119:送検前の最後の話題
しばらく雑談を続けている間に、無事に該当の書類が発見されたらしく、岬さんが取調室に入ってきて書類を置きに来た。
「こちらであってますか? それっぽいものがあと二つほどありましたけど」
「……これですね。難易度的に三種類に分けて保管してあるはずなので合計三つであっているはずです」
「難易度別とはどういう意味ですやろ? 異能力者の強さのレベルわけでもされてたんやろか? 」
久我警部が難易度という聞き慣れない言い方をしたことに反応する。
「説得して仲間に引き入れられそうな難易度で三段階に分割していたんです。これは一番難易度の高いものですね。すでに出来上がっているコミュニティで方向性も決まっていて、それに対してこっちと一緒に仲良く自助組織をやろうよ、という話を持っていきづらい所属のリストになっています。流石に詳細情報までは載せられていませんが、現時点でわかっている組織の人数や長の名前、主に異能力者が固まって住んでいる地方等に分けられているはずです」
「さっそく確認させてもらいましょうか。うちとしてはこないな情報が欲しおったんや。他にどんな組織があって、どんな活動しとるんか、構成員の数や拠点としとる場所、その情報があれば、ちいと他の部署にも顔だして話にいけるとこやさかいな」
久我警部はわざわざその情報を確認するために来たらしい。言ってくれればこっちで情報精査して渡すところを自分から乗り込んでくるとなると、京都のほうでも何やら騒ぎの予感がしてくるな。ちょうど活動が活発化してきた組織があったりなかったりするんだろう。
「ほな、私は失礼します。他の書類も出てきとるようですし、そっちを確認させてもらいます。書類は三つともまとめて閲覧させてもらいますさかい、よろしゅうおねがいします」
そういうと取調室を出ていった。どうやら本当にこの情報だけが目的だったらしい。後は自分たちでなんとかしろ、ということでもあるのだろうか。後竜円寺から確認が取れるような情報はほとんどなかったような気がするが……どうしようね。
「さて、竜円寺。さっきの情報を自分から提出して警察の捜査に協力した、ということにすればお前の罪も軽くすることはできるわけだが……どうするね、そういうことにしておくか? それとも真っ当に自分の罪を認めて、反省の意を示している、という方向性にするかね? 」
「警察に自主的に協力……という形にしたら、傍聴にきた他の異能力者集団から仲間を売った、と非難が殺到するところでしょう。警察が自力で情報を手に入れてまとめ上げた、という形のほうがまだ仕方ないと思われるところはあるでしょうね。それに我々が逮捕されたことで他の組織も、次は自分たちの番かもしれないと警戒させることで動きづらくなっているはずです。その機会は是非とも活かしておくべきでは? 」
「それはそうなんだが、更生の機会を与えるべき、ましてや異能力者だ、出来ればいいほうに使ってもらいたいというのが本音でな。もし起こした罪を完全になしに出来るなら、どこの都道府県の部署でもお前を職員としてレッドカーペットを敷いて勧誘する用意はできてるぐらいだと思うぞ。残念ながら今回はそう言う形にはならなかったわけなんだがな」
内村課長は心底残念そうな口ぶりで竜円寺を評価している様子だ。それは俺と同等の戦闘が出来て色んな方面に顔を利かせるだけの能力と仲間を集めた手腕をまとめて……ということだろう。確かに竜円寺がまともに仕事を、いやまともではないが、こっちの仕事を手伝ってくれるような話だったらもろ手を挙げて歓迎し、牛の小便みたいなエールを久しぶりに飲みながら大いに語り合いたいところだ。
「騒乱罪で……まあ、七年ぐらいとして、そこから前科が消えるまで十年。十七年後でという話なら是非ともお聞きしましょうかね」
「そうか、残念だよ」
竜円寺はいたって真っ当に罪を認めて法の審判に応じるつもりらしい。弁護士はおそらく情状酌量の余地がどの辺にあるのかを見定めて刑事弁護の手続きを進めることになるんだろうが、おそらく実刑は免れないだろうな、というのが内村課長の昨日段階での談だ。
今日も竜円寺の態度はそう変わらず、聴取に協力的ではあるものの自分自身の罪は罪としてきちんと償っていく、という方向性で行くらしい。ただ、他の構成員については個々人に任せる、といった形だが、実際に戦闘に参加していない構成員については出来るだけの情報を提供し、法的に危ない橋はわたらせなかったと弁護している。
後竜円寺にしてやれることは何があるだろうか。……アイテムボックスの中身の確認とかは本人が隠せばいくらでも隠せるものだし、アイテムボックスの中身を取り出す際、所持者を殺せばアイテムボックスの中身も出てくるタイプの術式なのか、死んだら所持者と共に消えてなくなるタイプなのかもはっきりしない以上、警察の中とは言え自主的に提出してもらうしかないだろう。
しかし人のことは言えないが危険物が大量に入っているのは目に見えている。ここはあえて突かずにその気になれば脱出は簡単にできるが竜円寺本人がそれを望んでいない、ということで大目に見ておくところだろう。
「さて、話すこともなくなってきたような気がしますが……まだ何かありますかね? 」
竜円寺のほうからまだなにかあるか? と質問が飛んできた。聞くべきことはほぼ聞き終わったので後は送検を待つ、という段階なので雑談ぐらいしかやることはない。
「正直なところ現状はこれで全部だな。他の逮捕した能力者からの情報と竜円寺が持っている情報、それを突き合せたくなった時に話を聞きに面会しに行くことはあるだろうが、お前さんから聞き取るべき話はもう全て聞き終えた、というのが本音だ」
「では、冷たい床に戻るとしますかね。後は拘置所での面会になるとは思いますがよろしくお願いします」
竜円寺の取り調べはここでいったん終了となった。ここから先は検察の仕事と、それから他の能力者からの情報による、というところだ。
「ところで内村課長、異能力者専用の監房があったりするんですかね? 最近はカルミナのおかげで異能力を封印してから一般人として裁くことが多くなってるはずなので色々と気になる所ではあるんですが」
内村課長に質問を投げておく。こんな時ぐらいしかこういう話を聞く機会もないだろうしな。
「一応、異能力者ということを隠して禁固の形で完全に動かさせない意味での刑罰はあったんだが、禁固刑も懲役刑もまとめて拘禁刑、という形になっただろ? 拘禁刑にしても労務作業が不必要な受刑者、という形で引き続き禁固状態での期間を過ごしてもらうという形になるはずだ。異能力が使えるなら手に職をつけさせる必要性もそこまで高くないしな」
なるほどな……拘禁刑に代わっていても禁固と同じ状態での受刑はさせられるわけか。少し賢くなれたな。竜円寺はともかくとして、他の異能力者も同じように拘禁刑を受ける可能性はあるだろうが、中でも同様に扱われる、と考えるほうがいいだろうな。
竜円寺の背中を見送って、いつもの部署に戻ると、そこでは楽しそうに書き写していた久我警部の姿があった。
「こんだけあれば他の都道府県にも注意喚起はできますし、ここは有り難く京都府警の戦果として報告させてもらいますで」
「……ご自由にどうぞ」
内村課長は諦めモードである。京都府警はぬかりない、ということを身をもって知ることになった。
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