25:この世界の実情
マツさんのゲル
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ダンジョンで潮干狩りを
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こちらもよろしくお願いします。
「まずは第六課の仕事の前に世の中について簡単にレクチャーしておくと、魔法や魔術、スキルというものが確かにこの世界にも存在する。そして、それらにはそれぞれ闇の組織……というわけではないが、陰で暗躍してそれぞれの犯罪や事件に対処する機関が存在する。そんな彼らとの橋渡しと警察内でもそれらの力に対応するべく組織されているのが我々内事六課だ」
近藤さんがまずこの世界についてゆっくりと話し始める。
「魔の物、と一口に言っても色々ある。そもそも日本では神社や仏閣に魔そのものを封印させてしまって管理するといった具合のケースもあるが、ほとんどはその場で浄化して魔を取り去るケースだ。それ以外には物理的に破壊を引き起こすスキル覚醒者や魔法や魔術に目覚めるものが時折存在する。君もその一人だろう? 進藤智明さん」
俺に向かって目線を向けてくる。
「少し鈴木君が調べてくれていた。三週間ほど前に突然スキルに目覚め、使うことなく生活していたが、上司がたまたま魔の物に囚われた結果それを浄化、その場にいた鈴木君に見定められ、情報交換の結果……報酬が合わないとしてこれを断った、ということになっている。大体合っているかな? 」
「大体は合ってますね。ただ、これから言うことを冗談ではなく真面目な話として聞いてもらう必要があります」
「多少のトンデモ話はここでは日常だ。話してくれると嬉しいね。あ、ちなみに録音はしてあるけど、この話の先行きによっては録音を取り消して消去する。なので安心して応じてくれていい」
どうやら向こうは真面目に俺の話を聞く気があるらしい。ならばはっきりとこの場で話をしておき、場合によってはスキルの行使力を見せつける必要もあるだろうからな。
「俺は三週間前に勇者として他の世界、異世界と一口に言ってしまったほうが良いな。異世界に召喚され、勇者として魔王を倒す役目を与えられ、そして五年間かけて魔王を倒して帰ってきた。その五年間は、どうやらこっちでは二日間しか経っていないことになっている。だからはた目には突然スキルに目覚めた、という感覚なのは仕方ないと言えるだろうね」
「なるほど、つまり君は今……二十五歳だが実際は三十歳ということになるのかな? 」
「そういうことになる。どうやら帰る際の逆召喚魔方陣に少々狂いが発生したらしい。本当は召喚された瞬間まで戻る予定だったらしいが、いくつかのオプションが付属してきたおかげで時間軸がずれて元の世界、つまりこっちに帰ってきたということになる」
「そのオプションというのはそのお二人のことなのかな? 」
近藤さんが興味深そうに二人を見つめる。フィリスは少し目を逸らし、カルミナは「ポテチまだ? 」という顔をしていると思う。
「ちなみにフィリスは勇者パーティーとして聖女の役割をしていた。カルミナは……倒した魔王の分幼体だ。どうやら逆召喚魔方陣にくっついてこちらに来てしまったらしいが、それほど力は持っていない。そうだったな? カルミナ」
「そうね。全盛期の九割以上減っているというところね。簡単なことしかできないわ」
「なるほど。鈴木君がいくら戸籍や国籍を調べてもその二人の情報を掴めないのはそういうことだったか。確かに異世界からのお客さんではそのあたりを調べることは難しいだろうね」
二人の事も調査済みか。なら話は早く済みそうだ。
「そんなわけで、俺からの願いはこの二人の戸籍か国籍の捏造だ。おそらく職員の身元を無理矢理作るために用意してある空き枠がいくつかあるはずだ。それを使わせてもらいたい」
「正面から戸籍問題を解決するのではなかったのですか? 」
フィリスが意外そうに俺のほうを見る。
「こういう職業に就くとなれば表向きの身分を逆利用されて脅迫や取引の材料にされないように、偽造した戸籍を持つことは想像に難くない。そうですよね? 」
近藤さんのほうを見つめる。近藤さんは俺が素直に喋ったことで肩の力が抜けたのか、素直に話を進めてくれた。
「確かに、そう言う手段で戸籍を取る方法もある。ただ、君一人の協力に対して二人分、というのは少々天秤のバランスが悪いとは思わないかね? 」
「つまり、この二人も一緒に手伝えと? 」
「戦力としてどこまで期待できるかは解らないが、そのぐらいの持ち分を賭けてもらわないと釣り合いが取れないと思うのだが」
近藤さんは誠実ではあるんだろう。ただ、俺一人の仕事に対して二人分の戸籍は少々評価額が高すぎる、ということなのだろう。
「なら、試してみますか? 俺がどのぐらいなのか」
「まあまて。これはあくまで取引の前のやり取りに過ぎない。君が素直に前の会社を辞めてうちに就職してくれるのかもはっきりわからないし、鈴木君が見た浄化能力以外にも何か力を持ってそうだからね。その点を評価してからでも遅くはないのは確かだ。だが、君が望んでいる物は解った。つまり、フィリスさんと結婚してそのままこの国で生活を続けていきたい、そういうことなのだろう? 」
「そうです。その為にはフィリスの戸籍が必要になります。日本人である必要はないので、外国籍からでも構いません。それに急いでいる訳でもありません。何もしなくても三人で過ごしていくことに違いはありませんし、その間協力しろというなら協力しましょう。こちらの願い、通りますかね? 」
「フィリスさん、あなたの浄化能力は進藤さんと比べてどのぐらいの威力を有する物なのですか? 」
話をそらすようにフィリスに質問をし始めた。どうやらこちらのほうは話として一度留め置いて、フィリスのほうに話を聞きたいらしい。
「正確に測ったことはありませんが、浄化の魔法はトモアキ様よりも得意です。そちらの面でお役に立つことはできるとは思いますが、私が対応しなければいけない事案というと、山が動くぐらいの規模の災害級の魔物、ということになりますがこちらではそんなに頻繁に起こるような物なのですか? 」
「なるほど、進藤さん以上の使い手、ということですか。それは更にこちらで抱え込んでしまいたい人材ではありますが……どうです、進藤さんと結婚できるようになるオプション付きでこちらの部署で仕事をしていただくというのはいかがでしょうか」
「それはとても魅力的ですね! もう家の中に籠ってなくても外の世界で好き放題に生きてていいってことですか! 」
「それ、ポテチも買いに行けるの? だったら私も所属するわ! 」
フィリスもカルミナも見事に人参につられた馬になってしまった。
「カルミナさんは何が使えるのですか? 」
「私は水と氷と闇が得意属性ね! 出したり入れたりしほうだいに出来るわよ! 」
「出したり入れたり……ということは魔の物が現れた場合はどういうやり方で浄化するんですか? 」
「闇を吸って私と同化させれば消えることになるわよね。それぐらい何とでもなるわ、一番得意だし」
「なるほど、闇を吸い取るという方向性の浄化か……考えたことなかったな。で、進藤さん、お二人は乗り気ですがあなたはどうしますか? 」
ここまで釣っておいて俺に魚釣れたけど要る? と聞くのも酷な話ではあるが、二人が問題ないと考えるならいいだろう。
「二人の行動をこっちの社会で監視する役目も必要でしょうね。私も所属することにしましょう。ただ、今の会社を辞めるとなればそれなりの苦労がかかることになるとは思うんですが、そのへんはどうしましょうかね」
「お任せください。内事第六課用の専用退職代行サービスがありますのでそこに電話一本入れれば確実です」
退職代行サービス……自分が使うことになるとは思わなかったな。
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