10:ブラック慣れ
ダンジョンで潮干狩りを
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マツさんのゲル
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また日常が、始まる。土曜日はフィリスの買い物、そして日曜日は荷物整理のどさくさで現れた魔王の幼生体、カルミナによって落ち着いた休みを送ることが出来なかった。荷物整理の度にカルミナが茶々を入れてくるため、まだ半分ぐらいしか終わっていない。残りは次の土日に引き続きやることになるだろう。
さあ、今日も上司のかなりきつい無茶ぶりとブラックっぷりを発揮するこの仕事、辞めて他の仕事に転職するのも前は考えたが、どうせなら本当にきついところまで自分を追い込んでみて、それ以上は無理! となった場合にあっさり辞めるほうが自分の忍耐力も付いて健康的なのではないか? と思い始めた。
「進藤! 先週は良かったがだからと言って今週もうまくいくとは限らないからな! 早速明日の打ち合わせの資料づくりだ! 」
今日も角田部長は元気である。それだけ元気があるなら自分でやればいいとも思うが、部長には部長なりの責任と仕事があるんだろう。自分でやれない分をこっちに回していると考えれば、重責のほうは部長に一任してしまって一兵卒として働いていくのも悪くはないんじゃないだろうか。どうも、兵卒の進藤です。
明日の打ち合わせの資料……この辺りか。まずは資料が量として充分かどうか集めてみてから相談、その後で資料の必須な部分、あったほうが良い部分、なくても構わない部分と分けてしまうことにするか。
手順が分かれば仕事もやりやすいというもの。角田部長の「進藤! まだか!! 」が飛んでくる前に資料を集めるだけ集めてしまって一度確認する方向性で行こう。
一時間後、角田部長に確認。資料がこれで揃っているかどうかと、確実に要らないと思われる部分の確認をしてもらう。
「そうだな……これは要らない、これは絶対に要るからトップに乗せるぐらいの勢いで作っていけ。それから……続きは全体図が出来てからだな。今日はなんだかやる気あるじゃないか。普段からこのぐらいの気概をみせていけよ! 」
角田部長から褒められてしまった。ちょっと嬉しい。よし早速続きを作っていくぞ。今日一日かけてゆっくりとするわけじゃなく、出来る所まで進めて随時相談、それから資料のまとめと打ち合わせ前の打ち合わせだ。頑張っていこう。
「今日はまた一段と張り切ってるねえ進藤さん。何か週末にあったの? 」
「今友人がこっちに長期で泊まりで来てるんですよ。そんなわけでできるだけ早く仕事を終わらせたくって。ブラックだからって待たせっぱなしというのも悪いですからね。今日は出来るだけ早く帰りたいところです」
隣の席の藤原さんがニコニコしながら声をかけてくる。パソコンに集中しながらも適当に返事をしておく。
「ふーん……女の人? 」
なぜばれたんだろう。
「会うまでは男だと思ってたんですけどね。実際会って見てびっくりですよ。泊まるところないから仕方なく自宅警備員してもらってるところです」
「じゃあ、帰ったらおかえりなさいって言ってもらえるんだ。いいなあそういうの。私もそういう人見つけたいなあ」
まさか異世界から連れてきましたとは言えないし、半ば強引な形で連れてきましたとも言い難いので適当に濁しつつ話をするが、話が連鎖していってしまった。藤原さんは絶賛彼氏募集中らしい。このブラックっぷりではなかなかそういう機会に恵まれないということもあるだろう。
「進藤! 喋ってる暇はないぞ! 手動かしてるのか? 」
「はい、あと十五分ぐらいでさっきの件は終わります。その後で資料作成に入ります」
角田部長も、手を動かしてるならまあいいか……とここ数日の俺の豹変っぷりに少し戸惑っているらしい。いやあ、こっちのブラック生活は肉体的疲労が軽めで非常に楽だな。
肉体的に楽だということは、この六つに割れた腹筋も元に戻って行ってしまうかもしれないな。それはそれで平和だが、せっかく寄り添ってくれた筋肉にはそのまま寄り添い続けてもらいたい気持ちもある。昼は軽めにして家に帰ったら軽く筋トレをして維持する方向性でいくか。
◇◆◇◆◇◆◇
今日も一時間残業で仕事を終えた。明日の打ち合わせの準備はバッチリ。角田部長が帰る前に確認を取ったが、多少の誤字の直しと全体図のイメージを整えるだけでかなりマシになるだろうとお墨付きをもらえたので、それを直してからの帰宅となった。
帰り道にコンビニでポテチを買って帰るのを忘れない。これがないと我が家の問題児が暴れだすことになってしまうからな。さて、ポテチと言っても色々種類がある。それを一種類ずつ買っていって、気に入った味が定番なら定期購入、限定品なら諦めてもらう、という流れにしておくか。
コンビニでポテチとコーラを買って今からだらりと終業の後の楽しみ、という風な見せかけをすると、そのまま家へ戻る。今頃、ポテチはまだかとカルミナが騒いでいそうだが、帰ってくるのは早くても後三十分ぐらいですからその間ぐらい大人しく待ちましょう、とフィリスが宥めている光景が目に浮かぶ。もしかしたら朝渡してこれが今日の分、としてやる方が上手く回るのかもしれないな。
そうなると家に在庫があったほうが……いや、目ざとく見つけて約束を破って食いに走る姿が目に浮かぶ。やはり仕事上がりに一つ買って、明日までの分として毎日渡す方がメリハリがついていいだろう。カルミナにとってもこっちは異世界、同じ常識が通用するとは思っていないだろうからな。あんななりだが中身は魔王だ。
それに魔王というより今のカルミナは小悪魔と呼ぶ方が形状的にも実力的にも近い。小悪魔なら契約はきちんと履行するべきだろう。そう思って家の扉を開けて中に入る。
「ただいまーっと」
「ポテチ! 」
「おかえりなさいトモアキ様」
それぞれ違う返事が返ってきた。ポテチは挨拶じゃないぞ。
「約束通りポテチは買ってきた。フィリス、カルミナは今日一日大人しくしてたか? 」
「ええ、ふたりでぱそこんでいろいろ学んでおりました。トモアキ様、このぱそこんは凄いですね。何万冊もの魔導書がこの箱の中に入っていると思うと胸が躍ります」
どうやらパソコンの使い方をフィリスから更に学んで、色々と勉強していたらしい。
「そういえば今更なんだが……会話と文字の伝達ってどうなってるんだ? 」
「それはですね、トモアキ様がこちらに来られた際にも適応されたと思いますが、召喚された場所の言語を頭の中に自動的に覚えさせられる、という形になっています。だから、私もカルミナもにほんご? というのは問題なく扱えることになります。漢字だって読めますよ! 」
えへん、と平た目の胸を張って凄いでしょと主張するフィリス。凄いのは君じゃなくて召喚魔方陣を編み出した人だと思うが、それを扱えるフィリスも凄いということにしておくか。
「しかし、こちらの言葉はにほんご以外にも色々あるんですね。共通語で統一されていたあちらとは違うものなのでしょうか」
「あー……まあそこは世界の不思議の一つだな。方言みたいなものが世界に広がってしまった結果というべきか。こっちは大地のサイズも国のサイズもスケールが大きいからな。同じ国で一つだけの言語でほぼやり取りが完了してしまうような場所は少ないと思うぞ」
思えば、日本語さえあれば基本的に全ての言語的問題が解決する日本ってすごいんだな、と改めて思う。しかし、見た目外国人のフィリスが流暢な日本語を喋れて外国語が一切話せない、というのもなんだか違和感の塊のような気もするがそれはこの際捨て置くか。意思疎通が出来ればそれでいいのだ。
「さて、夕飯にするか。今日は早く帰ってこれたから夕食を作る時間がある。何を食べようか……」
「お豆腐はありますか、お豆腐はすべてを解決してくれます」
「お豆腐は土曜日に買ってきた奴がまだあるからそれはそれとして、それ以外に何を食べるかだな」
フィリスは豆腐があれば何でもいいらしい。案外安っぽく済みそうだな、というのはここだけの話にしておこう。
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後毎度の誤字修正、感謝しております。