15:すき焼きパーティー
ダンジョンで潮干狩りを
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マツさんのゲル
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ダンジョンで潮干狩りを
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狭いキッチンで鍋をセット。フィリスがスウェットの袖をまくりながら手伝ってくれる。
「トモアキ様、すき焼きってみんなで囲むのですね、宴みたいですね!! 」
そう目を輝かせながら俺に感動を訴えてくる。カルミナはソファの背もたれに飛び乗ったままミニ羽根をパタパタ。
「勇者、肉、もっとドーンと入れて! ポテチも添えて! 」
いや、ポテチは別で食えよ魔王の分魂。俺が鉄鍋にサラダ油を薄く引き、牛肉をジュウッと焼く。割り下を注ぐと、甘辛い匂いが1LDKに広がり、今日までの一週間の疲れがほぐれていくような感覚がする。
「この香り、幸せですね! トモアキ様、これも頑張ってくれた馬さんたちのおかげですね! 」
フィリスが深呼吸して、すき焼きの初めの香りを目いっぱいに胸に詰め込み、食べる前から幸せ感を感じている。
「ふふ、馬の調子を整えたあたしのおかげでもあるよね! 勇者、肉もっと! 」
カルミナはゴスロリの裾を揺らして催促。たった今十袋ポテチ食った後だろ、よく入るな。牛肉を追加し、白菜、豆腐、白滝、ネギを並べる。続けて、しいたけとえのきをドサッと投入。
「ほら、しいたけ、魔王の帽子みたい! かじったら魔力アップ! 」
カルミナがしいたけを箸で持ち上げてなんだか贅沢そうなものだと思って見つめている。
「食えよ、栄養あるぞ。魔力じゃなくてビタミンだ」
そう突っ込んでおく。
「しいたけというのですね。こんなに肉厚で、これも森の恵みですね」
フィリスはただひたすらに感動している。これからまだまだ具材を投入していくからな。さっきまで見ていたパドックのように、鍋に具材が増えていくさまを順番に見せつけていく。
次に春菊を入れる。緑が鍋に映えて、なんか高級感アップ。
「この葉っぱ、聖なる草みたいです、 癒しの香りがします! 」
フィリスが目をキラキラさせる。キラキラしっぱなしだな。
「フィリス、ただの野菜だ。スーパーで150円」
そう訂正すると、カルミナが絡んでくる。
「勇者、地味。聖女のロマン壊すんじゃないわよ」
ロマンって。人参の薄切りも追加し、彩りがグッと良くなる。
「人参、ポテチの色に似てる! でも、味は肉がいい! あと、ちゃんと切れてない、もっと美しく彩るべき」
カルミナが人参を箸で突きながら文句を垂れる。社畜に飾り切りを要求するなよ、そんな腕磨いてる暇があったら書類整理させられてるわ。
鍋がグツグツ煮える中、卵を割って各自の小鉢に。
「トモアキ様、卵、こうやって割るんですね! 」
フィリスが俺のマネして慎重にカパッ。黄身がプルンと揺れて、なんか微笑ましい。
「卵、魔王の爆弾! ボム! 」
カルミナは黄身を箸で突き破りかき混ぜ始めている。爆弾じゃねえ、食うんだよ、食う! 牛肉を卵に絡めて一口。う、うまい! タレの甘辛さと卵のまろやかさが、今日の爆勝ちの馬券のありがたさとともに日々の憂さ晴らしをしてくれる。
「これが高級なお肉ですか! 牛さんの命の輝き、美味しいです! 」
フィリスが頬を膨らませて満面の笑顔で頬張っている。
「ポテチよりうまっ! 肉、もっと! しいたけも! 」
カルミナがガツガツと食べる。魔王の分魂、食欲だけは魔王級だな。
白滝がタレを絡めてツルツル、豆腐がふわっと崩れる食感、春菊のほろ苦さがアクセント。しいたけの旨味とえのきのシャキシャキ感が、鍋をリッチにしてくれている。人参の甘みが地味に効いてて、俺の選択、間違ってなかったぜ。
「トモアキ様、このお鍋、みんなの心を一つにしてくれます! 馬さんたちにも感謝! 」
フィリスが聖女らしいこと言う。
「ふん、馬よりあたしの聞き取った馬の声がメインよ! 勇者、次も競馬で大儲けね! 」
カルミナがミニ羽根をパタパタ。本当に財布が厳しくなった時にはまた頼むかもしれないがしばらくは良いかな。
締めにうどんを投入。タレが染みたうどんが、ズルズルと腹に収まる。カルミナが「この麺、ポテチより長持ち! 」とガツガツ食い、フィリスが「うどんというのですね、味もしっかり染み込んで素敵です! 」と目を輝かせる。
勝利のすき焼き、最高だ。フィリスの笑顔、カルミナの騒がしさ、狭い1LDKが、まるで異世界のパーティー会場みたいだ。この際ズルして勝ったことは記憶のかなたに忘れ去ることにしよう。今はただこの美味しさを満足に味わうことに集中するのが大事だ。社畜人生の中華やかならずとも一人ですき焼きを食べることはなかったのだから今この二人がいてくれるのはちょっとだけ幸せかもしれない。
それぞれが満腹になったところで食事の後片付け。フィリスも手伝ってくれているのでかなり楽に終わった。魔王様はというと、満腹のはずなのにご飯の後のポテチをむさぼっている。まだ入るのかあの腹、一体どうなっているのか。
「今日は本当に楽しかったです。馬以外にも動物がたくさんいる所はあるんでしょうか? 」
「一応動物園という、いろんな動物が見られる場所はあるぞ。次の暇な時間が出来たらそこへ行ってみるか」
「はい、楽しみです! 」
満面の笑顔の聖女に癒されるが、この癒しも後一日と数時間で終わり。また地獄の社畜生活が始まるかと思うとちょっとだけ嫌気がさす。だが、あの上司に鍛えられていると感じ始めている最近では、この会社のブラックっぷりもそうそうブラックではないのではないか? と思い始めた。
「明日はまたアイテムボックスの整理だ。一日かかるだろうけど、念入りにやっていこうな。もうカルミナみたいなのが出てこないようにしっかりチェックしないと」
「もしかしたら私の一部がアイテムボックスにくっついてこっちに来てるかもしれないわね、しっかりやりなさいよ! 」
カルミナは本日十一袋目のポテチをまだ食べている。こいつの胃袋はどうなっているんだろう。まあ、今日はこいつのおかげで財布も曲がらなくなってくれたんだ。今月給料がなくても問題ないぐらいに金は稼げた。文句も言わず、ジト目でカルミナを見つめつつ片づけをするか。
フィリスが隣で洗い物を手伝ってくれたおかげで片付けも早く終わり、フィリスはすき焼きの脂とポテチの油で多少テカり始めた机を綺麗に拭いてくれている。そのぐらいは洗浄魔法を使ってくれてもいいんだが……まあ、魔法に頼らない生活に慣れ始めたと思えばいいことだろう。
空中にふよふよ浮きながらポテチをかじっているカルミナに一応注意をしておく。
「その辺で食べるのは構わないが、床に食べかすをこぼさないようにな。もったいないだろ」
「それもそうね。ちゃんと椅子に座って大事に食べることにするわ」
ポテチが勝手に減っていく、と解釈したのか素直に椅子に座ってポテチを食べ続けるカルミナ。そんなにポテチばっかり食ってて飽きないのだろうか。もしかしたらこっちへ来て初めて食べたポテチを親だと思って刷り込みされているのか?
風呂を沸かすと、いつも通りの順番で風呂に入る。
「風呂出たらもうポテチはやめとけよ、虫歯になる」
「魔王は虫歯には屈しないわ! でもそうね、明日昼間の分として取っておくのも悪くないわね。この袋までにしておくわ! 」
素直に言うことを聞いたカルミナに苦笑いしつつ、今日一日を無事に終わることが出来た。しかし、もう競馬場にはしばらく行けないだろうな。あんな勝ち方毎回してたらさすがに怪しまれるだろうし、フィリスも馬以外に色々とみてみたいだろうし。今度は動物園にでも行くか。余計なものが一つついてくるが、デートと思えば……
そういえば今日は競馬場デートだったわけか。まあ、向こうの世界でもフィリスと二人だけで何かをやっている、ということは往々にしてあった。今更気取る必要もないか。
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