104:休日
世間が色々と騒いでいるが、我々にも休みは必要だ。今日は休日。寒い中外へ出かけるのもおっくうなので、こたつを用意してその中に入り、三人でテレビを見ながらゆっくりとした時間を過ごしている。フィリスも今日はパソコンの勉強は一段落しており、なにもすることがないのでミカンをゆっくりむきながら食べている。
「そういえば、トモアキ様は竜円寺についてどうお考えなのですか? 自称とは言え同じ元勇者に関して何か言いたいことがあるのではないのですか。私にだけでも良いですから心の内を教えていただけると嬉しいのですが」
ミカンをむく手を止め、フィリスへの返事を考える。俺自身も勇者として異世界に出かけて帰ってきたわけで、目的はこっちの世界で何かをするわけではなくこっちの世界で今まで通り平和に暮らせればいいと考えていたわけだ。
それに対して竜円寺としては、人類が皆魔法を使えるようになるなら使えるようになって便利な生活を送っていくべきだ、と考えているらしいことまでは伝わった。それに対する答えは……
「こっちの人類には魔法はまだ早すぎる、もしくは遅すぎた、という所かな。もうちょっとこっちの世界で科学技術が発展していないような場合は魔法でそれを代替手段として新しい一歩を踏み出していただろうけど、200年程遅すぎた、というところかな」
もしかしたら産業革命前ならワンチャンあったかもしれないが、今の高度に発展した科学技術の中で新しい異文化を受け入れられるかというと、微妙な所だろう。
「では逆に、今の人類には早すぎる、というのは? 遅すぎたほうの理由は解りましたが早すぎるほうの理由がわからないのですが」
「魔法を受け入れる準備が人類にまだできていない、というところかな。更に科学技術が進歩して、魔法と同じことができるようになって、その頃に魔法も存在してました、となると、これはそれぞれの概念の技術レベルが揃うところで均衡を保つはずだ。今の状態で魔法を使われても、悪用されて捕まえるほうに労力が割かれるのでは社会的混乱を招くだけだと思う。そういう意味でまだ人類には早い、という表現をしたが、伝わったかな? 」
フィリスは俺の意見を聞くと、こたつの中でぬくぬくしているカルミナの口にミカンを放り込みながらも話をしっかりと聞いており、喋り終えると疑問を呈しだした。
「では、今私たちがしている仕事についてはどうお考えなのですか? こちらも魔法みたいなものですよ? 既に存在する魔法という概念に近いものをどうやって処理しているのか、という点については説明が矛盾するような気がいたしますが」
「その点については、ソフトランディング……つまり軟着陸させることで一般には感じられないようにしている部分が上手く作用しているというところかな。ほら、神社や寺でもお祭りや祈祷なんかでイベントを行っている、という形になっているだろう? あれが実はこれこれこういう理由で魔法に似た概念として作用しているんだと説明が付けられる。それを見えないところで頑張ってくれていてありがとうって思うか、隠していてズルいと思うかは人それぞれだけど、民間の中にうまく落とし込んでいるのが現実なんだ。そこを無理矢理暴いて表立たせるようなことになると、また一悶着起きた後に何らかの事件という形で発生する可能性が高くなるよな」
異能力者の存在が明るみに出たとして、それを派手に利用して良い理由にはならない。何かしらの首輪なり制限を付けた状態で運用されるならまだしも、それを大手を振って皆に使えるようにして魔法や魔術、陰陽術やスキルという概念がこちらの世界に具現化された場合、その混乱は日本だけでなく世界規模で混乱をきたすことは充分考えられる。
そうなれば外国にもあるだろうその手の機関からの横やりや苦情が来ることも目に見えているので、出来るだけ国内で留めておかないといけない事案ということになる。しかし、ネットに上がってる以上海外にも発信されてしまっているのが現状なので、今更誤魔化すことはできないだろう。
「なるほど、トモアキ様としては現状維持をお望みなんですね。裏方は裏方で仕事をしていてそのまま回っていたらそのままでいい、と」
「まあ、本当は裏方仕事にも回りたくなかったというのが本音の所なんだが……今こうしてゆっくりできているこの時間を一番大切にしたいとは思ってるよ。忙しいけど倒れるほどじゃないし、のんびりする時間もこうして二人でいられる時間も必要だしな」
「私カウントされてなくない? 」
カルミナの小さい苦情はともかく、今こうしてゆっくりしていられるのも異能力者犯罪や瘴気関連の問題が起きていないことが大きい。もしこれで各地で異能力を身に付けたものが暴れ出していれば土日も返上であちこち駆けずり回らなければいけないのだ。
やはりこの平穏をゆっくり楽しむためにも異能力者のパイの数は少ないほうがいいし、組織みたいなものが出来上がらないほうが都合がいいと。
「結局、事後処理しかできないのが今の組織の弱みかなあ。何かが起きてからじゃないと何も動けないのが公安とはいえ警察のダメな部分……いや、なにもしてないのに捕まえるのもおかしい話だけどさ、それでも、母数は小さいほうがいいんだ。俺みたいに異世界に呼ばれて帰ってくる人数も、そもそも行く人数自体が少ないほうがいい。俺や竜円寺みたいに数日で帰って来られるならまだしも、帰ってこないとかいう話になれば行方不明のまま探し回って待ち続ける家族はいなくて済む」
「たしかにそうですね。私たちにとっては誘拐してきたのと同じ意味ですから……でもそうすると、私たちも誘拐犯ですが、私とカルミナを連れてきたトモアキ様も立派な誘拐犯ということになりますね」
「そっちは勝手についてきたんじゃないか……ま、今更詮無きことだ。それは忘れるとして、異能力者の集団と対決しなきゃいけないようなケースが発生しないためにも、竜円寺にはこのまま不思議なマジックお兄さんとしての地位を築いたままにしていてほしいな、という願いはある。そのほうが物事が先鋭化したり過激化しなくてすむからな」
カルミナがムクリと起きあがって新しいミカンに手を伸ばす。ポテチの次に気に入ったのかな。
「人に限らず個性が集まると調子に乗るものは一人二人と言わず出てくるものよね。集団化したら手を付けられなくなる可能性もあるってことよ。そうなったら第六課だけでは収まらない話になるかもね」
新しいミカンをムシャムシャしながらカルミナがわかったようなことを……いや、こいつの場合体験談の可能性もあるか。
「まあ、大体そんな所だろうな。次はどんな手を使ってくるかわからないが、今の所強硬手段に出るような態度は見せてない。多分ダーククロウの一件が検挙されたことで懐柔路線で行こうとしてるんじゃないだろうか。それにしては新橋駅での破壊騒ぎは何だったんだろうという話にもなるが、二回やってみて二回失敗したから三回目はやめとこう、となったのかもしれないしな。何にせよ、大人しい間が逆に不気味ではある。いっそのこと居場所を吐いてくれてこっちとあっちで談判するような形になったほうがまだマシと言えるのかもしれないな」
果たしてこっちから連絡をつけて素直に出てきてくれるかはまた別の話だが……少なくともこれ以上被害者が出ないで済むのは間違いないだろう。なにかこう、うまい手はないものかな……
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