12:角田部長の無茶ぶり
ダンジョンで潮干狩りを
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マツさんのゲル
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昨日もブラック、今日もブラック、多分明日もブラックだろう。もちろんコーヒーの話ではない。仕事内容だ。
営業二課に所属しているものの、営業でメインに外回りしているのは一課に所属する他の同僚であり、営業用の資料づくりに苦心するのが二課の主な仕事だ。自分が仮にも営業部であることに段々自信がなくなってきたが給料は良いのでそのまま営業でも良いような気がしてきた。
なにより、上司の無茶ぶりが段々無茶じゃなくなってきたと感じ取るようになった。むしろあっちの世界のほうがよほど無茶ぶりだったことを思い返すとこっちの仕事は楽なもんだ。なんせ、召喚されていきなり世界救えだったからな。
クソ重クエストの受注から始まった向こうの世界での出来事だが、人との出会いもあり、フィリスや他の仲間との信頼もあり、厳しい戦闘の中でもなかなか楽しかったんじゃないかとも思えてきた。帰ってきて一週間半しかまだ経っていないがすでに懐かしさ感じる所だ。
「進藤、進捗はどうだ! 」
角田部長からの進捗未だですかの怒号が飛び交う。すぐさま出来上がったばかりの資料データを渡してチェックをしてもらう。
「うむ……うむ……このグラフは色指定し直し。ここは客先に特に注目してもらいたいところだからもっと鮮やかな色で、印刷した時に綺麗に写るようにな! 」
「はい、わかりました」
今回は無茶ぶりではなく重箱の隅つつきだったが、言われてみるとその通りなので修正して再チェック。チェックは無事に通り、角田部長案件は今のところおしまい。他の同僚向けの資料もまとめておいたほうが良いだろう。
同僚が帰ってきて、俺に資料を渡してくる。
「進藤さん、ここの部分の資料もっとある? 客先から良い反応をもらってね。似たような事例がある場合それをサンプルとして出してみたいんだ」
「それでしたらここにある程度まとめておきました。もっと必要なら探しますので言ってください」
「お、おう……なんか最近進藤さん、やる気があるね」
同僚にちょっと引いた目線で見られているような気がする。俺としてはもっとブラックでもまだまだいけるような気がしてきた。終業時間を大幅にオーバーしなければいい、という具合でやるならこのぐらいの仕事はまだまだやれる。うん、おれはまだまだやれるぞ。
◇◆◇◆◇◆◇
昼を跨ぎ、飯を食った後で仕事が一段落落ち着いた。すると角田アイの透視力によって俺の仕事が少し落ち着いているのを見逃さなかったのだろう、早速呼び出しを喰らった。
「進藤、余裕ありそうだな! こっちの仕事も頼む! 」
また部長から仕事が増やされる。時間分きっちり仕事をさせようという魂胆だな。でも、負けはしないぞ。七十二時間以内にダンジョンの暴走を止めないと街が全滅するという中で、ダンジョンまで片道四十八時間ぶっ続けで走り続けてそのまま二徹のテンションでモンスター掃除を乗り切った時に比べればなんということはない。
あの時は終わった後モンスターのいなくなったダンジョンの中で丸一日全員で寝こけたのも今となってはいい思い出だな。あの後、終わったらすぐに報告に来いと無茶な愚痴を言われてうんざりしたっけな。あれに比べればブラック企業なんて大したことじゃない。ササっと資料を整理して同僚に渡す。
「ありがとう、手早くて助かるよ」
「部長、これで資料足りてますか! 」
「どれ……もっと欲しいな、他の分野から何か探して見つけてみろ」
どうやら資料が足りなかった様子。他の分野から……ということは何処か探せば過去に同じようなパターンの仕事を受注した経験があるってことか。早速探してみよう。
しばらく探して、五年前に受注を取った案件の中に似たような内容のプロジェクトがあったのを発見、プロジェクトの内容の取引先と細かい数字はぼかしておき、見積もりを出して角田部長に提出する。
「部長の言う通り、似たような案件がありました。今回の場合こうなると予想されます」
「どれどれ……うーん、まだ見積もりが甘いな。だが短い時間でよくやったな。じゃあ、詰めの作業は他に任せる。お前は次こっちの案件の見積もりを頼む」
どうやらOKが出たらしい。一発で通るのは珍しい。もしかしたら部長、このプロジェクトのことが頭の隅にあって、自分で調べるのが面倒くさいから俺にやらせた可能性が高いな。最初から自分でやってくれればいいのに。
仕方なく次に渡された案件を消化していく。今回のは……これは営業部全体会議向けの資料を集めろという話らしい。営業会議がそろそろだったことを思い出し、共有ファイルから現在の仕事の進捗を開発部に質問しながらまとめ上げていく。
開発は開発で、営業一課が取ってきた無茶な仕事に振り回されて大変だろうから、大まかな所だけで良いのでお願いしますとこちらから頭を下げるような形で進捗と残り工数、完成見込みなどを聞いては入力していく。
どうやら今のところ炎上しているプロジェクトがない様子なのでまだいいが、この後何処かで詰まったりした場合はその限りではないだろう。
営業としても開発部に一切の責任を押し付けることはできないことは理解しているつもりだ。無理な値段や無茶な工数でプロジェクトの案件説明をして、客先の機嫌を取るためだけに「ウチなら出来ます! やらせてください! 」と開発に一切の確認も取らずに仕事を取ってきては殴り合い寸前の状態でギスギスしているところを見たことがある。
そういうのは俺としても会社としてもあまりよろしくないことは解っているんだが、それが分かっていないのが営業一課にも存在する、というのが実情だ。本当にブラックなのは営業部ではなく開発部なのかもしれない。
それを考えたら俺の今の仕事はかなりグレーに近いブラックなんだろうな。営業一課が無茶な案件を取ってくるたびに二課である俺達が資料づくりと工数確認を開発部に依頼し、開発部と営業一課の板挟みになりつつもちゃんとした仕事が出来ますよ、という形でクライアントに説明させなければならない。
今回は内向きの書類だから良いものの、外部向けの資料では出せない部分も実数を出して説得材料としてしまえるので、わりと好循環で回せることが多い。角田部長の目は厳しいが、これも仕事と思ってやっておかなければならない。
「部長、資料ですが来週になるまで揃わない案件の見積もりとマスターアップ予定のものがあります。これらについては省いておいて構いませんか? 必要なら開発部に再度問い合わせて進捗確認ということになりますが」
「どの案件だ……これか。これは……これは今回は良いな。だがこっちは何とかなるだろう。マスターアップが済んだ段階で最終的にかかった工数と受注してきた金額、突き合わせていくらになったかの報告を入れてもらうことにしてくれ。それから……」
その後ちょこちょこと修正案を入れつつ、今日決まらない所については後日再度開発部に問い合わせを入れて修正するということになり、今日の仕事は終わった。今日もしっかり働いたな。ちゃんと帰りにポテチを買って帰らないとカルミナが怒りだすか拗ねだすか、もしくはアパート周りが大変なことになる可能性がある。
会社のすぐ近くのコンビニで俺用のおやつとポテチ、それからフィリスへの土産を買った。定時で帰れるなんて五年ぶり以上だな。俺も少しは仕事に体が慣れてきたのか、それともこれまでのブラックが体を順応させてくれたのかは解らないが、とにかくせっかく時間がゆっくり取れたんだしフィリスとカルミナが現代に馴染むように手伝うことにしよう。
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