107:ほころび
竜円寺竜彦に関する情報を集めていた第六課だが、竜円寺が定期的に会合を開いていることとそこで異能力者を集めていることまでは突き止めた。しかし、それを理由に逮捕することも話を聞きに行くこともできない。彼らは暴力団ではないので暴力団対策法を理由とした強制捜査や事情聴取を行うこともできない。
そもそも暴力団対策法は組織犯罪対策課の仕事である。内事第六課が手を出すのは少々やり過ぎだ。それをやるにしても向こうを納得させるだけの条件や理由を提示しなくてはいけない。今のところ何の犯罪も浮かんでこない状況では動けない。
相変わらず情報集めに周知徹底してるところで少し気になる情報を得ることが出来た。竜円寺が頻繁にリサイクルショップに通っている、という情報である。リサイクルショップで何を取り扱っているかまでは警察としても聞き取りを始めるような理由はないので棚上げになっているが、換金をしてそれなりの資金を稼いで自分の活動費に充てていることがわかった。
「これは……何を換金しているか調べておくほうがいいんだろうかなあ。ものによっては違法品の可能性もあるが、実際に出てきたわけではないから捜査令状を取れるほどの話にはなりえないのが現状だが、こっそり教えてもらうぐらいのことはしてもらってもいいとは思うんだけどな」
「そこは古物商のほうも実は痛い腹を探られないための話、というところかもしれません。ちゃんと住所と名前と物品についてはきちんと記録もしてあるし、取引金額についてもきっちり記載してあるそうだから、そこの手続きは問題ない、というところらしいですが」
情報を持ってきた岬さんに対して、みんなが感想を述べる。岬さんはちゃんと何を換金しているのか、という話まで聞いて来たらしく、金貨らしいことまでは把握していた。
念のため現物を借りてみたとのことなので撮影した画像を見せてもらった。確かに見たことのない金貨で、俺がいた世界とも違う意匠のデザインがされている。重さ通り額面通りで買い取ったということは、偽物の金や鉛で誤魔化したものである可能性は低い。
金貨の出来も現代技術で作られた精巧なものという感じではなく、鍛冶場や専用の工房で作った、と言った感じの少し手作り感のあるヨレたイメージのある金貨がそこには写っていた。出来れば実物を見たかったが……どこの店か教えてもらえればこっそり見せてもらうこともできるだろうか。
こういう時にこそこっそり自分の身分を使って強制捜査ではないけど協力をお願いするという体で現物を見せてもらって、本物かどうか、そしてその価値があるかどうか、そこの見極めをしておくのも悪くはない気がしてきた。
「とりあえず、本物として流通してるのは間違いないらしいが、これをあと何枚持ってるかで彼らの資金がどれだけ潤沢なのかがわかる。一体どれだけ出てくるのかが気になる所だな」
「試しに一枚預かってみて、金の含有量なんかを調べて本物かどうかを判別する必要はあるかもしれませんね。どこの店で換金したかの情報をもらってこっちでちょっと調べさせてもらうことは出来ませんかね」
内村課長と近藤さんは現物を確保できないかどうかについて興味があるらしい。たしかに、他の世界でも金は金なのかどうかは気になるな。どこの世界でも金が価値がある、ということは物質的な意味での共存はしている、という可能性はある。ミスリルがある世界とかオリハルコンがある世界とか、ミスリルが聖銀と呼ばれていたり。
どこの異世界でも金が価値がある物かどうなのかは気になる。もしかしたら竜円寺の居た世界では金はありふれた金属で掘れば腐るほど出てくるありがたくもなんともない世界だった場合、いくらでも資金源がでてくることになる。少なくとも兵糧攻めに持ち込むのは難しい、といったところだな。
「店を教えてくれればこの間の捜査の件で……ということで現物を借りてきて調査することはできますが、どうしますかね? 」
「念のため必要、と言いたいところだがまだ証拠物件として押収するわけにはいかないからな。本当に協力を仰ぐ、という形でお借りしてくるならまあ、出来るかもしれないな。それと、リサイクルショップで発見されたそれぞれの金貨について情報を集めておいてくれ。もしかしたら訪れたリサイクルショップの位置から、竜円寺の行動範囲がおおよそ絞り込めるかもしれんからな」
◇◆◇◆◇◆◇
内村課長からは許可が出たので、金貨が持ち込まれたというリサイクルショップへ行って現物をお借りすることが出来た。ちゃんといじったりしないのを理由に、きちんと名刺を置いて帰ってきたので何か問題が発生したら俺がそのリサイクルショップで支払われた分の金額を補填する、という約束だ。
もし損壊したらそこそこの金額を支払う必要が出てくるが、うちの部署も証拠品の扱いには慣れてるはずだ、ねじったりひねったりして損壊することはないだろう。
「というわけで現物を借りてきました。怪しいところがあるかどうかをチェックしておくぐらいしかできないが、一応重さと直径と厚さと意匠をもう一度チェックして、比重を計算して金貨の含有率を計算して、きちんと金が含まれているかどうかを確かめておくことにしよう」
その後水に沈めてみたり細かい写真を撮った後、重さを計って直径と厚みからおおよその比重を計算して、ほぼ金であることは確認できた。含有率は100%ではなかったがそれに近い値であることもはっきり分かった。さて、金貨にはできるだけ変化を起こさない範囲で一通り調べてから内村課長と相談をする。
「さて、後はこれが何万枚出てくるかですね。多分竜円寺もアイテムボックスを持っているだろうし、向こうでどれだけの資産を抱え込んでいたかにもよりますが、リサイクルショップが買い取り停止をするほどの量を持ち出して来たらこちらとしては対処のしようがありませんし、リサイクルショップで金を含んだ製品を取引するのは違法でも何でもありませんからね」
「しいて言うなら換金しすぎて所得税の払い忘れがあってそれを理由に組織の様子を調べる……ということにはなりそうだがそれには時間がかかるからな。ひとまずそのあたりはきちんと税務処理がされている前提で話を進めよう。進藤、お前の世界の金貨はどんな感じなんだ? 」
内村課長から一言言われたので、アイテムボックスから金貨を一枚取り出して見せる。
「一応俺にもわずかではありますがこういう蓄えはあります。流石に同じものが……というわけではありませんが、こっちの金の含有率は100%に近いと思います。これが……まあそれなりの枚数あります」
「隠し貯金があることはまあ置いといて、これが何十枚何百枚と出回った場合、金相場に影響を与えるほどとは言い難いが、古物商の間で評判には上がるだろうね。あの意匠の金貨は一体どこの国のものなのかと」
「勝手に金貨を鋳造して古物商に流している……そこまではいい。ただ、その金貨を鋳つぶしたり地金に変えたりする行為は外国通貨偽造罪か外国通貨変造罪に当たる可能性が高い。この場合、外国がどの国を指すかによるんだが……異世界の通貨が外国として認められるにはそれなりの流通量が必要だ。今の所は何処の国の金貨でもない、として流通するんだろうが、あまりに枚数が多いとそれも問題になり始めるだろう。それまでに竜円寺が行動を起こすかどうかが問題だな」
そんな法律まであったのか。地金を気軽に作ってはいけないとは知らなかった、もう少しで同じ道をたどる所になっていたか。早めに拾ってもらって正解だったか。さて、ここから得られる情報は何かあるかな?
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