101:表彰
動画が終わり、皆で感想を語り合う。そして、一つ面倒なことが起きてしまったというのはみんな共通の思いらしい。
「表彰されるほど社会に貢献している人物を我々は捕まえようとしている訳だが……それはそれ、これはこれ、とうまく折り合ってくれるもんかな」
「消防士が放火してたって話もあるぐらいですし、もしかしたら自演で山火事起こしたんじゃないのか、という意見もありましたね。トラブルを装って実は自分でこっそり火をつけていて、その間に撮影して自分で消しに行って……という話です。それはそれで筋は通るのですが、空を飛んでいったことと水を発生させたことに説明がつかなくなるので、彼が異能力者であることを更に裏付けることにもなります。どっちに転んでも美味しい思いをした、というのが竜円寺の心境でしょうね」
全員首をひねってうーんとうなる。画面には、地方新聞の一つの欄として、山火事を早期発見し鎮火に協力してくれた自称異能力者の竜円寺竜彦氏、としてしっかりと賞状を受け取る姿が記念写真としてネットにアップされていた。
「流石に住所とかは書かれてないか。書かれてたら乗り込んで検挙ってことに出来るだろうけど」
「その辺はうまいこと誤魔化しているんだと思いますよ。しかし、これで一躍とまではいかなくともそれなりに有名人になりましたか。目論見としては一応成功させちゃったことになりますね」
「山火事を無事に鎮火させてくれたことについては感謝はしておかなきゃいけないところだが、それはそれ、これはこれだからな。仮に社会的に役立った人間であっても罪は罪だ。今後の動きが余計にわからなくなったが、もうちょっと尻尾を出してくれるような話があればよかったんだけどな」
これは果たして竜円寺が望んでいた展開なのだろうか。偶然とはいえ山火事に遭遇して消火して、それを理由に目立ってしまった、という流れは目立つという目的自体は達成はされているものの、いい人として有名になっているのはいいのだろうか。
同じような異能力者がいれば仲間を募集したい、という一つの目印にはなった可能性はあるのでこれで囲いというか、同様の能力を持つに至った人々を導く存在としてはいい方向になるのだろうか。うーん、このままだと悪の組織というよりは良識ある異能力者組織、というイメージが付いてしまうな。そうなると異能力者犯罪対策課としては手出しができない。
今のところ悪いことは表向き何一つしてないわけだし、いい意味での異能力者の募集広告になってしまっている本件は既に数十万再生を叩きだしており、動画の長さにもかかわらずかなりの人気コンテンツとなってしまっている。
感想欄も「事前の氷魔法や火魔法や爆破は何とかなるにしても、空飛んだのと奥で大量の水みたいなものの説明はつかんだろ」とか「空飛べるのか……じゃあなんで前の動画で飛ばなかったんだろ」とか「俺の近所だったんだけど山火事が広がらなくてよかったわ」だの、好意的に異能力を認めるようなコメントは多い。
このままだと実は警察にも似たような異能力者専門の組織があるんですよ、なんて語りはじめられたらこっちも隠しようがなくなってくる。それを狙って全てを計算づくで、山火事も起こしたんだとしたら用意周到な人物であることには違いない。
ただ、実況見分をしたであろう消防署のほうから火付けである可能性が出てこない以上やはりあの山火事は自然発火であり、偶然居合わせた竜円寺が活躍した、とここは素直に受け取るべきなんだろうな。
「逮捕、警戒する必要が本当にあるのかどうか疑わしくなってきましたね。異能力者に関する部署としてはマークして置く人物に他ならないのは確かですが、それ以外の理由がなければ竜円寺にお話を聞く機会を設けてもらうことも難しい、というのが現状でしょうかね」
「いっそのこと向こうから出向いてきてくれないもんかな。そうすりゃまとめて検挙なり異能力の分離なりをして一般人として生活をしてもらえるようになるんだが」
しかし、それはそれで問題でもあるのではないか。せっかく持ち寄った異能力、社会のために使うであるとか、犯罪捜査のために使うであるとか、異能力そのものを持っている者は悪ではない。もしかしたら歌舞伎町の一件も、暴力団関係者によって牛耳られているよりは異能力者による団体で占拠してしまって風通しの良い歌舞伎町に変えようとしているその途中で我々が乱入した結果なのかもしれないし。
これは多角的な面から竜円寺の行動を見守ることが必要になってくるかもしれないな。本当に敵とするべき相手なのかどうか。そこが重要だ。
何より、世の中がそれを受け入れていくのかどうか、という点でも不思議はある。異能力者が居るんだ、ふーん、へえー、そうなんだー。で終わってしまえば我々も竜円寺も肩透かしを食らった格好になるのは間違いない。やはり部署として竜円寺に話し合いを申し込んで目的と手段、そして目指すべき方向性という物を見定めるフェイズが必要になってくるかな。
「現状で竜円寺を罰することができるとすれば……航空法違反ぐらいしかないですが、人間を人工物と認めるかどうかで議論があるでしょうし、現場周辺は航路から離れているので無理筋の意見ではあると思います。一応参考人として聴取に応じる可能性はありますが、そのまま逮捕、という流れにはできないでしょうね」
近藤さん、真面目にどうすれば逮捕なり事情聴取なりをする方法を考えてたのか。律儀だな。でも確かに、人間が空を飛ぶことを想定した法律ってのは現状存在しないだろうから、そこについてはまだまだ異能力者専用の法律みたいなものが必要になってくるだろう。
「とりあえず現状こちらでは手の打ちようがない。また動画を上げて今度は何をしでかしてくれるか、というのを冷静に見定めるしかないか」
「山火事が広がらなくてよかったね、ぐらいの感想しか思いつかないのですが」
「現状それしか感想が浮かばないのが何ともな……ただ、竜円寺個人の戦闘能力は相当高いことは解った。進藤、あれと勝負できるか? あの竜円寺のスキルを見て、勝てる方向に持ち込むことはできるか? 」
内村課長はいざ戦いとなったら竜円寺に俺をぶつけるらしい。使っていた魔法の種類と空を飛べること、それから色々を考えると……
「まあ、絶対無理、とまではいきませんが苦戦はするでしょうね。条件はほぼ同じ、とみるのがいいと思います。こっちも隠し玉はありますが、竜円寺にも当然それはあるでしょうし、その能力は隠して本当に戦況がまずくなった時の切り札として取っておいてあるはずです。それがどれだけの実力を持っているかによるでしょう。もしあれが全力だったとすれば対処はそれほど難しくはない、というところですね」
素直に自分の実力と比べて現状の竜円寺評を出しておく。
「それにこっちにはフィリスとカルミナがいますので、一対一で必ず挑まなければいけない、というわけでもないでしょう。相手の人数や戦力乗数にもよりますが、まとめて倒してこっちの戦況を楽にしたうえで戦いを挑む、という方向性で行きたいですね。こっちも組織ですから結束力を大事にして同時に戦闘が始まらないように持っていけるのがベストでしょう。向こうの指示されるがままこちらが出向いて罠を張られるよりは、こちらから出てこざるを得ない状況に持ち込んでいくのがいい方法だと思いますね」
相談は終わり、現状要注意観察という状態を継続するということで今日の話し合いは終わった。まどろっこしいことこの上ない、いっそのことどこかでお互いにらみ合っての戦闘開始、となれば話は早いのになあ。
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