100:山火事
「内村課長、竜円寺たちの新しい動画がアップされてて、色々と大変なことになってます」
しばらくしたある日、近藤さんがパソコンの前で内村課長に声をかける。竜円寺からの新しいアプローチが示されたということになるな。でも、何が色々と大変なんだろう。
「具体的に言うと、何が色々大変なんだ? 」
「地方新聞レベルですが……竜円寺竜彦、山火事を早期鎮火させたことで表彰を受けてます」
飲んでいたお茶をゴホッと気管支に入れるお決まりのしぐさでむせると、内村課長がパソコンをいじりだし、当該の動画を鑑賞し始めた。俺も暇だし情報集めのために、再生数のネタになるのは癪だが情報は必要だ。しっかり見物して何が大変なのかを見定めることにしよう。
動画タイトルは「異世界の魔法使ってみた! 」となっている。異能力者の勇者であることを示すためにはそういうアピールは必要だろうな。
「どうも皆さん、竜円寺竜彦です。本日は、前回の動画がマジックではないのか? タネも仕掛けもあったんじゃないのか? というご意見が殺到してましてですね、私としましては否定しているのですが、私自身は何かできることはないのか? ということになりまして今回ちょっと出張とお金を使って採石場跡地に来ております」
竜円寺の後ろが示される。広大な敷地にどこかで見たことのある風景。特撮なんかでよく使われる戦闘と爆破を伴うようなシーンで使われていたような、懐かしさを覚える場所だ。
「少々出費が痛かったですが、これも皆さんにCGや手品じゃないよ、本物の魔法だよ、ということをお見せするために、広い場所を借りました。では、早速やっていきましょう。まず、土魔法で塹壕を掘ります」
竜円寺がサッと手を上げると、地面が盛り上がって段差ができ、更に地面を掘り下げて壁のようなものが出来上がった。
「この通り、土属性の魔法を使って簡易な塹壕を作りました。どうですか、堅さも中々立派ですし、これを一瞬で作れるのは魔法以外では存在しないと思います」
そう言って竜円寺が塹壕の壁を殴って見せる。そそり立った壁は高さこそそれほどないものの、撮影係も触って殴って音の感覚から、ちゃんとした構造物であることを確認している。
「次に……そうですね。氷を生み出して見せましょう。何もないところにいきなり氷が現れる、というのもマジックではないという証明になるかもしれません」
竜円寺がそのままのノリで、指をパチンと鳴らす。すると、今まで何もなかったところに氷の塊がドン、と落ちてきた。直径は二メートルぐらいあるだろうか。中々の出力だな。しかし、これを軽々と見せられるということは手の内はまだまだあるってことだろう。
「これがCGか本物か? というのをかくにんするため、撮影係の彼に削ってもらってかき氷にして食べてもらいましょう。お願いします」
撮影係を竜円寺に交代して、撮影係をやっているらしい覆面をかぶったもう一人が氷をノミで削り、かき氷器にセット。そしてガリガリと削り始めると、イチゴのシロップをかけて食べ始めた。
「なんか、普通の異能力紹介みたいな動画になってるが大丈夫なのか? どの辺から問題が発生するんだ」
「動画の最後のほうになるのでかなり飛ばすことになるとは思いますが……とりあえず竜円寺が色んな属性の魔法を使えることはこの動画で確認できると思うのでそこはしっかり見ておいたほうがいいと思います」
「そうだな、よし、長いが我慢してみることにしよう」
近藤さんと内村課長が雑談をしながら動画を見合っている。
「カルミナ、あの位の氷魔法なら今のお前でも使えるか? 」
「どうかしらね。現役時代だったら見える範囲全部凍結させるぐらいのことは出来ただろうけど今の姿じゃねー。あの大きさの氷ならかろうじて出せるってところかしら」
カルミナが冷静に戦力分析をしつつあるなかでも、動画は止めずにそのまま進める。
「美味しいですか? 」
「ひんやりしてて美味しいです! 」
竜円寺と撮影係ののほほんとした風景を後ろに、なんだか白い煙が立ち上っているのが見える。あれかな、山火事の元は。
「さて、氷も出せることも確認できましたので、この氷は砕いて熱して消してしまいましょう」
竜円寺が撮影係から主役に戻り、雷魔法のようなもの……この場合、ようなものというほうが表現として正しいだろう。俺みたいに上空から雷を落とすのではなく、手元から雷を打ち出して氷の塊を細かく砕く。そして、火魔法のようなもので温めて一気に蒸発させる。蒸気で一時的に画面が見えなくなるが、氷が溶かされていったのは間違いないらしい。
「火魔法も中々高出力だな。氷を一瞬で溶かすにはコツがいるんだよ」
「そうね、私も火魔法で氷を解かす練習をしたことあるけど、氷や雪ってなかなか火では溶けにくいのよね」
俺と同じ画面を覗いている鈴木さんからも納得の太鼓判を押されたようだ。異能力者じゃなかったらCGでいくら金使ってるんだよ、という話にもなる。
「では、最後にお決まりの爆破をやって終わりにしましょう。これもCGだと言われるかもしれませんので、何もないあの壁に向かって爆破魔法を使うことにします」
そういうと、竜円寺が戦隊ヒーローが崖から飛び降りることになりそうな中腹当たりめがけて爆破魔法を放つ。ズン、という深い音と主に閃光と爆破音が画面に入り込み、綺麗に爆破シーンが決まった。
「こんな所で本日の証明は終わりにしたいと思います。チャンネル登録といいねを……なんだあれ」
竜円寺が後ろを振り返ると、さっきの白い煙が上がっていた地点からちらちらと赤い光が漏れている。
「私の爆破魔法が飛び散って何かが起きたというわけではなさそうですがもしかすると山火事かもしれません。ちょっと見てきて、山火事なら鎮火してきます。しばらくカメラ回しててね」
そういうと竜円寺は空中に浮きあがり、素早く空を飛んで現場近くまで小さくなっていくのが見えていった。それを追いかけるカメラ。すると、カメラの向こう側で大量の水が降り注ぐ姿が確認できる。どうやら水魔法で大量の水をかけて山を鎮火させようとしているらしい。
「ここか、問題のシーンは」
「はい、バッチリ消火シーンが撮影されちゃってます。再生数を一番稼いでいるのもこのシーンですね。何事もなかったかのように空を飛んで行って水を大量に生み出して木々にかけていっている小さな竜円寺の姿、ということでこのシーンを切り抜いて無断アップロードしてるアカウントもいるようで」
しばらくすると、消防車の音が聞こえてきた。どうやら山火事が起こっているらしい、という話を聞きつけて地元の消防士が駆けつけているようだ。その頃にはもう火はほぼ鎮火していて、後処理を任せて竜円寺が空を飛んで戻ってきた。
「どうでしたか、火のほうは」
撮影係が竜円寺に確認している。
「どうやら一旦は落ち着いたみたいなので帰ってきました。冬は湿度も低いですから山火事が発生しやすいんですよね。後は地元の消防士に任せればいいと思います。彼らはプロですから、プロの仕事はプロに任せるのが一番です。初期消火で狭い範囲でまとめられたのも好都合でしたね。あまり範囲が広いと私の水魔法も苦手な部類に入るのでそれも幸いしました。それでは、これでジャガーノートには異能力者が存在する、ということをアピールできたかと思います。本日はこれまで、ということで。ご視聴ありがとうございました」
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。




