23:異変 その2
マツさんのゲル
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ダンジョンで潮干狩りを
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こちらもよろしくお願いします。
はっきりと無理だと告げられたことに対して、フィリスは少し悲しげだ。カルミナはそんなことより今日のポテチと言い出しそうな具合だ。多分話していて面白みのある内容だとは思わなかったのだろう。
「そうですか……」
「申し訳ありません、横紙破りのために弁護士がいるわけではありませんので。法にのっとった対処方法ならいくらでもご用意できますし、資金のあてがあるならばその限りは協力して差し上げられるのですが、私のほうではこれが手一杯かと思います」
「わかりました。相談に乗っていただきありがとうございました」
「私はクライアントのプライベートには一切関与しない主義なので、今回の相談内容についても漏らしませんし、どのような立場の方であれ、お客様はお客様です。仮にですが、不法滞在の恐れがあったとしてもそれを外部に漏らすことは致しませんので、それだけはお約束いたします」
最後に轟所長が心強いことを言ってくれた。今日の話はなかったことになったが話し合いの内容もなかったことになった。つまりここには不法滞在者も無国籍民も無戸籍民も居ない、ということになるのだろう。
相談料を支払って法律事務所から出る。ここまではある意味わかっていたことだ。まともなやり方では国籍も戸籍も、婚姻もすることはできないし、フィリスも外に立って堂々と街中を歩き回れるというわけではない、というのがきちんと確認でき、戸籍を手に入れる方法も真っ当な手段では獲得できないということをフィリスとカルミナにも見せる。それが目的だった。
近場の喫茶店に入り込んで、それぞれ飲み物を注文。ポテチはないがフライドポテトはあったのでカルミナにそれを食べさせて機嫌を取っておく。
「さて、これからどうするかな……」
「そうですね。表立って活動できないということになると私は軟禁状態と何ら変わりありませんし、トモアキ様がちゃんとお家に帰ってこれるように家の仕事を覚えて頑張っていくのが最初の仕事でしょうね」
「そっちのほうは徐々に覚えていってくれてるからいいとして、問題は普段どうしてるかだろうな」
「そんなにくよくよしてると美味しいものも美味しくなくなるわよ」
カルミナに励まされるとは思わなかった。おそらく無神経な一言ではなくただ何となく出てきた一言だとは思われるが、素直に励ましを受け取っておこう。
「しかし、ここまで厳しい条件だとは思わなかったな。それだけ厳しいからこそ日本人であることが一つのステータス化しているわけか。そう考えると他の国で国籍を取らせてその後で入国し直すって手も使おうと思えば使えるのか……」
「それはそれでマズイとは思うのですが……本気で国籍を取ろうとするならそういう裏工作も必要になってくるわけですか……魔界に入り込んだ時を思い出しますね」
魔界に入り込むために魔族の恰好をして入り込んだときのことを思い出した。黒塗りして角を張り付けた帽子をかぶっただけのずさんな変装で素通しされるとは思ってなくて、逆にそんな恰好で来る奴がまともな奴なわけあるか、これは誘い込むための罠だ、とにわかに疑ったっけな。
「あの時は本当に疑われてないのかチェックするので大変だったなあ」
「懐かしいことを思い出してますね。確かにあの時は疑心暗鬼に陥って大変でした」
「あれはね……あまりに平和ボケしすぎてたと今更ながら部下の教育をしっかりしなきゃと思ったもんよ」
カルミナのほうもまさか素通しするとは思ってなかったらしい。今になって知った魔界の事情だったな。
「そこまで向こうも平和ボケしてると知っていたらあんな恥ずかしい格好はしなくて済んだんだよな。正面からぶちのめせばよかった」
「そのほうが私も楽だったかもしれないわね。でもまあ、結果的に負けちゃったし? 魔王だからってふんぞり返っていた自分を恥じるわ」
カルミナがポテトを一本ずつ齧っているのをみて、一本俺も貰おうとしたらキシャーと威嚇された。全部自分で食べるらしい。
「なんか思い出したら腹立って来たわ。今から帰って境界守ってた部隊全員処刑しに戻りたいぐらいよ」
「それで済むならいいんだけどなあ。まあ、こっちに来てしまった以上仕方がない。この先も俺が面倒見るからできるだけ大人しくしててくれ」
「善処するわ! 」
堂々とない胸を張って宣言するカルミナ。なんかもう、一周回って頼もしくなってきた気がするな。
ふと、空気が変わる。周辺に魔の気配が漂い始めた。もちろん、カルミナから出たものではない。
「勇者、これって」
「ああ、おそらく先日部長を襲った奴の仲間かもしれんな」
「どうしますかトモアキ様、対処なさいますか? 」
「警察にはこういう対処の専門の部隊があるらしいからそこに任せておけば良いんじゃないかな……とは思うが、俺も気になるんだよなあ」
こっちの世界にもいわゆる魔族みたいなものが実は存在していたのかとか、魔の瘴気みたいなものとか、俺が異世界へ行くまではお話の中身の存在だったそういう類のものが実在していた、となれば感じ取れるようになってしまった自分にとっても身近なそんざいになりつつある。
かといって、見かけたから善意で対処しておきました、なんてことになったら鈴木さん達の仕事を奪う結果にもなるだろうし……どうしたもんかな。
しばらくすると、店に入っている人たちが一斉に店の中を向きだした。俺達にも何らかの強制力が働いていることを感じる。
「前に似た感覚を感じたことがあるな。人払いの結界みたいなもんかな? 」
「おそらくは。私たちには効いていないようですが」
「ということは、こっちの勇者たちのお仕事が見れるわけね! 」
「そうだな、こっちの世界の退魔部隊の強さを見ておくのも悪くないかもしれないな」
三人そろって窓の外を見ると、角田部長のように操られているような感覚のする人間を、拳銃らしきものを持った数人で囲い始めた。
「流石に後始末に時間がかかったり現場に証拠を残すようなことはやらないだろうから、あれは威嚇用か、それとも退魔専用の銃弾を用意しているのだろうか」
「銃ですか、この国では警察しか持ってないという火薬というものを使った武器、とだけ覚えています」
「それだけ覚えていれば充分だよ。それより、捕り物が始まるみたいだからよく見ておこう」
窓の外に視線を集中すると、取り囲んだ三人が発砲するようなしぐさを見せた。音はしないので消音弾みたいなものを使っているのだろう。もしかしたら退魔専用の銃弾みたいなものが用意されているのかもしれない。
撃たれた対象は体をよじって倒れ込もうとするものの、そのまま立ち上がり、周りを見て、そしてこちらを見て、俺と目が合う。
ものすごい勢いでジャンプした憑依された人間らしき人がこちらに近づき、そしてガラスをたたき割って俺に近寄ろうとしたので、フィリスがとっさに浄化。憑依されたらしき人はその場に倒れた。
「あー、これ面倒くさいことになる奴だな。逃げても追いかけられるがどうする? 」
「素直に聞き取りに応じるしかなさそうですね。トモアキ様があんまり凝視するから憑依し直せる対象が居ると思われたのでは? 」
「かもしれないな。逃げ場がこっちにあったと思いきやこっちのほうがはるかに強くて負けちゃったってテンプレだな」
人が一階から上がってきた。さっき取り囲んでいた人たちが中に侵入してきて、倒れている憑依された人の状態を確認して、無線で無力化を報告している。二人が憑依された人をソファーに寝かせて浄化のほどを確認。浄化されていることを確認すると、こちらに目が向き始めた。
人払いの結界が消えて、突然割れたガラスにびっくりする人が現れる。人払いの結界の発動中は何かが起きてもそれすらも認知できない仕組みになってるわけか。むこうの世界の人払いの結界よりも数段優秀であると言えるのだろう。
「さて、話を聞かせてもらっても? 」
残った一人がこちらに向けて話しかけてきた。さて、正直にどこまで話したもんかな。
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