20:裏組織
マツさんのゲル
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ダンジョンで潮干狩りを
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こちらもよろしくお願いします。
救急車が角田部長を運んでいく。身分証ぐらいは持っているだろうし、後は救急にお任せしてもいいだろう。救急車を見送ると、鈴木さんと二人きりになった。
「こんな所で立ち話もなんですから、何処か静かな所か、静かな店か、移動しませんか」
「そうね、それがよさそう。私たちが不審人物と思われて通報されても困るしね」
ちょっとこじんまりとした喫茶店の個室スペースに来ると、アイスコーヒーを二人分頼んで注文が届いたところで話の続きを始める。
「一応調べればわかることだから言うけど、公安部に内事六課なんてものは表向きはないわ」
「つまり、裏向きの身分がそれで、実際には別の肩書が用意されてるってことでいいのか? 」
「そうなるわね。ただ、あからさまに怪しい人物に接触する際は明かしても構わない、という形になってるのよ」
「俺は要注意人物にもうピックアップされてしまってるってわけか。短い二度目の人生だったな」
「あなたまだ若いでしょ? 私と同じぐらいじゃないかしら」
ミルクを注いでミルクコーヒーにしてから飲み始める鈴木さん。ブラックは苦手らしい。俺はいろんな意味で得意になってしまったのでそのまま飲み始める。この苦味が良いんだよな。人生も苦いが。
「一つ質問して良いかな? 」
「何かしら。プライベート以外なら大体答えてもいいわよ」
コーヒーから口を離し、腕組みをしながらこちらに真っ直ぐに向きなおす。胸は……無いな。
「その部署に所属している人間は俺みたいな特殊能力みたいなものを持っている、という認識で良いのかな」
「そうね。全員が、というわけではないけれど、私みたいな末端の職員はみんな持ってると考えていいわよ」
「あんたの特殊能力に興味がある、といったら? 」
「私は炎を出せるぐらいかしら。そんなに射程距離がある訳じゃないし、威力もそう高いわけじゃない。だから末端も末端ってことになるわね」
そう言うとストローの入っていた袋を手の中に握りしめて燃やすと、燃えカスだけを目の前でパラパラと散らして見せてくれた。
「熱そう」
「自分の炎で火傷してたら世話ないわ。そのぐらいは大丈夫になってるわよ」
俺も自分の能力を一部だけ見せるために周りを見渡して、こっちを誰も見てないことを確認する。
「俺の能力はこれだ。この光に当てれば大概の魔物の類は消滅させることができる。今は出力を抑えてるがもう少し強くすることもできるぞ」
「なるほど、それでさっきの人を浄化したわけね」
「そういうことになる。何故こんな力があるかは……言わなきゃダメかな」
正直こと細かく説明するのは更に面倒くさいことになる。しかし、同時にこの人を巻き込んで更にややこしいことにして、うやむやのまま権限を……この人の伝手を頼ったなら戸籍の捏造ぐらいはできるようになるんだろうか。
「そこは良いわ。今あなたが使えるかどうかのほうが大事だから。そこで、なんだけど。ウチで働いてみる気はない? 給料の支払いはいいわよ? 内資系100%の公務員だし、給料もボーナスも結構いいわよ。ただし色々とブラックではあるけど」
「うーん、今と変わりないのかあ。ちなみにどのくらい? 」
「そうね……最初はこのぐらいかしら」
スマホの電卓で計算して、ざっくりと金額を出してくれている。それなりに魅力的な金額ではあったが、今の生活を捨ててまで仕事を変えたいか……と言われると難しいラインだな。
「うーん、ちょっと微妙。今の生活に比べて自由度も下がりそうだし、その点を保証されるならこのぐらいは欲しいかな」
「それは上司に直談判することね。で、どうするの? 」
「鈴木さんとは個人的な交流を深めつつも非常時には臨機応変な判断で対応していく、というところでいかがだろう? 」
「まあ、落としどころはその辺でしょうね。でもこちらとしては戦力の拡充は大歓迎だから名刺の番号にかけてくれればいつでも対応するわよ。もちろん非常時でもね」
とりあえず現状お友達から始めましょう、というところで今回はお話をお断りさせていただくことになった。支払いは一応交際費で落とせるらしいので、向こうに奢ってもらう形になった。これを機にしてコーヒー奢ったんだからその分の仕事をしてくれ、と頼まれた時にはお付き合いそのものを真剣に考えさせてもらうことにしよう。
◇◆◇◆◇◆◇
side:鈴木恵
進藤と名乗る男と別れた後、部署へ帰り公安部のデータベースに新しくデータを記入する。
どう考えても低級ではない、中級から上級であろう瘴気の結晶体であるあの魔物を浄化一発で昇天させた彼は確実に職場の戦力になる。上司なら、何とかして今の会社から引き抜いて、こちらの戦力にするべく色々と算段をし始めるだろう。その為のデータ集めをしておかなければならない。
山千商事……あった、それなりのブラック企業として名が知られているらしい。しかし、ノーマークの会社らしく一切その手の情報に関する登録がなかった。突然人が現れるはずもないので誰かが登録を忘れたか、もしくは彼がよほどの隠蔽手段を用いていたか、突然能力に目覚めたのか。
いずれにせよ、使わない手はない。何か事件が起こる時に彼がまたそばに居た場合、彼に浄化を頼むことによって自然とこちら側に引きずり込んでいく作戦を取ろう。
多分、今後もこの手の話は増えてくるはず。そのたびに彼が近くにいる可能性は低いが、彼の近くで意図的に引き起こしてなし崩し的に引き込んでいく手段でスカウトしよう。
それとも、彼の弱みがあればそこに付け込んでこちら側に引き込むという手もある。久しぶりに楽しみ甲斐のある仕事が出来たわ。
◇◆◇◆◇◆◇
帰り道にポテチを買って、事件と喫茶店での話し合いがあった分いつもより遅い帰宅になった。流石に夕飯冷めてるだろうな。
「おかえりなさいトモアキ様、本日もお疲れ様でした」
「ポテチ! 」
家に帰ってきて出迎えてくれる人が居る、というのは何とも心地いいものだな。後、ポテチって叫び声のする珍獣については置いておこう。
「今日は色々あってさ……とにかく疲れたよ。上司がいきなり魔物みたいなものに取りつかれててさ……」
「まあ、それは大変でしたね。無事に浄化できたのですか? 」
フィリスが俺のジャケットを受け取りながら心配そうにファブっている。なんだか段々所帯じみてきたフィリスだが、これはこれで悪くない。俺もカルミナがポテチ以外の言葉をしゃべる生き物だったらきっともうちょっと楽しい新婚ライフを送れたのかもしれない。
「なんか私の悪口を考えている気がするわ! でも美味しいわね今日の味! 」
「今日のは時期限定品だから次に食べる機会はないかもしれないぞ。ちゃんと味わって食べろよ」
「わかったわ! 」
そういいながら二枚同時に食べ始めた。これはもうダメかもわからんね。
「部長の浄化は無事に終わって救急車を呼んだから良いんだけどさ。どうやらこっちの世界にも俺達みたいな異世界帰りや、超常の物っていうのかな、一般人にはみえない魔物、みたいなものがいるらしいんだよ」
「まあ、そうなのですね。親近感が少しだけ湧きます」
「それで、もしかしたら目を付けられちゃったかもしれない。フィリスも出かけたりする際は注意してくれ。特にフィリスは外国人の見た目をして日本語が堪能だが、国籍も戸籍もないから身分証を持っていない。うっかり警察に質問されたら檻の中に入ることになってしまうかもしれない。そうなると、その名刺の鈴木さんって人に借りを作ることになってしまうからな。できるだけそういうのは避けたいんだ、フィリスのためにも」
そもそも連絡を取る手段もないのでフィリスが捕まった時点でアウトになってしまう。その前になんとかして国籍か戸籍か、どちらかを取得できるように努力しなければならないな。これはちょっと面倒くさいことになるかもしれない。
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。




