113:対決、ジャガーノート 4
繰り出されていく竜円寺の斬撃を軽々と受け止めているトラバッシュであるが、欠けることはないにせよちょっと心配になってきた。このままやり合い続けていいのだろうか。いや、内村課長が来るまで持たせることは確実に必要だし、竜円寺の能力を封印するためにも弱らせるなりカルミナの手が空くなりさせないといけないわけだ。
竜円寺のほうも、このままでは中々勝負が終わらないと考えているのか手段とか戦い方を色々考えながら戦っている様子で、この様子だと結界を割るギリギリの攻撃でトラバッシュに聖剣技を重ね合わせて一気に勝負を畳みかけるしかないかな。
「どうしたんですか? よそ見とは感心しませんね」
竜円寺の剣撃が飛んでくる。トラバッシュで軽く反らせると、結界に当たり剣撃は音を立てて霧散した。やはり、聖剣と魔剣、能力は違えと性能としては同等と言ってもいいのだろう。竜円寺竜彦、伊達に勇者はやってきていないってことだな。
何度目かまた聖剣を構え、竜円寺の攻撃を待つ。もう少しの間受け身の状態で時間を稼いで、逮捕にこぎつけるまでの時間を稼ぐ。おそらく他の職員から映像なり音声なり報告なりの形で内村課長には報告がされているはずだ。現在進行形で起こっている事件について、現行犯で捕まえてもいいんだがそれ以外の金貨偽造なんかの罪については裁判所の捜索令状が必要だ。
そのためには竜円寺の現行犯での殺人未遂以外の罪でも裁けるようにしなくてはいけないし、今戦っている間にこの乱闘騒ぎに参加していない非戦闘員の参加者の罪状についても問わなければならないため、竜円寺一人を相手にしている訳ではない。今こうやって時間の引き延ばしをしている間に人を釘づけにしておく必要があるのだ。
「さて……もうちょっと付き合ってもらおうかな。せっかく楽しんで戦っているんだ。もっとテンション高めていこうぜ」
「私としては時間稼ぎの片棒を担ぎたくはないんですがね。でも、攻めきれないのは確かなようです。これは、私の作戦負けですかね」
「そうだな。あえて言うなら警視庁管内じゃなくて他の場所ならうまくいっていたかもしれないがな。内事六課には俺達がいる。こっちも伊達に勇者をやってきてはいないんだよ」
聖剣を肩にトントンと当てながら余裕であるふりをする。本当は結構ギリギリで、これ以上の力を使うなら結界ごと消し飛ばす勢いでないと竜円寺に決定打を与えられないのはわかっている。ただ、竜円寺自身もそれにうっすらと気づいてきているような気はする。
「進藤さん、令状下りました! 今内村課長が向かっています! 」
岬さんが叫ぶ。どうやら時間稼ぎはここまでのようだ。
「だ、そうだ。ビルの中も含めて一斉捜索させてもらうことになる。どんな話し合いを中でしていたか、資金源はどうしたのか、一通りのことは調べさせてもらう。まあ、どうせ調べても大したものは出てこないだろうが、警察の捜査が入るってことになればお前への人気も落ちるってことになる。ここで終わりだぞ竜円寺」
「なるほど、やはり時間稼ぎでしたか。では、こちらも逃げる時間が必要ですね。結界がどうのと考えている余裕はないようです」
竜円寺から力の奔流が漏れ出でている。どうやら本気で来るようだ。ならばこちらも全力で応対することにしよう。一気に魔力を噴出させ、竜円寺の期待に応えることにする。
「一撃で決めるぞ、竜円寺。多少肉体が吹き飛んでも治療は出来るから安心して腕でも足でも吹き飛ばされてくれ」
トラバッシュに全魔力を集中させ、構える。竜円寺もあっちの魔剣……名前なんだっけな。そこに魔力を集中させ、一撃で受け止める準備が出来ている、といったところだ。
「行くぞ、異世界の勇者」
「来い、異世界の勇者」
トラバッシュの魔力を開放し、刀身から白い光があふれ出る。周囲に張られている結界はミシミシと音を立て始め、今にも壊れそうだ。この一撃を放てば確実に結界は吹き飛ぶだろうが、竜円寺を止めるには一番わかりやすく確実な方法と言えるだろう。
そのまま剣を竜円寺に向かって撃ち放つ。竜円寺はその剣を受ける形でこちらの剣筋に合わせてくる。
「バニッシュ! 」
全てを無に帰す聖剣技最高峰の技であるバニッシュを打ち放ち、周りが光に包まれる。その瞬間頭の上からパリーンといい音が響いた。おそらく結界が耐え切れずに割れた音だろう。ここまでよく持たせてくれたとフィリスに礼を言いたいところだ。
竜円寺はその勢いを殺そうと魔剣に溜めこんだ魔力を俺の剣に向けて撃ち放ち、相殺しようとする。魔剣と聖剣がその切っ先をぶつけ合う。
「ぐう……っ」
竜円寺はかろうじて耐えながら魔剣の魔力を開放していく。お互いの魔力の奔流が渦を巻くように天へと上がっていき、上空の雲をかき乱す。
そのまま竜円寺は魔剣を構えたまま一歩も動かずに受け止め続ける。こっちはバニッシュの出力をどんどん上げていき、奴の魔剣が折れるまでどんどん魔力と威力を増していく。
二人の魔力が重なり合い、結界の開いた穴から漏れ出でては周辺に風と熱とを運び、まるで台風の中に居るような気分にさせる。フィリスは自分たち側にも結界を張り、魔力の余波で傷つかないように守っているらしい。そのまま周りの被害を気にせずに全力を出せということなのだろう。
安心して更に出力を強化。どんどん竜円寺を追い詰めていく。受け身で精いっぱいの竜円寺が小手先の技を使い始め、こちらの気を散らせるように炎や風の魔法が襲ってくる。しかし、その炎や風をトラバッシュに吸い取らせ、新たな燃料として追加させていく。
バニッシュはあらゆるものを無に帰す。周辺に漂う魔力も構造物も、全てお構いなしに自分の燃料として吸収し、さらに威力を増していく。
竜円寺の黒い魔剣の刀身とトラバッシュの白い刀身がぶつかり合い、それ以外が光に包まれていく。やがて、竜円寺の魔剣が少しずつ音を立てて消え始め、トラバッシュの燃料として吸収され始めた。
トラバッシュはそのままの勢いを保ったまま徐々に押しはじめ、竜円寺がその分押し下げられていく。
「ぐうっ……この……」
堪える竜円寺もかなり苦しそうな物言いをし始める。しかし、ここで手を抜くと逆に押し返される可能性もありうる。最後まで、そう最後までこのトラバッシュで押しきらないといけない。ここで終わりだ、竜円寺。
そして、しばらく……といってもほんの数秒だが、時間が経って竜円寺の魔剣が完全に消滅し、バニッシュが竜円寺の身体を包み込む。
やがて光の流れが止み、トラバッシュは元の刀身が見えるようになり、光が収まった。結界は……どうやらうまい具合に天上方向だけが割れたことによって周囲には被害は及ぼさなかったらしい。
周辺への影響は最小限で収まってくれたようだ。と言ってもめくれたり熱で焼けて黒く跡を残すアスファルトと、少し看板やビルの外壁に傷はついたが、パッと目に着くような被害はそれぐらいで済んだ。
竜円寺は胸元に一撃を受け、出血をし始めている。
「フィリス、治療を! 」
「はい! 今すぐ! 」
フィリスを呼んで竜円寺の身柄を拘束しつつも治療に入る。あくまで逮捕するのが仕事であって殺す気ではあったが本当に殺してしまったらこれから罪の精算をしてもらうことが出来なくなるからな。異能力者とは言え日本人だ、日本の法律できっちり裁かせてもらってその上で罪を償ってもらわなければならない。
タイミングよく、黒のバンが到着し、中から内村課長と公安の他の部署の人たちが出てきた。
「終わったのか? 」
「終わりましたね。ナイスタイミングです」
内村課長のシンプルな問いかけに対して、こちらもシンプルに答える。
「……いいんですか? 私を生かしておけばまた同じことをするかもしれませんよ? 」
治療を受けながらもまだ意識がある竜円寺がそう俺に問いかける。
「その時はまた捕まえる。何度でもだ」
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