118:聴取の横やり
翌日、京都から予想通りというかなんというか、久我警部がわざわざ朝一の新幹線で東京まできた。今回は奈良県警の山本さんは一緒ではないらしい。
また、昨夜のニュースで竜円寺竜彦が最近東京周辺で起こっていた強盗や暴力沙汰の主犯として騒乱罪を理由に逮捕されたことについて流されたため、ネットでも少し荒れた様子だったが、それをいち早く聞きつけ朝一でやってきた、ということらしい。
「お久しゅう存じます。精力的に活動されてて何よりですわあ」
京都弁で言う所のまたやらかしてくれたな、という意味らしい。やらかしたのは我々ではなく竜円寺なのでそっちに文句のほうはつけてほしいと思うところではある。
「昨日の聴取内容はこっちにまとめてありますので、時間までに目を通しておいてくれると助かります。それ以外で何か聞きだしたいこととかあるなら久我警部も参加されるということでよろしいか? 」
「そうですなあ。せっかく東京まで下ってきたことですし、手土産なしで帰るのも勿体ないところやし、なんぞ成果を持ち帰りたいところではありますなあ」
つまり、久我警部と竜円寺が出会って初めて出てくる話題もあるかもしれないわけか。それは是非聞いておきたいところだな。こっちの部署では思いつかない視点での捜査や聴取といったものがあれば参考にして身に付けておきたいところ。
久我警部が前回は監視役みたいなポジションでいたので彼がどれだけやれる人間なのかはまだ俺は知らない。これを機会に警視庁本庁も一目置く京都府警の第六課相当の部署について知っておく必要があるだろう。
久我警部は一通りの捜査資料と聴取履歴を目にした後、またいつもの扇子を取り出しては扇ぎ始めた。暖房効きすぎているのかな。それとも何か考える際の癖みたいなものなのだろうか。
「なるほど、わかりました。で、何時から事情聴取をはじめますんや? 」
しばらく書類に目を通すと、今日の事情聴取の時間を聞き始めた。何か聞きたい内容があるらしい。今日も取調室は狭くなりそうだ。
「何か聞きたいことでも出来ましたか」
「そうですなあ。今回は東京だけで事態が解決して一安心言うところですけど、もしかしたら他の組織や勢力なんかともやり取りをしとった可能性がありますからな。そこから他の地域の勢力との情報のやり取りがあるならそこから何か情報を得られるとええんですけど」
他の組織か。たしかにつながりがあるかどうかは気になる所だな。もしかしたら個人ではなく団体として接触を図っていたなら同時に蜂起して各地で混乱を起こす……ということもできたはずだ。
しばらくして竜円寺の尋問の時間となり、俺と内村課長、そして久我警部の三人が取調室に入り、取り調べを行うことになった。俺はいつも通り護衛役だ。念のためにフィリスとカルミナが隣の部屋で待機しているのは前回と同じ。久我警部が何を聞きだしに行くのかが気になるが、昨日の続きの話をしつつ久我警部が口を挟むタイミングを計っている、というところだろう。
話が一区切りしたところで久我警部がようやく横から口を出し始めた。
「京都府警の久我と言います。いくつか確認しておきたい……というより確認するべき話がいくつかあるので素直に答えてくれるとうれしいんですがね」
「答えられる範囲であれば。ただ、仲間を売ったりする話はできるだけしたくないところですがね」
竜円寺は久我警部に対してもリラックスして話し合いに努める。久我警部が外部の人間だからあまり気兼ねなく話しているのか、それともリラックスしているふりをして今全力で何を聞かれるのかを考えているのか。ともかく話は始まった。
「竜円寺さんが異能力者の人数を集める間に東京都以外の地方からの団体……組織といったほうがええんでしょうなあ。そういう組織からのアプローチは受けたことは? こっちでも異能力者で固まって行動をしているので同じ異能力者の団体として仲ようしませんか? のような話はありませんでしたか? 」
他の地域の異能力者の集団からの接近か。以前の聴取で少しそういうことはあったかと聞いた覚えがあるが、他の都道府県を名指しして具体的な内容までは聞いた覚えはなかったはず。
「たしかに、アプローチはありました。こっちとそっちでそれぞれ蜂起すれば日本中を混乱させることができるだろう……というような内容もありました。断りましたけどね」
「その各組織と場所、それぞれについては何処かにメモしてあったり記憶していたりは? 」
「記憶にある分は確かに述べられますが、全てを覚えているか、と言われるとNOですね。ただ、事務所の書類の中にはそれに関するメモが残されていたはずなのでそちらを参考にされればいいと思いますよ」
内村課長が部屋を一旦出て、職員に指示、押収品の書類の山から該当のメモを見つけ出していつでも久我警部にコピーを渡せるように指示する。その間、久我警部は竜円寺をじっと見つめている。何を考えているんだろう? 目線だけでどんな会話をしているのだろう。
久我警部は色々と内に溜めこんだものがあるだろうからな。異能力者の把握や瘴気の調伏や浄化、それから紡いできた歴史については京都以上のものはこの日本にはないと学んだ。警視庁よりも京都府警の公安課第六係のほうが発言権も強権も上だとされる理由がそこにあるわけだ。
「なるほど、では書類が出てくるのを待たせてもらう間に少し世間話でもしませんやろか」
「世間話、ですか。私がどんな勇者だったか、とかそんな話ですか? 」
「それでもええですよ。他所の世界の話はなんぼ聞かされても楽しみになりますからなあ。ただ、大体の世界ではこっちの世界に比べて科学や力学、電気学なんかについての知識が遅れたもんであることがほとんどですが、竜円寺はんもその手の世界に召喚されたってことでええんですやろか? 」
場を和ませるためか情報を整理する為か、久我警部が脱線し始めた。おそらくは情報収集を兼ねているんだろうが、今後も似たようなケースで自称勇者が出てきた場合にどうするか対応を考えていく、といったところなのだろう。
「そうでしたね。清潔さも文化レベルも統治の方法にしても、中世から近世のヨーロッパがモデルになっている……いわゆるナーロッパ世界って奴ですかね。そういう世界でした」
「やはり、魔法技術はこっちとは違ってそれだけ高いレベルに達してたんやろうか? 」
「そうですね。魔法技術のおかげで科学技術が中々発展していない、という風に考えることもできましたね」
ナーロッパはいろんな異世界に存在するらしい。何かの本で読んだが、宇宙というか世界は無限とも言える数だけあり、それを三千大千世界と呼ぶらしい。宗教用語だったかな? とにかくそれだけの数の世界があれば複数の世界で同じような似た異世界が存在していてもおかしくはないし、勇者として俺が召喚されなかった世界線の俺も同様に存在する、みたいな話だったはずだ。
ごく似たような世界でごく似たような魔法技術体系が存在していて、その中で勇者召喚プログラムというか召喚魔法が存在し、他の世界から人を呼びだして勇者としての技能を身につけさせて自分の世界の律をただすために行動させる、というのが常態化している世界もまた存在しているということなのだろう。
雑談は竜円寺のメモったはずというリストが発見されるまで続き、俺も久我警部も竜円寺も会話に参加しながらお互いの世界についての情報交換という名目での雑談が続けられることになった。
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