるんだから、こっちの瘴気を吸い上げて魔王として復活する可能性にまで頭を巡らせなかったのか? まだまだだなあ? え? 」
あぁ、なんかこのやり取り、前の会社を思い出してほっこりするなあ。失敗した時はこういう理詰めで来るタイプだったからな、角田部長。
フィリスは椅子に座って少しまだぐったりしている。そんなフィリスに膝を貸しつつ、近藤さんが怒られている現場を目撃している最中だ。ここでやらずに部署に戻ってからやればいいのに。多分部署に戻って冷静になって怒るのも馬鹿らしいほどのミスだったということだろう。
人払いをしてるおかげで聞いている人もいないが、そろそろ時間もあれだし、とはいえ新人三日目の俺達が口を出していいような関係かどうかもまだ解らない。ここは内村課長が冷静になるまでしばし待つか。フィリスも消耗しているし、一休みにはちょうどいい。
やがて、カルミナが目を覚ました。
「あれ? あたしどうして……たしか瘴気を吸い上げ始めてから……ねえ勇者、その後あたしどうなったのかわかる? 」
「こっちの魔王にあたる三大怨霊の一つに逆に体を乗っ取られそうになったから、フィリスが体を張って守ってくれたところだぞ……と、お前ちょっと背が伸びてないか? 」
「ん? ……あ、ほんとだ。ちょっとオトナになってるかも。勇者はこのぐらいのほうが好み? 」
小学校五年生ぐらいだったカルミナが高校生ぐらいまで成長している。おそらく将門塚の瘴気を消化しきって、その分だけ成長したのだろう。だが頭のほうはまだ成長していない辺り、まだまだ力を回復したとは言い難いんだろうな。
「俺はフィリスぐらいのが一番好きだよ」
するとビクッと膝の上で反応があった。どうやら起きていたらしい。そして、だんだん顔が真っ赤になっていく。そのまま見なかったことにして、頭を撫でて落ち着かせていると、やがて満足したのかムクリと体を起こした。
「トモアキ様、私頑張りましたよ」
「ああ、頑張ったな。日本三大怨霊相手によく戦った。さすが聖女様だな。後、杖はこっそり隠しておけよ。出どころを聞かれると面倒だ」
「そうでした……っと、これで大丈夫です」
こっちは落ち着いたが、むこうはまだ怒られの時間が続いている。鈴木さんも呆れたのかこちらに向かって来た。
「全く。私も死ぬかと思ったわよ」
「あれが一番手っ取り早い方法だったので。人払いは効いてるはずだし大丈夫だとは思いますが、カメラで映ってるのをあれこれ拡散されると面倒なことになったりはするかもしれませんね。一応カメラに映りそうにないところを走ってきたつもりでしたが」
「人間って時速八十キロの風をもろに受けるとうまく呼吸が出来なくなるのね。あなたの背中じゃなかったら確実に窒息死してたわ」
「そこは緊急避難ということで勘弁してもらえませんかね」
「じゃあ、コーヒー買ってきて。ここの人数分……と、カルミナは抜きね」
「えーそんなー! 」
自分だけ飲み物抜きのカルミナが不満のフを表明している。
「元はと言えばあなたの起こした問題でしょ? いくら連れてきた近藤さんが悪いとしても、元凶はあなたなんだから怒られるのは覚悟しておきなさい。内村課長の怒り方はねちっこいわよ」
コーヒーを買いに行き戻ってくると、内村課長の近藤さんへのお叱りは一段落していた。
「おう、パシらせて悪いな」
「いえ、自分が一番下っ端ですから」
「今日は助かった。細かいことは抜きにして礼を言う、部下と周りと日本を救ってくれてありがとう」
「元凶は自分が連れてきたこの元魔王のせいなので、搾り取るならこっちからたっぷり搾り取ってやってください」
「そうだな。そうする……ん、カルミナ、お前成長してないか? なんか身長も伸びたし」
「成長したわ!将門の瘴気をいくらか吸った影響だと思うわね! 」
「褒めとらん。むしろお前への説教はこれからだからな。覚悟しておけよ」
「そんなあ……」
その様子を鈴木さんとフィリスと三人で見ると、クスっと笑う。
「とりあえず今日のところは事務所へ戻るぞ。二人とも疲れただろうし、こんな事故起こしておいて新人研修も何もないからな。また明日改めて内容を精査して、安全な所から順番に巡ってもらうことにする。近藤は戻ったら始末書。カルミナも始末書。それに加えてカルミナは一週間ポテチ抜きだ。進藤はしっかり監視してやっててくれ」
「了解しました」
「あうー……ポテチ……」
ポテチへの未練が立ちきれないカルミナが悲鳴にも似た怨嗟の声をあげる。
「ポテチと瘴気、どっちが美味しいんだ? 」
内村課長が試しに聞いてみる。
「そんなの瘴気のほうに決まってるわ! ポテチは無くても生きていけるけど瘴気を全て無くしたらあたし消滅しちゃうもの! 」
「じゃあ、しっかり食事はとれたってことでしばらくは瘴気の吸い上げも禁止だ。最悪俺達がお前の息の根を止める可能性だってあることを念頭においてもらいたいところだな」
確かに、あそこで将門塚に封印されている瘴気を全て吸い上げていたら、カルミナは完全復活していたのか、それとも中途覚醒で終わったのかは解らないが、相手が将門塚ということもある。
長年の怨念によるカルミナへの逆ハックだったとすると、カルミナがもしも将門塚の瘴気を全て吸い上げていた場合、俺達が倒した時よりも更に強い魔王へと変化を遂げていたかもしれない。その場合勝てるかどうかと言われるとかなり厳しいんじゃないだろうか。
「それじゃ帰るぞ。ちゃんとついて来いよ」
「はい……」
「はーい……」
牙を折られた元魔王と近藤さんがとぼとぼと歩き出す。フィリスの体調を確かめて、部署まで戻れるかどうかを確認して大丈夫そうなので付き添うようにして歩いていく。
今日は何とかなかった。そして、相変わらずカルミナへの監視は続けなければいけないという思いと、今日これだけ大変だったのだから明日からはもうちょっと楽な仕事になるに違いない、という気持ちを共にして部署へ帰り……そして、カルミナの泣くような悲鳴と内村課長の怒号が響き渡ることになった。
警視庁地下六階。存在そのものもほとんど知られていないその場所には内事第六課という秘密部署があり、俺とフィリス、カルミナはそこ預かりの人間として所属することになった。まだ戸籍や国籍の問題は解決していないが、日々仕事をしていく間にそれらについて認可が下り、偽造された戸籍や国籍が届き次第、正式にフィリスには婚姻を申し込もうと思う。
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