116:事情聴取・竜円寺竜彦
翌日になり、出勤してさっそく竜円寺の取り調べが始まる。昨日と同じく両手両足に手錠をかけられた状態の竜円寺は差し当たって暴れたりもせず、大人しく聴取を受ける姿勢が出来ている様子だった。
取調室に入って内村課長と共に竜円寺の正面に座り込む。久々の大捕り物だったこともあり、ハーフミラーの向こう側には手の空いた職員がずらっと並んでこの光景を見ているんだろうな、という予想がしている。実際フィリスとカルミナは何かがあった場合の緊急要員として同席こそしないものの隣の部屋で準備はしてもらっているのである程度安心はできる。
「さて竜円寺、お望みの進藤を連れてきたぞ。これで色々と話してくれるんだな? 」
どうやら竜円寺は俺が同席するなら、という条件でまともに取り調べを受けるという話をしていた模様だ。俺はフィリスからその話を聞いていないが、どちらにせよ緊急時の制圧要員として同席する予定だったので問題はなかった。竜円寺が実は手錠を壊せるけど壊さずにいて、スキを見て逃げ出すという可能性も充分に考えられたからだ。
「いやあ、異世界の勇者同士が戦っているなんて前の世界に知れたら一体どういう反応をされるのかは気になる所ですね」
「こっちの世界で言えば、王権を脅かす人数が一人減って安心してるところじゃないかな。勇者なんて殺意の塊が減って、俺のいた世界の王族もほっとしてるんじゃないか? 」
「そうかもしれませんね。もっとも、こっちへ帰ってきて私より強い勇者がいるとは思いませんでしたが」
竜円寺は少し自分に対して皮肉気に、だが俺を立てるわけでもなく単純にあの状況で負けたのが純粋に悔しそう、という感じではあったがその奥底の感情までは出していないように見えた。
「では、取り調べを始める。竜円寺竜彦、一般市民を異能力者化させて犯罪を増長させた騒乱の罪に問われることになる。もちろん、異能力者化させて……というのは一般に対しては伏せられる形になる。そこについて問題はないな? 」
「大ありだ、と言っても聞いてはもらえないんでしょうね。異能力者が一般人にもそれなりの数いるという現実から目を背けているように感じます。そんなに異能力者というものが一般化するのが怖いですか」
「怖いな。我々はともかくとして、警官にも一般人はいる。一般人か異能力者かどうかわからない事件現場に一般警官を向かわせて二次遭難される可能性を考えたら、裏から手を回すような形になっても我々が密かに動いて事件の解決を図るほうが世の中を混乱の渦に巻き込まなくて済む」
内村課長は毅然とした態度で竜円寺の質問に答える。
「その陰で、自ら望んでなったわけじゃない異能力者が数多く居ても、ですか」
「お前の仲間、吉中杏だったか。彼女も含めて保護、あるいは異能力の除去をして一般人として過ごしてもらうこともできるし、除去されたという記憶そのものも改ざんして最初からそんな力はなかったようにふるまってもらうこともできる。それでも問題がある、と考えているんだな」
「そうです。いくら組織が発達していても警視庁そのものより大きいことにはならないでしょうし、自分でも気づかないうちに異能力を発揮して生活している人もいる。そんな人たちからも無理矢理力を奪うというのですか? 」
竜円寺は少し思い違いをしているように感じた。そこは訂正しておかないといけないな。
「我々は無理矢理能力を封印したりすることは原則としてない。犯罪に関わる場合を除いてはな」
「偶然犯罪に巻き込まれるような形になっていたとしても、ですか」
「そこは個別のケースで対処する。本人が望まないならそのまま生活をすることもできるし、戦力として貴重な異能力を持っているなら我が課にスカウトもする。暴れる場合は強制除去の上で一般犯罪に照らし合わせて罪を償ってもらう形になるがな。竜円寺、お前も異能力者の覚醒や異能力者の探索、合流、そして集団での行動に移したり、一般に異能力があると触れ回らなかったら、こちらから頭を垂れて力を貸してもらえるようにお願いに行っていた所だろうな」
まあ、勇者って時点で一般人は頭がおかしいとしか思わないだろうし、竜円寺の最初の動画もそんなコメントで埋まっていた気がする。
竜円寺は軽く笑うと、視線を内村課長へ向け、さあ、話を始めようという姿勢を見せ始めた。ここからがまともな話し合い、ということとなるのか。前置きとしてはこんなものだろうな。
◇◆◇◆◇◆◇
竜円寺側からの情報とこちらで把握している情報をまとめ、情報交換とそれぞれ確保されている容疑者、家に帰して後日事情聴取とした人員とを照らし合わせる。
先ほど話に出た吉中杏や安西美代についても同様だった。どちらもさしたる抵抗もせずに大人しく投降し、それぞれの異能力を正確に話していたことから、住所と居場所を把握したうえで監視付きの状態ではあるが普段通りの生活を保障しているため、呼び出せばすぐに応じられる状態にあった。
「ええ、その吉中さんに資金がこのままではマズイ、という話を聞かれ、安西さんの異能力と合わせて説得されました。いうとおりにして確かに事態は解決したんですがね。どの金貨が元々あった金貨で、どの金貨が増やした金貨なのかは彼女自身も区別が付けられないようですよ」
「らしいな。こちらでも魔力を感知して判別を試みたが難しいとの結果報告をもらっている。まあ、本来流通しないはずの金が世の中にちょっと増えた、というところだろう。世界のどこかで流通されている通貨でもないし、そこについては残念ながら通貨偽造で送検することは難しいという判断だ」
だとすると竜円寺に問える罪は公務執行妨害と騒乱罪、というあたりだろうか。
「それと、進藤との戦闘シーンだが、残念ながら一部が動画としてネットに流出してしまった。これは竜円寺が望んだ形なのかは解らないがな」
「異能力者の異能力がどれほどのものなのかを示すにはちょうどいい機会ではあったと思いますよ。私自身の異能力はとっくに公表してますからね。それと同等に戦える異能力者が存在していた、と世間に示せた意味では充分意味はあったでしょうね」
竜円寺は少し嬉しそうにそういい口角を少しだけ上げると、再びポーカーフェイスに戻した。
「気軽に言ってくれるな。おかげでこの後大目玉を喰らう予定なんだ。いくら人払いはしてたとはいえ、監視カメラもすべて把握してない場所でドンパチやってたことになるんだからな」
「これを機会に世間に示せばいいのですよ。異能力は確かにあるが、異能力を専門に取り締まる警察機構もまた存在すると。だから異能力を悪用して犯罪を起こすようなことは厳に慎むべきだ、と伝えればそれで終わりでしょうに」
「どう考えても終わらないだろ、マスコミの手も入るだろうしな。公の組織になった以上今まで隠していた色んな事件や事故、人的被害についても一つ一つ説明していかなければならなくなる。こっちとしてはそこまでしたくないんでな。それに何より外勤がしづらくなる。街のあちこちを浄化して回るにも色々と面倒なんだぞ」
内村課長が目じりを抑えてふぅ……と一息つく。お疲れ様です。この後京都府警からの事情聴取もあるだろうからできるだけ血圧が上がらない程度の取り調べで円滑に行きたいものだ。
「さて、そろそろ本来の目的に戻るか。竜円寺、お前は異能力者を増やして何がしたかったんだ? 」
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