117:目的
内村課長が本当に聞きたかった、竜円寺の目的について聴取し始める。ハーフミラーの向こう側の緊張感が伝わってくるかのように圧がかかっている気がする。誰もが気にかけていた「そもそも竜円寺は何故異能力者を集めて、そして増やしていたのか」という点だ。
「私の目的は、全国民を異能力者にして、この国や人々をより良い方向に進めていければいい。そう考えて行動してきました。現実はそうはならなかった、というのが結果ですがね。全国民が何らかの異能力者になれば、その内異能力者同士の子供から新たに異能力に目覚める子供が出来てもおかしくない。その上で、異能力者だからと言って差別や区別がされることなく、皆が平等に能力を享受できる世界、それを作りたかった」
竜円寺が斜め上方向を見ながら語りだす。
「まず、異能力者を集めてどのような異能力者がいるかを把握して、その中から異能力として特に優秀な能力をみつけたら、その能力をコピーしそして他の人間に分け与える。異能力の借り入れと貸し出し、それが私の固有能力です。もっとも、それを十全に活かす前に捕まってしまったわけですが」
「ということは、ダーククロウの幹部であった松平健三郎に異能力を移すことができるようにしたのは竜円寺自身の仕業ってことか」
「その時は記憶を操作できる異能力者が居たもんですから、ついでに私の情報については封印を施させてもらいましたけどね。彼からは私の情報は漏れていなかったでしょう? 」
記憶を操作できる能力者と、空中を歩ける能力者がそれぞれいることは判明していたが、まさかの竜円寺自身が異能力のコピーができる人間だったのは意外だった。勇者っぽくはないな。
「今、勇者っぽくないとか考えませんでしたか? 」
「思った。もうちょっと統率したり扇動したり、そう言う能力に恵まれているのだと思っていた」
「それならなおのこと被害は大きくなっていたでしょうね。異能力と関係ない一般市民は簡単に引っ張られてしまいますから、もっと大事になっていたでしょう。惜しいことです、できれば扇動や統率の部類の異能力者に出会いたかったところですね」
そんな異能力持ちがいたら何処かのベンチャー会社の社長やそれこそ非合法組織のトップに君臨するだけの能力を持ち合わせていただろうな。そういう方向性で考えていくのも今後は必要かもしれないな。
「まず竜円寺、お前は勘違いをしていると思う」
「と、言いますと? 」
内村課長が竜円寺を諭し始める。
「仮にすべての国民が異能力者になったとしても、異能力の利便性や強弱によって、結果的に上下関係は出来てしまうものだ。いくら異能力者が増えたところでそれは同じだろうし、全ての国民に同じ能力を付与する場合でも、それぞれ違った形の異能力を付与するにしても同じことだ。だから結果的に現状とはあまり変わらない世界になるだけだ。そして、それに対応するように我々も動く。その場合異能力者専用組織ではなく、警察自体が異能力者の集団となって国家権力として機能することになるだろう。お前が考えている平等な社会というのはおそらく訪れない。単に全体の底上げをするにとどまるだろう。人間三人集まれば派閥が出来るというが、同じ能力、相乗効果のある能力、そして使い道が限定される能力など色々と考えてはいるだろうが、現状を好転させるって意味では異能力の有無は関係ないだろう。ただ、吉中さんだったか、彼女は同じような能力者と相談が出来て自分一人が変じゃない、という意識を持たせられた分、救われたのは確かだろうな」
内村課長が一方的にしゃべり続ける。竜円寺はただその言葉を聞き続けることになったが、吉中さんが救われた、という言葉には反応した。
「彼女のような人を探して、保護し、場合によっては他の異能力で書き換えたりすることで異能力者同士の交流を深めていって、皆が過ごしやすい環境を整えるのが目標でした。ですが、彼女は私のせいでへんな自信がついてしまったのも確かでしょうね」
「手錠をはめたら雑音が消えたと喜んでいたな。どうやらかなりの範囲の声を拾い集めることができる耳を持っていたらしいな。今は手錠を外して自宅謹慎という形で見張らせている。彼女の希望があり次第、能力を封印する予定だ」
「そうですか……それを彼女が望んでいるならば、そうすればいいと思います。私がどうのこうのいう権利はないですし、この状態では彼女に指示を出すこともままなりませんからね。吉中さんは罪に問われないとして、安西さんはどんな罪に問われるのでしょうか? 」
この状態でも二人の心配をしているということは、彼にとってはそれなりに特別な異能力を持った二人だった、ということなのだろう。
「……不起訴にするしかないな。物理的に金を増やしたこと自体を罰する法はないしな。地金から金貨を製造したでもその逆をやったわけでもない。異能力者にそんな能力があるという話自体が初耳だ。もし無限に金を生成し続けることができるなら、それを理由として彼女の身が危険だ。常に監視下に置くか、それとも能力を封じるかする必要があるだろう。流石にうちで抱え込むのは……無理ではないが、本人が希望しない限りは出来る限り自由にしてもらっておきたいというのが本音だ」
「そうですか、それなら……ちょっとほっとしますね」
竜円寺は仲間の中でも特にこの二人について思うところがあったらしい。不起訴になりそうだ、という話を聞くとほっとした表情を見せた。それからの竜円寺は素直に話すことを話し、構成員のリストやそれぞれの異能力について覚えている限りを供述し始めた。
◇◆◇◆◇◆◇
長時間にわたる聴取が終わり、竜円寺とは一旦お別れする。拘留期限目一杯まで罪を自白させ、証拠固めも終わる所まではきっちりこっちでやるらしい。竜円寺の能力の封印についてはまだはっきりしたことまではいかないが、例えばアイテムボックスの力を封印したところで中身が飛び出るのかどうかがハッキリわからない。
アイテムボックスの中身を全部出した後で試みるのか、それとも中身ごと封印されるのか。そこを協議する必要もあるし、アイテムボックスの中身は一応竜円寺の持ち物ではあるので危険物を除いて返すべきものは返す、として返却するのか。中身はどのぐらい入っているのか、それとももう空っぽなのか。
相手が元勇者ということで初めてのケースらしく、それぞれ検討するべき課題が多い。カルミナに吸収させられるだけの能力であるのかどうかも未知数ではあるし、勇者であったことの記憶までは改竄こそできないだろう。
記憶については覚えてない罪に問えるかどうかというところもかかってくるため、気軽に記憶ごと封印することは難しいとしてなしになった。大事なのは今回の罪状をはっきりさせることと、今後同じような事件を防ぐため、同じ人物が同じことをしないための措置であり、今回は初犯ということで比較的軽めの罪状になるのではないか、という予想はたてられていた。
ひとまず、竜円寺が起こした事件がらみの一通りは竜円寺本人の供述もあり、他の容疑者にも竜円寺が素直に話し始めたこともあり、供述を始めた。竜円寺の自白を機にして、事件の解明は一気に進んだと言えるだろう。今回は本当に疲れた。次回はもっと気軽な事件で済ませておきたいところだな。こういうのは年に一回ぐらいで充分だ。
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