28:座学のお時間
マツさんのゲル
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ダンジョンで潮干狩りを
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こちらもよろしくお願いします。
戦闘訓練チェックを受けた後、部屋を替えて基本的な知識の詰め込みから始まることになった。新しい職場になったのだから知識の吸収は大事だ。あの人払いの結界については俺も興味がある。あそこまで完璧な人払いを実行できるのはおそらく何百年もかけて研ぎ澄ませてきたものなのだろう。
何より、異世界よりも人が多いこちらの世界でそれだけの多さの人数に暗示をかけて今まで違和感を感じさせないでいたという事実がその性能の良さを物語る。
「さて、座学担当の西村です。ちなみに私は偽名ではありません。裏方担当なので偽名を持って行動する必要がないので本名で仕事をさせてもらっています。初めてこちらの組織に所属される方々には私のレクチャーを受けていただいて、その後で実務にあたっていただく、という形になります、よろしくお願いします」
少し腹の出た、恰幅の良い男性が講義担当としてついてくれるらしい。
「よろしくお願いします」
「ではまず、現在の犯罪発生率についてですが、一日に三、四件のペースで発生はしております。少ないと思われるか多いと思われるかはそれぞれの判断にもよりますが、出動回数としては中々多めである、と考えてくださって結構です。年間に計算し直すと千件を軽く超えることになりますから」
「犯罪の軽微さについてはどうなっていますか? 」
フィリスが質問をする。確かに、重大犯罪ばかり発生しているのではここの重要さに関わってくるからな。
「軽微さ、という基準を作るのがまず難しいところではありますが、部署総出で出動して大捕り物をする、というケースは年に一回程度ですね。基本的には一人から三人で一組となって活動することが主になりますが、メインは見回りになっているケースがほとんどです。見回りをする中で事件が発生した場合、一番近くにいる組に連絡が行って対処をしてもらう……そういう流れになります」
ということは基本的に外回りで部署に籠って仕事をする、というのは一部の時間か、報告書を書く間だけ、ということになりそうかな。
「お三人さんはまだ入って日が浅いので、他の能力者の刑事としばらくは同行して、普段どのような活動を行っているのかをまず覚えていただきます。いわゆるパワースポットと呼ばれる場所では瘴気が発生しやすく、日々見回りと称して瘴気の浄化を行いつつパトロールする、というのが一番多いパターンの出動になりますね」
なるほど、たしかに神社仏閣でのパワースポット扱いされているのは多い。それらには魔の物を封印している場所が多いということも聞くし、もしかしたら浄化した後の綺麗な状態の場所をパワースポットとして勘違いして認知されている、という可能性があるのか。本来は逆なんだろうが、裏方仕事として世の中を支える立場になってみて、その大変さがわかる気がしてきた。
「なお、あなた方が出会われたように瘴気が人体に憑りつき襲い掛かったり暴れたり、等の活動が行われるのを確認した際は、内事六課だけではなく地元警察の応援も呼ぶ可能性があります。それは何処まで被害が出た状態で我々が駆けつけることが出来たか、という部分にもかかってきます。あまりに被害が大きすぎる場合は退魔としてではなく一個人の人格が起こした事件として処理されることがありますが、その後で内事六課の仕事として浄化を試みる場合がありますので、それも仕事の一つだと言えるでしょう。先ほどの訓練を見る限り、多少方向性は違えど三人とも浄化に近しいものを扱える、ということでスカウトされてきたのだとは思いますが、大いに期待させてもらうところではあります」
やはり浄化が出来るのは数がそれほど多くはないのか。あっちでは神官ならば簡単な浄化ぐらいなら行えていたのでちょっと新鮮ではあるががっかりでもあるな。霊能力者みたいな人達にもいくらか本物はいるんだろうという方面にも頭は向かうが、ほとんどはパチモンってことなんだろう。
「ちなみにここに瘴気のサンプルがありますが……蓋を開けると消失してしまうので見るだけにしておいてください」
試験管の瓶に入ったもやもやした瘴気が目の前にだされる。どうやら本当に小さい瘴気らしく、小さいからこそ捕まえられたのか、これより強い瘴気はその場で浄化しないといけないのかまでは解らないが、これも新人教育用のサンプルなんだろうな。
「これ、吸収できるわ。私の養分にしてもいい? 」
カルミナが気軽な感じで言う。
「それは勘弁してください。貴重なサンプルなので。ただ、瘴気のサンプルを作り出すことができるならば是非とも協力してほしいところですね」
「任せなさい、私が制御できる範囲の瘴気なら大小変わらず出せるわよ」
カルミナがない胸を張って宣言する。どうやら役には立てることは立証されることにはなりそうだ。
「さて、ここで機密事項についてご説明差し上げなければいけません。秘密組織に所属する関係上、皆さんには最低限守ってもらわなければならないことがいくつかあります。まず、内事第六課という身分を隠すこと。その為に表向きの名刺を渡すので、もし名刺や身分の提示を求められたらそちらの方を渡してください。また、内事第六課の名刺も同時に配ることになります。これは能力者やスカウトするべき人物を見つけた際に内事第六課に連絡を入れて、理由を明確にしておくことでようやくスカウトの許可が下りる、という形になります。もし手順を間違えたり、それが問題になって内事六課の秘密がバレるようになった場合、例外なく非常に重い処分となりますので気を付けてください」
まあ、秘密組織なのだから非常に重い処分……記憶を消されてその辺にぺって捨てられるとか、そういうこともあるだろうな。ただ、問題は他の職員と違って俺達三人を抹殺するのはそれなりに手間がかかるだろうな。こっちも素直に消されるつもりもないし、とりあえず話半分で聞いておくことにしよう。
ということは、鈴木さんはあの段階でもう本部に連絡を入れていた、ということになるのか。救急車を呼ぶどさくさの間にしっかり連絡を入れていたことになるのか。実は鈴木さん、けっこうできる人なのでは。
「まあ、スカウトはうかつに自分の手札をばらすような話になるので、慣れるまでは表向きの名刺だけを……ああ、ちょうど届いたようですね。こちらの名刺を使うようにしていてください」
新しく刷られた名刺には巡査の肩書と名前、それから所属が書かれていた。所属は公安のままだが、内事六課の部分が消されている。公安の人なら偽名や肩書、それから役職が誤魔化されていても仕方がない、ということなのだろう。しかし、なぜ俺達は本名なのだろう? 俺達も偽名を使うべきではないのかな?
「あの、皆さんは偽名ですけど俺達は本名ですよね? そこは誤魔化さなくていいんですか? 」
「慣れるまではお互いを偽名で呼んで反応がなかったりするケースがありますからね。下手にボロを出すよりは、最初のころは本名で仕事をしていただきます。その内偽名を使うぐらい実績をあげられたらその時にまた考える、という形でも問題なくなるとは思いますので、その頃までにかっこいい偽名を考えておいてください」
かっこいい偽名……かっこいいよりもありふれた名字にありふれた名前のほうが偽名っぽくてわかりやすいと思う。例えば田中一郎とかそういう感じの。でも、フィリスとカルミナについては偽名を使うよりもそのまま本名で通しておいても問題ない気もするな。カルミナはカルミナ自体が偽名だしな。
「なお、この後の戸籍の問題にもなりますが、フィリスさんとカルミナさんは形式上姉妹ということにさせていただいております。なのでカルミナさん、あなたは名前を聞かれたらカルミナ・レンブラントと名乗ることをお勧めしますよ」
「まあ、仕方ないわね。そのほうが都合がいいならそうするわ。よろしくねお姉ちゃん」
「はい、よろしくお願いしますね、カルミナ」
「戸籍を作るにはそれなりに時間がかかりますので、その間に仕事のほうを覚えていってもらって、出来上がるころには実戦投入……というか実際の作業にあたってもらうことになります。日本語の読み書きはできるようですので、まずは内勤……書類仕事から少しずつ覚えていきましょう」
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