105:自助会の陰で
side:竜円寺竜彦たち
「本日はお集まりいただきありがとうございます。竜円寺竜彦です。今日参加された皆さんはそれぞれ異能力持ち、ということでお互いに過ごしにくい実情や困っていること等を相談しながら、お互いに留飲を下げあってこれからも頑張って生きていきましょうという飲み会です。無理にお酒をのむ必要はありませんが、飲んでスッキリできる人は飲んで、飲めない人はせめて料理を楽しんでいってください。今日のシェフは彼です。彼は手にした食材の旨味を強くするという異能力の持ち主です。味は私のお墨付きですので、しっかり味わって楽しんで、感想を教えてあげてください。きっと彼も喜びます」
竜円寺主催の飲み会会場。今までの投稿や私も異能力者かもしれない、という話を聞いて、異能力だと判別できた人を集めてお互いに知己を得ようとする飲み会が始まった。費用はいつもながら竜円寺持ちである。
身体強化を高度な段階で維持し続けられる能力や、物体を改ざんしつつコピーできる能力、遠くのひそひそ声を聴き分ける能力等、様々な能力の所有者がここには集まっている。飲み会の席で用意される料理を担当するシェフも、触った食材の旨味を強くしてしまう異能力がたたって、オーナーシェフに勝手に味を変えたと難癖を付けられ職を追われ困っているところを竜円寺が拾った、という流れだ。
「あの、出来るだけ話すときは大きめの声でお願いします。ひそひそ声だとかえって大きく聞こえちゃいますので……」
ヘッドホンをしたままの女の子が先に自己主張をしておく。彼女は遠くのひそひそ声が近くの声に聞こえてしまう異能力の持ち主だ。近くの音は普通に聞こえるのにそれ以外の声も聞こえるということで耳の検査なども受けたが異常なしと判断され、遠くの声が聞こえてくるのが不思議だと常々思っていたのだが、竜円寺の動画を見て思い切って相談したところ、そう言う異能力もある、という風に判断された。
「竜円寺さんはいろんな異能力を同時に持ってますが、それも異世界の勇者だったから、という理由ですか? それ以外に何か特訓したりして手に入れた異能力もあるんですかね? 」
「そうですね、私の場合はほぼ全部が向こうの世界で身につけてきた能力と言っていいと思います。勇者として召喚された後、肉体的にも精神的にもしっかりと鍛えられて、その間に魔法も習得した、というところですね。仕事が終わってあっちの世界に残るか元の世界に戻るか選択することが出来たので、懐かしいこちらの世界に帰ってきた、というのが本当の所です」
竜円寺本人は酒にそれほど強くないが、主催者が飲まないのでは……という理由で多めに酒を注がれている。後で毒抜きをして二日酔いにならないように自分に治癒魔法をかけるのを忘れなければ翌日に酒が残ることはないだろう。
「あたしは物体を完全コピーどころか、一部を改造して使うことができるんだ。例えばねー。このビールグラスが……こんな風に! 」
そういう彼女はコピー能力者。物体をコピーし、更に一手間加えて同じようなものを生成する能力を持つ。彼女が試しに見せた技能は、ビールの入ったグラスをコピーして、更にビールの色を金色から緑色に変えて見せた。
「それ、中身は同じビールなの? 味が変わってたり、実はメロンソーダだったりしない? 」
「今回は同じ味のビールをコピーしてみたよー。でも、メロンソーダに出来たりもするかなー」
「便利ですね。お腹が空いててご飯が一杯しかなくても二杯三杯と増やすことができるんでしょ? 」
「うん、だから食べていくには困ってないんだよねー。この力のおかげで私は今ここでこうして生きていると断言できるねー」
わいわいきゃぴきゃぷとみんなが楽しんでいる姿を見ながら、竜円寺の理想に一歩近づいたと納得できるような光景が目の前に広がっている。
「竜円寺さん、今日の費用ですが……大体このぐらいかかりました。頻繁に行うなら毎回このぐらいの出費を覚悟してくださいね」
一時席を離れ、私的なアシスタントも務めることになった松江君からレシートの山を渡される。ふむ……やはり結構かかりますね、と竜円寺が眉間に皺を寄せる。
「これは毎回やってたら私の金貨の貯金も底を尽きてしまいそうですね。何とかお金を集めるべく手段を構築しないといけません」
「しかし、交流会を一回二回やっただけでは我々の自助組織としての役割が小さくなってしまいますし、異能力者同士の交流も少なくなってしまいます。計画倒れという形で自然消滅してしまう可能性はありますね」
「動画の配信でお金を稼いで行くのが現状できる手段でしょうか。それでも、またうまい具合に事件に遭遇して解決して……なんてことが偶然にも毎回起きてしまうようなら、それこそ自作自演を疑われてしまうでしょう。何とかお金を稼ぐ手段を得ないといけませんね。とりあえずあと数回は何とかなりますからその間に何とか考えましょう。その辺は私がしっかりしないといけない所ですから、せめて今日参加している方たちには解らないように安心して楽しんでもらうことが大事ですね」
竜円寺は眉間に皺を寄せるのをやめ、とりあえず当面は何とか自腹で持ち出す、ということになった。松江君のアシスタント費用も支払わなくてはいけないし、私的にシェフも抱え込んでしまった。資金繰りに悩むその竜円寺のつぶやきを聞いている異能力者が一人。
飲み会も盛り上がり、お互いの苦労している部分や得した部分、損してる部分を色々と話し合って、今後もお互い助け合えるところがあれば助け合おう、ということで飲み会はお開きとなった。
飲み会の帰り道、ヘッドホンをつけた女の子がコピー能力を持つとされる女性を呼び止め、話しておきたいことがある、と別の店へ誘ってそこで相談された内容を竜円寺は知らない。そして、そこから予定が瓦解していくこともまた、想像を超えた展開であった。
場所を変えて耳のいい異能力の女の子とコピー能力を持った異能力者二人、騒がしめのファミレスで密談を始める。
「で、私に話ってなにー? 何か能力のことで聞きたいことがあるとかー? 」
注文し終え、ニコニコと笑顔で女の子に話しかける。
「さっきの飲み会の途中で聞こえてしまったんです。竜円寺さん、お金に困ってるって。このままだと私たちみたいな人達を救い上げて異能力者は異能力者として集団で色々話し合う機会も作れなくなっちゃうって。お姉さん、お金もコピーできたりするんですか? 」
コピー能力の女性はうーんとしばらく考え込んだ後、五百円玉を取り出し、それを二枚に増やす。
「……できるんですね」
「できるし、消えたりもしないねー。私はこの力、コピーライトアンドペーストって呼んでるけど、本当はそれ以上のことが出来たりしちゃうんだー。例えば偽札を作って、ナンバーを違うものにして増やすこともできるんだよねー。代償は……自分のカロリーかなー。これ使うとすごくお腹空くんだよねー」
「その力で竜円寺さんを助けたりは出来ないでしょうか。私たち以外にも異能力者って呼べる人はきっと一杯いると思うんです。その人たちとも出会いたいし、悩みを共有したり、一つの物事を成し遂げるために協力し合えるんじゃないかって。その為に、お金の面で支援することはできないでしょうか」
女性はうーんとしばらく考えながら、飲み物を飲んでゆっくりと答えを出す。
「できるけどー……通貨偽造の罪は重いよー? ばれたら何年も塀の中から出てこれないしー、その為だけに竜円寺さんを危険にさらすことになるけど、それはいいのー? 私たち異能力者の評判まで汚すことになるよー? それだけのことは私にはできないなー」
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