112:対決、ジャガーノート 3
「悪いが他のみんなは下がっててくれ。ここからは俺も本気でいく。フィリス、結界の維持を頼んだぞ」
「はい、トモアキ様もお気をつけて」
俺の言葉にフィリスも下がり、結界の維持に全力を注いでもらう。
「他の皆さんも下がっていてください。巻き添えにするのは本意ではありません」
竜円寺も構成員にそう告げる。お互いここからは殺し合い一歩手前の勝負どころだ。こちらもアイテムボックスから聖剣を取り出し殺しにかかるつもりで仕切り直しをする。ここからさきは勇者同士の本気の戦いだ。
「それがそちらの勇者様の必殺武器、というわけですか。ちなみに名前は何というんですか? こちらのは魔剣ブラバント。聖剣に666の悪魔を殺させて血を吸わせた一品ですよ」
「聖剣トラバッシュ。同じ構造をした物体でないと破壊出来ないあっちの世界に二対だけしか存在しなかったその片方だ。この聖剣の一撃を止めるのは骨だぞ」
お互いに相棒の自己紹介が終わったところで、ピタリと動きを止める。動き出した方が負け、しかし動けば確実に相手を仕留められる、という状況の中、場が鎮まる。
二人の戦いを見始めた身内の職員も竜円寺の取り巻きも、こちらの戦いの見物に集中を初めてお互いの手が止まる。その間にカルミナは……こっそりと魔術を展開して、この場にいる全構成員の異能力を奪い取って自分のものにしようとうごめいているのが魔素の流れから感じ取れる。こうやって時間を稼いでいる間にそっちは頼んだぞ。
ほんの数秒が数分に感じられるほどの時間が経過した後、竜円寺が先に動く。俺の足首を狙った低い、とても姿勢の低いところからの一撃を、ゴルフスイングをするようにトラバッシュで受け止める。聖剣と魔剣のぶつかり合いはどちらに分があるでもなく、丁度中間といったあたりで攻撃を受け止め合い、お互いの剣が止まる。
そのまま一歩下がってから剣を振りかぶりなおし、今度はこちらから袈裟懸けにして竜円寺に切り結びに行く。竜円寺はその袈裟懸けを予測していたかのように剣を合わせ、二度目の打ち合いが終わる。
「どうやら剣自体の強さについては同格のようですね」
「そうらしいな。後はどっちの身体が鈍ってるかの勝負になりそうだ」
そういうと竜円寺も俺も一気に手数を稼ぐために連続で斬撃を繰り出す。お互いの斬撃を受け止め、そして打ち込みながら、剣圧による風圧が周りを襲う。
全身に聖剣の重みを感じながら魔剣の切り込みを受け止めつつ、小さな魔法を少しずつまとわせていく。聖剣に風の魔法を付与し、剣がぶつかり合う度に竜円寺の身体に切り傷をつけていく。
「なるほど、小手先の技を使い始めましたか。底が知れますね」
「全力で行くって言った割にえらく正道を走ろうとしているな。そちらこそ、本当に全力じゃなくていいのか? 正当防衛が成立するとは言い難い状況で小手先の技も何でもかんでも使わないと、俺には勝てんぞ? 」
竜円寺を挑発して冷静さを失わせていく作戦だが、多分効いていないだろう。それでもこちらが小手先の技で少しずつスタミナを奪っていく作戦だ。本気の本気で戦うと、せっかくフィリスが張ってくれた結界ごと消滅させかねないので口で言ったほど全力は出せていないのが現状だ。
「ふふ、どうやら本気を出すと結界ごと壊れてしまうのを恐れているようですが……私も同じですよ。こんな人や建造物の多いところでは全力を出しにくいのはこちらも同じですから」
「そこまで気を使ってくれる余裕があるのはいいが、余裕をかましていると足元をすくわれるぞ? 」
竜円寺の足元に土魔法で小さなくぼみを作って転ばせようとするが、魔力の流れを察知されたのか足元を微妙にずらして回避される。ちっ。
「随分小手先の技がお好きなようで、中々にご立派なお覚悟ですねえ」
「そっちこそ、実はこっちの攻撃を受けるだけで手いっぱいだったりするのか? なにもしてこないが」
斬撃の応酬が終わったところでお互いに一息をつく。一気に畳みかけることもできるが……果たしてそこまでやる必要があるのかどうかはまだ判断がつかない。できれば内村課長が到着してからの決着ということにしたい。そのほうがこっちも起訴する際の判断がつくことになるが……課長まだかな。
正直相手をするのが忙しくて他に回す気力と余裕がないのはたしか。これで竜円寺に小手先の技で向かってこられたら面倒なのでこっちが小手先の技を先に繰り出すことで竜円寺に対して遠慮というか今一歩及ばないような演技をし続けるのも疲れるんだ。
そもそも、現在のこっちの様子は内村課長に伝わっているんだろうか。誰か動画でも送って裁判所を急かすような材料を持ち込んでくれるとありがたいんだが。
「ところで、金貨はどうやって増やしてるんだ? 無限にあるとは言ったものの種はあるんだろう? 」
「物理的にコピーして本物を二つ以上に出来る能力者が仲間にいまして……ねえ! 」
喋りつつもそのスキを狙ってまた竜円寺が切りかかってくるのを受け止めて、そのまま鍔迫り合いの形になる。
「そいつは便利な異能力者もいたもんだ。うまいこと抱きこんで資金力の大幅アップ……ってか!? 」
「向こうから提案されたことなので私の一存ではありませんよ……と! 」
一旦離れて目に見えない斬撃を飛ばす。しかし竜円寺は勘か見えているのか、斬撃を弾いて明後日の方向へ飛ばす。斬撃が結界に当たり弾ける音が聞こえる。それだけの威力を込めた攻撃の応酬が続き、流石にちょっと一息入れたくなってくるが、その隙をついてくるだろうから中々手抜きが出来ないな。
しかし、物質が無限にコピーできる異能力か。かなりのデメリットを持った異能力だとは思うが、そういう異能力者を手元に手繰り寄せられているのはこいつの人徳と言えばそうなのかもしれないな。それだけに、異能力犯罪対策課になってしまった俺としてはそれは見過ごせない。
「まさか、コピー能力の使える異能力者の監禁とかしてないだろうな。そうなら拉致監禁罪もセットで今ならお得だぞ」
「向こうからぜひ使ってくれと言ってきた能力です。最小限の能力しか使ってませんしデメリットも充分説明した上での納得ですからね。おかげで随分資金繰りが楽になりましたよ。使える人物には自由にしてもらっていますのでお気遣いどうも」
やはり、市場にもいくつか流しているのは確からしい。残留魔力を調べないと本物かどうか区別できないのならそれは本物と言っても差し支えないのだろう。回収して調べるのは難しそうだな。また一つ他所の部署に貸しが作れることになるか。
そろそろ大技で一気に決めたいところだが周辺被害を考えると小技の応酬でなんとかスタミナを削り切りたいところ。向こうも同じことを思っているだろうが、仮にここで俺達に勝ったところで彼らは何処へ行くつもりなんだろう?
「今更だが、ここで仮に俺が負けたとして、お前たちに行き場所はあるのか? 」
「ないですね。探すための旅をするしかないでしょう。海外や人里離れた場所で隠遁生活をするか、異能力者を増やしてその中に紛れるしかないでしょうね。その為にも全ての人に異能力を付与するべく活躍しなければなりません。ここで、足を止めるわけにはいかないんですよ! 」
竜円寺の攻撃の激しさが増してきた。斬撃の速度が上がり、攻撃と共に魔法を使うようになってきた。ここをしのげればチャンスはまだあるな。持ってくれよ、聖剣トラバッシュ。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。




