18:異変
マツさんのゲル
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ダンジョンで潮干狩りを
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こちらもよろしくお願いします。
昨日はやばかった。あのまま眠ろうとしてまたフィリスのリンスの香りが鼻の先を漂って、そのまま襲ってしまいそうだった。我慢した俺、グッジョブ!
おかげで少々寝不足だが、眠れたので問題はない。眠らずに五日間過ごした経験もあるぐらいなのだから一日ちょっと睡眠時間が短かったぐらいでは俺の鋼鉄の肉体は揺らがない。理性はかなり危なかったけどな。
起き抜けの「トモアキ様、おはようございます」というフィリスのいつもの挨拶と笑顔で元気はチャージした。さあ、今日も仕事に出かけよう。昼休みには法務局に連絡だな。でもいきなり法務局に連絡しても大丈夫なのかな。いきなり家に押し入ってきて彼女を連れ去ったりはしないだろうか。
そういう意味でも慎重に物事は進めたほうが良いかもしれない。先に弁護士に相談したほうがいいだろうか。休日にやってる無料の法テラスにでも予約を取って、そっちから攻めるほうが確実か。よし、そうするか。
◇◆◇◆◇◆◇
角田部長は今日は大人しかった。何かあったのだろうかと周りまで心配するほど静かだった。かといって眠っている訳でもなく、仕事の指示はちゃんと飛ばしていたがいつもの怒気と覇気がなかった。ご家庭で何かあったんだろうか。
昼休みにパソコンの前で最寄りの法テラスが開催されている場所を探してみる。近い時間で近い場所で……と検索すると、今週末に無料相談会が開かれていることを知ることが出来た。が、相談内容が離婚や人権問題ばかりで国籍や婚姻に関する内容は含まれていなかった。これはダメだな。やはり仕事を休んででも確実に相談できる弁護士のほうを探すのが先だろう。
パソコンで調べものをしていると、藤原さんが画面を覗いてきた。
「なに、進藤さん誰か訴える準備でもしてるの? 角田部長とか」
いきなり物騒なことを言って来た。
「そういうのじゃないんですよ。友人がちょっと困ってて相談に乗ってるので、より相談窓口として適切な場所を探しに回ってるところです」
「ふーん。あんまり友達多そうじゃないから大事な友人なんだね」
ほっとけ。友人は確かに多くないが居るっちゃ居るんだよ。ただしこっち方面には役に立たない奴ばっかだけどな。まあ、こっち方面に詳しい友人が居たとしても、そいつはそいつでどうなんだ? という疑問は湧く。異世界事情に詳しい友人ってなんだよ。
「まあ、会社に不満があってとかそういうのじゃないです。ある意味もっと深刻な話かもしれませんが」
「そうなの? まあ、それじゃあ私では役に立てそうにないね、悪いね」
そう言って休憩へ出かけていった。流石に会社の同僚に無国籍無戸籍の女性と結婚したいんですけどいい方法ないですかね? なんて相談して素直に回答が帰ってくるはずもない。藤原さんには藤原さんの仕事があるだろうし、人付き合いもあるだろう。
普通はそんなややこしい場面に遭遇することなんてないんだ。だからこの話は相談するべきところに相談するまではぐっとこらえて相談相手を探すことにしよう。
角田部長は昼休みを早めに切り上げてくると、自分の席に座って何やら悩みごとの真最中らしい。下手に口を挟むのも悪いし、俺と同じで何かややこしいことに巻き込まれているのかもしれない。触らぬ神に祟りなしとも言うし、仕事の話以外はしないようにしておこう。
午後からも角田部長は不調が続き、「進藤、資料整理は進んだか? 」ぐらいの確認が数回入っただけで、いつものように隣の部署まで聞こえるような大声を張り上げて怒鳴るようなことはしなかった。本当に何かあったのか劇場。
角田部長の体や心の調子を心配しつつ、静かな営業二課が今日は続いた。なんというか、普段の角田部長の怒号に慣れ過ぎていたせいで静かな部署に違った意味での緊張が走る。これはこれで仕事がやりにくいな。普段通りの仕事を続けていればいいんだろうけど、なんかこう、メリハリみたいなものがなくなってしまった気がする。
何度目かのやり直しを得て提出した際に勇気を持って聞いてみた。
「部長、何かあったんですか? 今日は妙に静かですけど」
「お前に心配されるようなことは……まあ、なにもない。俺は普段通りじゃないのか? 」
普段怒号を飛ばしてる自覚がなかったのか、それとも人が変わってしまったのか。角田部長のいつもの調子が聞けないとはこれはこれで不思議な感覚に陥る。まるで誰かと入れ替わったような……こっそりとアイテムボックスから破魔のネックレスを取り出してポケットに忍ばせ、確認をすると、破魔のネックレスがほのかに光りはじめた。
これは、角田部長は何かにとりつかれている可能性がある……というかこちらの世界にもこういう事象はあるのか。今の角田部長は角田部長ではない。何か別の人格に乗っ取られている、とみるのが俺の結論だ。
さて、このままほっといても良いんだが……しかし角田部長の元気がないと我々のほうが体調を崩しかねない。いつも通り怒鳴り込んで仕事を無理やらされる方が俺にとっては過ごしやすい環境なのかもしれない。
これがブラック企業への慣れという奴か……恐ろしいものだな。今の短い間だけ、ホワイト気分を楽しむことにしよう。
◇◆◇◆◇◆◇
定時になり、角田部長は帰るかと思いきやまだ仕事があるようで残って仕事をしている。これもまた珍しい。普段なら「じゃあ後はしっかりやれよ! ただしダラダラとサボりながら残業するようなら査定に響くと思えよ! 」と一喝して帰るところなのだろうが、そんな雰囲気も見せない。
恐る恐る聞くこともためらわれる中、静かに今日の分の仕事を終えて帰ろうとすると、角田部長に呼び止められた。
「進藤、この後付き合え」
角田部長から飯の誘いなんて珍しいこともあるもんだ。しかし、家ではフィリスが簡単ではあるが夕飯の支度を終えて待ってくれている。
しかし、今友人が来てて飯を作って待ってくれていると伝えたところで、じゃあ一報入れて飯なしでも良いように伝えろ、と言われると、伝える手段のない今では逆に怪しさが増す。ここは付き合うしかないだろうな。
「わかりました、お付き合いさせていただきます」
仕方ない、帰りは少し遅くなるがここは角田部長に付き合おう。何より、破魔のネックレスが光ったことと部長の豹変ぶりには確実に何かある。そのまま二人で仕事を終えると、飲み屋街がある方向とは別の場所へ向かい始めた。
段々人気のないほうへと歩いていく角田部長。やはり何かあるな。普段の角田部長ならたとえまかり間違って飲みに行くことがあったとしても、いくら騒いでも問題ないぐらい煩雑とした店に入って散々ビールを自分が飲んだあげく割り勘、というけち臭い行動をとっていたと記憶している。
しばらく進んで監視カメラも何もない裏路地に入ったところで角田部長がこっちを向く。
「進藤。悪いが俺の餌になってもらう」
角田部長から黒いオーラがたちのぼる。明らかにこの世のものではないその普段の角田部長からしたら違和感しかないその立ち姿に、こっちでも厄介ごとに巻き込まれるのか……と思いつつ、覚悟をする時間となった。
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